※以下は「ライターズルーム」向けに開催した脚本講習のレジュメです。
脚本講習レジュメ
日時:2025/11/24(月)14時~19時(5時間)
場所:某チェーン喫茶店
参加費:ワンドリンク+場所代として3000円
参加者:ライターズルーム6名
1. 長期目標を確認
各自、現在の長期目標を一言で。
書くことでの目標収入も確認。
どんな作家になりたいか?もあれば。
2. 物語とは何か?
例えば弁護士や判事が、最初に「法律とは何か?」を学ぶように、専門家は己が扱う分野の特質を知り、その影響力を自覚するべきである。法律に強くても、それをどう扱うか? 社会にどういう影響を与えるかに無頓着な法律の専門家を想像して欲しい。そうならないために、作家は「物語とは何か?」を知り、覚悟と決意を持って「もの語る」べきである。
2.1. 物語の最小単位
・ニュースと物語の違い。
「男が逮捕された」(これだけでは事実、情報、ニュースの見出し)
フックを加える(100歳の男が強盗、16歳の少年が国家転覆罪)
フックの背景には物語の連想がある(ワーキングナラティブ後述)
※家族や知人であれば大問題だが、他人にとっては無関心(思い込み注意)
※一方で、身内を描くぐらいの描写力は重要
・病気ネタなど、ある程度の共感は得られるが、無関心の層もいる。
・物語構造を入れる。
・「不均衡」→「均衡」(アラン・ダンダスの民話の構造)
・不均衡とは「過剰」か「不足」
「100歳の男が強盗をした」→「どうなった?」 ※指名回答
「16歳の少年が国家転覆罪で逮捕された」→それで?
・原因と結果は、アクト1とアクト3に似る。
2.2. ストーリーは人類の存在意義に関わる
・ほとんどの人間はストーリーなしではアイデンティティを保てない。
・むしろ、理解することもできないのでは?
「○○な男が逮捕された」という情報をいくつも憶えても記録にすぎない
・ニュース、世間話やSNS、日記、歴史、神話などあらゆるものが物語構造をもつ。
・存在意義が持てない人間は不安、虚無になる(自己否定、自己肯定感)。
「何故、産まれてきたのか?」「人生の意義とは?」「私はどう生きる?」
・ペンは剣よりも強し
今では、言葉は瞬時に世界中に拡散されるミサイルのよう
言葉は人を殺すこともあるが、救うこともある
無自覚に武器を振り回すのが危険(ネットは言葉の無法地帯)
・皆さんも、ここでは「プロ脚本家になる」というストーリーの途中。
自己啓発本、カウンセリング(認知行動療法も)、政治や宗教の教本
・うちのライターズルームでは「物語で仕事をする」は通過点。いずれは考えて欲しい。
・作家になって売れたい(金儲けしたい)だけなら、別の仕事の方が設けやすい。
・意図的に金儲けしようと物語を書いている作家は詐欺師だと僕は思う。構造的に独裁国家とプロパガンダと同じ事をしている。
・金儲け意識がなくても、資本主義に毒されていることに無自覚であると流される。
似た例:いじめに無関心でいることは結果的に助長していることになる(強化)
世の中のほとんどが金額に換算できてしまい、勝手に序列を付けられる社会
影響力のもつものが正しいとされてしまいがちな社会(インフルエンサー)
・プロパガンダに抵抗できるのも、また物語しかない(異化、文学の力)。
文学とエンタメのバッティングは現代作家の課題。
文学のフリをしたエンタメが多い(強化しているばかり)
エンタメのフリをした文学もできるのでは?(イルカの目標)
・イルカの考えに同調する必要は全くないが、自覚的な作家であって欲しい。
他者に対して聞く耳を持つことはストーリーテラーの義務(詳細後述)
矜恃のない作家(作家性のない作家)は淘汰される(AIの可能性も含めて)
逆説的だが、矜恃のある作家は必ずどこかで売れるはず(商品価値とも言える)
・同時代作家の意義。
日本文学というと明治や昭和初期が浮かびがち。古い学校教育
現代には現代のテーマがある(分断、普遍的なもの)
それぞれの作家が、それぞれの作品を残すことで、人類のストーリーになる
個人的な本音は売れなくてもいいから、良いものを1本でも残して欲しい
もちろん、高尚なテーマを書けという意味ではない。
どんなチープなものでも、作者の視点が出るし、それによって価値が変わる
例えば:オッサン監督が女子高生の友情話を撮る。余命1年でも?
