「スティーブ・ジョブスのスピーチ②My second story is about love and loss.」(三幕構成分析#8)

スピーチ全文+日本語訳

前回に続いて2つ目の話を三幕構成で分析していく。

My second story is about love and loss.
2つ目の話は愛と敗北です。

「主人公のセットアップ」
2つ目の話でも改めて主人公のセットアップが行われる。この作り方は映画の続編の作り方でも使われるし、1つ目の話の「ミッドポイント」で頂点に達した後の状態と捉えれば、1つ目の話の続きともいえる。スティーブ・ジョブスの3つの話は、それぞれが三幕構成を持っていながら、同時に3つの話が全体として三幕構成にもなっているのである。

I was lucky I found what I loved to do early in life. Woz and I started Apple in my parents garage when I was 20. We worked hard, and in 10 years Apple had grown from just the two of us in a garage into a $2 billion company with over 4000 employees.
私は若い頃に大好きなことに出合えて幸運でした。共同創業者のウォズニアックとともに私の両親の家のガレージでアップルを創業したのは二十歳のときでした。それから一生懸命に働き、10年後には売上高20億ドル、社員数4000人を超える会社に成長したのです。

「カタリスト」
ストーリーでいうところの最初の事件「カタリスト」が改めて起きる。(※3つの話全体を三幕構成として捉えるなら、ここは「フォール」にあたる。)

We had just released our finest creation -the Macintosh- a year earlier, and I had just turned 30. And then I got fired. How can you get fired from a company you started?
そして我々の最良の商品、マッキントッシュを発売したちょうど1年後、30歳になったときに、私は会社から解雇されたのです。自分で立ち上げた会社から、クビを言い渡されるなんて。

「ディベート」
ストーリーでいう悩み・迷いの時期が続く。(※3つの話全体を三幕構成として捉えるなら、ここは「ディフィート」「オールイズロスト」「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」の過程にあたる。)

I really didn’t know what to do for a few months. I felt that I had let the previous generation of entrepreneurs down – that I had dropped the baton as it was being passed to me. I met with David Packard and Bob Noyce and tried to apologize for screwing up so badly. I was a very public failure, and I even thought about running away from the valley.
1カ月くらいはぼうぜんとしていました。私にバトンを託した先輩の起業家たちを失望させてしまったと落ち込みました。デビッド・パッカードやボブ・ノイスに会い、台無しにしてしまったことをわびました。公然たる大失敗だったので、このまま逃げ出してしまおうかとさえ思いました。

「デス」
ストーリーでいうところの追いつめられた末の決断。前回も注記したが、三幕構成の本質として重要なビートである。(※3つの話全体を三幕構成として捉えるなら、ここは「ターニングポイント2」というビートにあたる。2つ目の話だけの構成とみれば第二幕に入るし、3つ全体で一つの話とみれば第三幕に入るといえる。)

But something slowly began to dawn on me I still loved what I did. The turn of events at Apple had not changed that one bit. I had been rejected, but I was still in love. And so I decided to start over.
しかし、ゆっくりと何か希望がわいてきたのです。自分が打ち込んできたことが、やはり大好きだったのです。アップルでのつらい出来事があっても、この一点だけは変わらなかった。会社を追われはしましたが、もう一度挑戦しようと思えるようになったのです。

「プロットポイント1(PP1)」「ピンチ1」「ミッドポイント」
決断した後、第二幕へ入ったが、そこでの苦労話は語られていないので「バトル」はない。「妻になるすばらしい女性との出会い」は新しい世界での出会いである「ピンチ1」、「世界でもっとも成功したアニメ製作会社」は言うまでもなく「ミッドポイント」。一気呵成に語られる。(※3つの話全体を三幕構成として捉えるなら、ここはビッグバトル。アップルを取り戻すまでの決戦というようにも捉えられる)

During the next five years, I started a company named NeXT, another company named Pixar, and fell in love with an amazing woman who would become my wife. Pixar went on to create the worlds first computer animated feature film, Toy Story, and is now the most successful animation studio in the world. In a remarkable turn of events, Apple bought NeXT, I returned to Apple, and the technology we developed at NeXT is at the heart of Apple’s current renaissance. And Laurene and I have a wonderful family together.
その後の5年間に、NeXTという会社を起業し、ピクサーも立ち上げました。そして妻になるすばらしい女性と巡り合えたのです。ピクサーは世界初のコンピューターを使ったアニメーション映画「トイ・ストーリー」を製作することになり、今では世界でもっとも成功したアニメ製作会社になりました。そして、思いがけないことに、アップルがNeXTを買収し、私はアップルに舞い戻ることになりました。いまや、NeXTで開発した技術はアップルで進むルネサンスの中核となっています。そして、ロレーンとともに最高の家族も築けたのです。

その後、2つ目の話のまとめとしてメッセージが語られる。

I’m pretty sure none of this would have happened if I hadn’t been fired from Apple. It was awful tasting medicine, but I guess the patient needed it. Sometimes life hits you in the head with a brick. Don’t lose faith. I’m convinced that the only thing that kept me going was that I loved what I did. You’ve got to find what you love. And that is as true for your work as it is for your lovers. Your work is going to fill a large part of your life, and the only way to be truly satisfied is to do what you believe is great work. And the only way to do great work is to love what you do. If you haven’t found it yet, keep looking. Don’t settle. As with all matters of the heart, you’ll know when you find it. And, like any great relationship, it just gets better and better as the years roll on. So keep looking until you find it. Don’t settle.
アップルを追われなかったら、今の私は無かったでしょう。非常に苦い薬でしたが、私にはそういうつらい経験が必要だったのでしょう。最悪のできごとに見舞われても、信念を失わないこと。自分の仕事を愛してやまなかったからこそ、前進し続けられたのです。皆さんも大好きなことを見つけてください。仕事でも恋愛でも同じです。仕事は人生の一大事です。やりがいを感じることができるただ一つの方法は、すばらしい仕事だと心底思えることをやることです。そして偉大なことをやり抜くただ一つの道は、仕事を愛することでしょう。好きなことがまだ見つからないなら、探し続けてください。決して立ち止まってはいけない。本当にやりたいことが見つかった時には、不思議と自分でもすぐに分かるはずです。すばらしい恋愛と同じように、時間がたつごとによくなっていくものです。だから、探し続けてください。絶対に、立ち尽くしてはいけません。

2つ目の話はここで終わる。
前回も書いたように昔話「シンデレラ」のようなハッピーエンドストーリーであれば、ここで終わって構わない。
「アップルを追い出されたジョブスという男は、再び会社を立ち上げ、最愛の家族も得て、アップルにも戻った」といったログラインとなる。

ここまでで三幕構成の第三幕まで語られているので、ある企業家の成功談としてはここで終わりである。
しかしスティーブ・ジョブスのスピーチには最後のツイスト(≒どんでん返し)がある。
それが3つ目の話である。このつづきは次回→三幕構成がっつり分析「スティーブ・ジョブスのスピーチ③My third story is about death. 」

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緋片イルカ2019/05/27

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