小説『葬列』石川啄木(読書メモ)

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青空文庫
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感想

以下に書き記す処は、或は此無限の生命ある世界に於て、殆んど一顧の値だに無き極々ごくごく些末の一事件であるのかも知れない。(中略)此一事件は、自分といふ小なる一人物の、小なる二十幾年の生涯に於て、親しく出会した事件の中では、最も大なる、最も深い意味の事件であると信ずる。

本題が始まるまでに全体の半分近く。

この構成のまずさは石川啄木のもはやクセであり、小説家としては評価されないままだったのだろう(今でも小説家としては評価されない)。だが、その視点には歌人としての啄木と同じ、鋭い感性が見える。

『アレ/\、がんこア来た、がんこア来た。』がんことは盛岡地方で『葬列』といふ事である。

主人公はある葬列に出会う。

『何家どこのがんこだ!』『狂人ばかのよ、繁のよ。』『アノ高沼の繁しげる狂人ばかのが?』『ウム然さうよ、高沼の狂人のよ。』『ホー。』『今朝の新聞にも書かさつて居えだずでヤ、繁ア死んで好えエごとしたつて。』『ホー。』
 高沼繁! 狂人ばか繁! 自分は直ぐ此名が決して初対面の名でないと覚つた。

それは「高沼繁」という男の葬列で、街の人からは狂人扱いされている。

だが、主人公にはその名前に聞き覚えがあった。

『お夏』と呼ばれた彼の女乞食が、或る聴取り難い言葉を一声叫んで、棺に取縋つたのだ。そして、彼の担いで居る男に蹴倒されたのだ、この非常なる活劇は、無論真の一転瞬の間に演ぜられた。
 噫ああ、噫、この『お夏』といふ名も亦、決して初対面の名ではなかつた。

「お夏」と呼ばれる女乞食が「高沼繁」の棺に縋りつく。

主人公には、その名前にも聞き覚えがあった。

そして、五年前に二人を見かけた「最も大なる、最も深い意味の事件」が語られる。それがクライマックス。気になった人は自分で読んで欲しい。

素晴らしい文学だと、僕は思う。

緋片イルカ 2023.10.10

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