・「もの語ること」は、自分のメッセージを伝えること。
作者が意識しなくても、無自覚でも、受取手にはそう聞こえてしまう
自分が良いと思うものを、良く思わない人がいることを意識する
2.3. 物語のしくみ
・作家はストーリーテラーの一種。
文字の前から人類は「もの語り」を使っていた
書くのではなく、テリング(話す、伝える)
・ストーリーの種類
詩、歌、音楽、コピーライト:リズム
絵画:視覚情報
演劇:空気感
小説:文字情報(書き言葉)、連想
漫画:視覚+文字
オーディオドラマ、話芸:聴覚情報(話し言葉)
映像:音楽、聴覚、視覚、文字(テロップ)、※4DXもあるが
脚本:文字から上記を連想させる
・「作品→観客」に何を与える?
観客を感動させるということは、観客の身体を動かすこと(汗、涙、緊張と弛緩)
観客が頭で「面白かった」と言っているうちは、感動は浅い
これは洗脳に近い怖さがある(物語の力、作家の責任感)
・ストーリーテラーはインフルエンサーではない
自分の主張ではなく、物語を通して伝える
伝えなるつもりはなくても、物語は主張を持ってしまう
そういうインフルエンサー作家もいるが、作品はつまらないことが多い
・脚本家の仕事の第一ステップは、
(観客を意識した)制作陣→プロデューサー、スポンサー、主演
観客を意識できないPは駄作を作る
金回りの良いだけのPと仕事を続けると、一緒に沈む危険もある?
Pや観客の教育も必要(リテラシー向上)
一番の説得力は理屈よりも、読んで面白いと思わせること
2.4. 映像作品のしくみ
・大きくは映画、配信、地上波ドラマ、ショートムービー(CM含む)
映像はとにかく制作にお金がかかる
ペイできるなら自作で回せる
とはいえ、個人に近いと規模の限界はある
どこで、どうお金が動いているか?で価値が変わる
映画でいえば2時間5000円の価値(チケット2000円+時間3000円)
※余談、人に脚本を読ませるということは、タダでも時間を奪う
演劇と比べたら? (原価率が高くなるのは売る側の都合に過ぎない)
「地上波でよかった」と言われてしまうのは?
・映画が趣味ではない人には、他のレクリエーションとの競合がある
5000円あれば、何食べる? 何する? 何を買う?
一方で、特典目当て何回も見に来る人もいる(商法には疑問を呈しつつ)
・お金の流れは、社会の変化とともにすぐに変わるので情報に敏感であれ
・制作の流れ
プリプロ(企画、脚本、撮影準備)
プロダクション(撮影)
ポスプロ(編集)
・脚本家はストーリーの専門家であるべきだが、知っておいて損はない
監督兼脚本家の欠点と利点がある
・映像制作はチーム競技。個人競技がしたければ漫画とか小説へ行くべき。
ライターズルームがチームにうるさい理由の1つでもある
個人競技を目指すでも、強いチームにいる方が強いことは多い
誠実であれ、柔軟であれ(作家個人として)
コミュニケーション、利他精神(チームとして)
出力をしてください(一方的に入力するより得が多い、種を蒔くようなもの)
※リレーエッセイを始めたいがどうか?
3. ビートについて
第3章ではビートについて話していく。ビートはとても強いストーリーテリングの技術であり、作家としての矜恃がなくとも扱えてしまうので溺れるべきではない。一方で、技術のレベルが低い場合は、粗削りでも矜恃のある作品に劣ることは得てして多い。「技術が欠けている作品」はもったいない、「技術しかない作品」は巧くとも画竜点睛を欠く。「作家としての矜恃」と「ストーリーテリングの技術」の両面を磨く意識をもって欲しい。
3.1. ストーリーサークルの確認
・視点が頂点、構成と描写が主な技術
3.2. ヒーローズジャーニー
・キャンベルのモノミス。世界創造の神話
0から2、2から拡散
世界の成り立ちから、文化や技術へと
やがて終焉を迎えて0に戻る
英雄の旅という比喩
ログライン的に言えば「英雄が旅をして、宝物を持ち帰り、均衡をもたらす」
ヒーローには男女の含みはないことに留意
3.3. ドラクエ的なストーリーのたとえ
・「過剰」ドラゴンが現れる。「均衡」勇者が倒して平和が訪れる
「勇者登場」=カタリスト
「旅立ち」=PP1
MPの置き方は? ※指名回答
実は、ここにモノミスとビートシートのズレがある
聖剣とドラゴン
3.4. 類似例で考える
・「桃太郎」の「過剰」→「均衡」あるいはログラインは? ※指名回答
ビートにしてみて?
・「浦島太郎」では?
・「シンデレラ」では?
・この辺りは脚色のヒントにもなっている(SSFFでのセミナー)
・まずは「行って、帰る」の構造を見つける
3.5. ビートシートで考える
・スターウォーズ4では? ※指名回答
・塔の上のラプンツェルでは?
