『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』にのっているジャンルをリストにしておきます。ロバート・マッキーの分類の基準は「理論ではなく、実践から生まれたものであり、主題、設定、役割、出来事、価値要素のちがによって分類されている」。
書籍が1997年のものなので、例に出されている映画もとても古いものばかりですが、興味のあるジャンルで押さえておく参考にはなると思います。ロバート・マッキーのジャンルに対する考え方はリストの最後に引用してあります。
※小数点で記載したものはサブジャンル。説明は本文の要約。英語表記は原書より。
※作品例をクリックするとAmazoneへリンクします。
1 ラブストーリー Love Story
1.1 仲間の救済 Buddy Salvation(恋愛ではなく友情が描かれる)
『ミーン・ストリート』、『パッション・フィッシュ』、『ロミー & ミッシェル』
2 ホラー映画 Horror Film
2.1 異常 Uncanny(地球外生命体、科学の力で作られた怪獣、異常者など合理的な説明ができる)
2.2 超常 Supernatural(理屈では説明できない心霊現象)
2.3 超異常 Super-Uncanny(前述のふたつのどちらかで混乱させる)
『テナント/恐怖を借りた男』、『狼の時刻』、『シャイニング』
3 モダン・エピック Modern Epic(現代叙事詩、個人と社会が対決)
『スパルタカス』、『スミス都へ行く』、『革命児サパタ』、『1984』、『ラリー・フリント』
4 西部劇 Western
(西部劇とそのサブジャンルの発展については『Sixguns and Society』で明快に説明されている)
5 戦争映画War Genre
5.1 戦争賛美 Pro-war
5.2 反戦 Antiwar
6 自己形成プロット Maturation Plot(成長物語the coming-of-age storyともいう)
『スタンド・バイ・ミー』、『サタデー・ナイト・フィーバー』、『卒業白書』、『ビッグ』、『バンビ(吹替版)』、『ミュリエルの結婚』
7 贖罪プロット Redemption Plot(主人公の倫理観が悪から善へ変わる)
『ハスラー』、『ロード・ジム』、『ドラッグストア・カウボーイ』、『シンドラーのリスト』、『イゴールの約束』
8 懲罰プロット Punitive Plot(善良な人間が悪の道へ落ち、懲罰を受ける)
『グリード』、『黄金』、『メフィスト』、『ウォール街』、『フォーリング・ダウン』
9 試練プロット Testing Plot(意志と誘惑の対立)
『老人と海』、『暴力脱獄』、『フィツカラルド』、『フォレスト・ガンプ/一期一会 』
10 啓発プロット Education Plot(人生や他人や自分自身に対する主人公の見方がマイナスからプラスへ変化する)
『ハロルドとモード/少年は虹を渡る』、『テンダー・マーシー』、『冬の光』、『イル・ポスティーノ』、『ポイント・ブランク』、『ベスト・フレンズ・ウェディング 』、『Shall we ダンス?』
11 幻滅プロット Disillusionment Plot(主人公の世界の見方が楽観から悲観へと変化する)
『Mrs. Parker And The Vicious Circle 』、『太陽はひとりぼっち』、『鬼火』、『華麗なるギャツビー』、『マクベス』
以下にあげるジャンルはメガジャンルとも呼ぶべきもので、規模が大きく複雑であるため、数多くのサブジャンルに分かれている。
12 コメディ Comedy
12.1 パロディ Parody
12.2 風刺劇 Satire
12.3 ホームコメディ Sitcom
12.4 ロマンティック・コメディ Romantic
12.5 スクリューボール・コメディ Screwball
12.6 笑劇Farce
12.7 ブラック・コメディ Black
13 犯罪映画 Crime(サブジャンルは誰の視点から犯罪を見るかによって決まることが多い)
13.1 殺人ミステリー Murder Mystery(名探偵の視点)
13.2 計略 Caper(犯罪者の視点)
13.3 刑事 Detective(警官の視点)
13.4 ギャング Gangstar(悪党の視点)
