第4回「100文字小説」大賞 受賞作品

以下の3作品を、第4回「100文字小説」大賞の受賞作品とします。

大賞

063

佳作 2作品

135

146

選考委員より

緋片イルカ:
今回は初心にかえるつもりで、第1回のような形式で選考を採用しました。一次選考通過作品は、すべてイルカが選出したものです。全作品を3周ほど読み「面白い」と思ったものを選んでいきました。「面白い」の基準は、意外性、テーマ性、アイデア、オリジナリティ、表現力といった観点を軸としました。バランスよく総合的に面白いものもあれば、ある一点で面白いものなどもありました。その後、しまうまさん、カラスさんに選考をしていただき、最終選考通過作品が決定となりました。受賞作品の決定に際しては3人による選考会を行い、各作品について意見を述べ合ったりしました。話しているうちに発見があり、評価が変わっていく様はとても面白く感じました。毎回、言っていることではありますが、読む人によって「面白い」の基準が変わってしまうのは当然ですし、選ばれなかった作品が面白くないなどということは決してありません。一作品ごとに作者様の個性や思いが込められていて、すべての作品に他には代えがたい価値をもっていると思います。その上で、選考委員という立場として、責任をもって、我々の基準により選考させていただきました。以下、受賞作品についての選評です。

大賞となったようたろうさんの作品(063)はとても不思議な作品です。大晦日、除夜の鐘とともに読者は夜空の世界に吸い込まれていくようです。テレビで鐘をつく住職は誰もが一度は見たことがあるような映像です。その住職は月に気づいていない。この視点がとても面白いと思いました。窓を開けて月を見ている「私」には、月がとても意義あるものに感じられたのでしょう。しかし、住職は鐘をつくことに集中していて月には気づいていない。「私」はとても重要な何かに遭遇したようにも見えます。「私」の上には流れ星が流れ、同時に海に沈んだミサイルを見ている。何が起きたのか? 状況説明はなく断定はできませんが、違和感はありません。「私」の意識だけがスルスルと抜けて宇宙を飛びまわっているような感じを受けます。海に沈んだミサイルとクジラ、そして再び月の引力によって部屋に引き戻される。鐘が鳴った刹那に、宇宙や海を巡ってきたような感覚を読者に与えます。そして、目の前に舞っているのはダニの死骸。意味深です。大晦日、年の変わる瞬間に「私」は何を感じたのでしょうか。とても魅惑的で、レベルの高い作品だと感じました。

佳作となったがみのさんの作品(135)は大賞作品とは一転、オチまでとてもわかりやすい内容です。選考会でしまうまさんの意見を聞いて、とても見方の変わった作品です。僕は当初、ゾンビという題材にネガティブな印象をもっていました。第4回ともなるこれまでの応募作品の中であまり珍しいネタではないからです。しかし、文章にムダがなく全体的に洗練されている点に、とてもよく出来た作品という印象を受けました。ゾンビネタだから賞にならないというのもおかしいと考え直し、佳作に賛成しました。オチについても「実はこうでした」といった説明的なオチとは違い、笑いと悲哀が込められているところに、読後感がいい作品だと感じます。

もうひとつの佳作、さとうたくみさんの作品(146)は、名詞の列挙によって、平日の一日が表現されている独特な文体が面白いと感じました。この主人公はどんな思いで「月曜の河川敷」を過ごしたのでしょうか。百均のアウトドアチェアに座り、釣り人を眺めている青空の時間帯。「文庫本」までは読むためなのだろうと流れますが「ネクタイ」が気になります。主人公はスーツを着ていて、ネクタイを外して座っているのかもしれません。なぜでしょう? 煙突のけむりを眺めながらのうたた寝は、ただ気持ちいいお昼寝ではないようにも感じられます。子供の声に目を覚ましたのか、体は冷えています。温かいコーヒーを買って戻ってきたのか、何に対しての「ため息」でしょうか。人の気配も減り、跳ねる魚の音が聴こえるほどに静かな夜。星空を眺めて、タバコを吸いながら、しきりにため息をつきます。そして、最後に決断したかのように声に出したのでしょう。「帰るか」。「月曜の河川敷」を過ごして、どんな日常へ帰っていくのか。この一日は、主人公にとって生きるために必要な一日だったのではないか、そんなことまで感じさせる作品でした。

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