※ここまで理解できれば、本日の講習の目的は達成とも言える。
※この辺りはハリウッドの脚本教本で理解できるレベル。
3.6. ハリウッド式の限界
・ビートシートは映画向け(90~120分)に作られている
ハリウッドで複雑な進化をした結果
だから、モノミスとは合わない
ヒーリーズジャーニーと重ねようとしたための強引さ(ハリウッド式の限界)
一方で、安直な便利さ、力強さも持っている(心理学の融合)
基本が身につけば10分、30分、60分などにも応用可能
・たくさん分析していくと、ハリウッド式だけでは分析できないことに気付く
最たるは群像劇
・イルカが改良したのが、うちのビートシート
細かいビートは、いろんなものから取り入れたり追加
プロットアークとキャラクターアークを分離
コントラストプロット、マルチプロット(群像)などの分析が可能
基本的なアーク(主人公が一人)はアークプロットと呼ぶ
ミニプロットは、マルチプロットの一つをアーク化したようなもの
3.7. プロットタイプの一部紹介(古い情報、参考程度に)
※上級編内容のため非公開
3.8. プロットタイプとストーリータイプの違い(ストーリーサークルから考える)
・プロットタイプはビートで似たことが起きる。ストーリーサークルでいう「構成」。
・ストーリータイプは「題材」や「テーマ」の類似。より広い。
・たくさん分析していると、似たものが出てくる。それが自分のストックになる。
・同様に「構成」だけでなく「描写」(シーン)などについても、ストックができる。
・「人物」「視点」なども「ミニプロット」系では学ぶことが多い。
・「構成」の力だけあっても「描写」ができないとつまらないものしか書けない。
・「描写」を作るのは「視点」と「人物」
・練習問題:のび太のセリフを考える。 ※指名回答
化石を発掘して、土から貝を見つけたときの馬鹿なセリフ
その後、出来杉に「この辺りは昔は海だった」と教わる。
作者(藤子F不二雄)がのび太をどういう「視点」で見ているか、
作者自身の柔軟性もうかがえる答え
作家は自分をどれだけさらけ出せるかという部分も大きいのかもしれない
・キャラが大事か、構成が大事か問題
キャラが決断するとストーリーが動く
だが、キャラが自分だけの意思で決断できるようなことは大きな決断にならない。
3.9. ストーリーエンジンとジャンル
・観客(あるいはP)のフックとなるものは?
「題材」「人物」などが多い
それをどう料理するかは「構成」や「視点」
・フックは見る前までの引き、見てる最中、見た後の印象とは別。
・鑑賞中は観客の「ワーキングナラティブ」を動かすこと(脚本を読ますときも同じ)
観客の予想を前提に書く
だから、予想を裏切れる
説明しなくていいことは観客にとってくどく感じる
しかし、観客に必要な情報は、しっかり提示(説明)する
・別の言い方をしたものは「ストーリーエンジン」
「なぜ?」が発生するとミステリー駆動(クイズのようなシーン)
結論が出るまでは、思考中、ヒント中(リズムや情報の出し入れが大事)
結論での納得感
「ターンオーバー」(大どんでん返し)の力学も似ている
・ジャンルとエンジンの関係
ホラー要素とホラーというジャンルの違い
テーマも同様(社会に無自覚な作品は、無意識に価値観の強化をする)
3.10. さいごに
・ビートの理屈を理解したとて、すぐに書けるわけではない
それが可能なら、AIに書ける
数学の公式を学んでも、使いこなすまでは練習が必要
たくさん分析をすることが必要
分析したものを、自分の作品に応用させるのは、さらに慣れが必要
分析だけしてわかった気になるな(ビートは書くための技術)
みなさんに10分脚本が課される意義
だけど、身についたものは残る
プロとして仕事したいなら、絶対に損はない。やれば、プロになれる。
・他人の理屈で、自分の物語を縛るな
ハリウッドやイルカが何と言おうと、自分が正しいと感じることも大事
だが客観的に「良い/悪い」「面白い/つまらない」の感覚がないと仕事にならない
・一人で、良い物語を創作することは不可能に近い
作家一人の「視点」で物語を作ること自体が不可能と言えるかもしれない
良いものは共有することで、自分も高まる(同時代性)
4. コズモゴニックアーク
イルカが「物語の究極的価値」と考えるものが「コズモゴニックアーク」である。モノミスに代わる「ヴォルテックス」という考え方など、サイトでいう上級編にあたる内容。
※たぶん、ここまで語る時間がないので、時間が余ったら話します。
5. 質疑応答/雑談
以上