13.5 スリラー Thriller(被害者の視点)
13.6 復讐 Revenge Tale(被害者の視点)
13.7 法廷 Courtroom(法律家の視点)
13.8 新聞 Newspaper(記者の視点)
13.9 スパイ Espionage(スパイの視点)
13.10 監獄 Proison Drama(服役囚の視点)
13.11 フィルム・ノワール Film Noir(犯罪者、探偵、ファム・ファタールの被害者の視点など)
14 社会ドラマ Social Drama(社会問題を特定し、解決を扱う)
14.1 ホームドラマ Domestik Drama(家庭内での問題)
14.2 女性映画 Woman’s film(仕事と家族、恋人と子のジレンマなど)
14.3 政治ドラマ Political Drama(政治の腐敗)
14.4 環境問題ドラマ Eco-Drama(環境保護のための闘い)
14.5 医療ドラマ Medical Drama(病気との闘い)
14.6 サイコドラマ Psycho-Drama(精神疾患との闘い)
15 アクション/冒険 Action/Acventure(戦争映画や政治ドラマなどのジャンルからいくつかの要素を採り入れ、そこから危険なアクションや大胆な行為を誘発する。)
15.1 ハイアドベンチャー High Adventure(運命、神への不遜、宗教性といったテーマ)
『王になろうとした男』
15.2 災害/サバイバル Disaster/Survival Film(大自然と敵対)
『生きてこそ』、『ポセイドン・アドベンチャー』
以下は設定、演技スタイル、映像技術のちがいによって生まれたスーパージャンル。
16 歴史ドラマ Historical Drama(素材となるものが無尽蔵にあり、あらゆるストーリーが埋もれている)
『グローリー』(人種差別)、『マイケル・コリンズ』(宗教的対立)、『許されざる者(1992)』(女性に対する暴力)、『危険な関係(1988) 』(フランス貴族社会)
17 伝記 Biography(歴史ドラマに近いが時代よりも人物に焦点をあてたもの)
『若き日のリンカーン』(法廷)、『ガンジー』(モダン・エピック)、『裸足のイサドラ』(幻滅プロット)、『ニクソン』(懲罰プロット)
18 ドキュメンタリードラマ Docu-Drama
19 モキュメンタリー Mockumentary(ドキュメンタリーや自伝のように装ったフィクションで社会制度を風刺)
『スパイナル・タップ』(ロックンロールの世界)、『フェリーニのローマ』(カトリック教会)、『ありふれた事件』(テレビ報道)、『ボブ・ロバーツ』(政治)、『カメレオンマン』(中流階級の道徳観)、『誘う女』(アメリカの打算的価値観)
20 ミュージカル Musical(ラブストーリーが多いが、どんなジャンルでも可能)
『ウエスト・サイド物語[Blu-ray]』(社会ドラマ)、『オール・ザット・ジャズ』(懲罰プロット)、『エビータ』(伝記映画)
21 SF Science Fiction(科学の発達した仮想未来・暴政と混沌に支配されたディストピアを舞台とすることが多い)
『スター・ウォーズ』シリーズと『トータル・リコール』(モダン・エピック+アクション/冒険)、『惑星ソラリス』(幻滅プロット)
22 スポーツ Sports Genre
『ノース・ダラス40 』(自己形成プロット)、『傷だらけの栄光』(贖罪プロット)、『さよならゲーム [DVD]』(啓発プロット)、『レイジング・ブル』(懲罰プロット)、『炎のランナー 』(試練プロット)、『長距離ランナーの孤独』(幻滅プロット)、『ハード・プレイ』(仲間の救済プロット)、『プリティ・リーグ』(社会ドラマ)
23 ファンタジー Fantasy(時間、空間、物質を自由に使い、自然界、超自然界の法則をゆがめたりする。アクションの舞台となることが多い)
『ある日どこかで』(ラブストーリー)、『動物農場』(政治ドラマ/寓話)、『If もしも… 』(社会ドラマ)、『ふしぎの国のアリス (1951) (吹替版)』(自己形成プロット)
24 アニメーション Animation(アクションを扱うことが多いが、何の制約もない)
『バッグス・バニー』シリーズ(笑劇)、『王様の剣』と『イエロー・サブマリン』(ハイアドベンチャー)、『ライオン・キング』と『リトル・マーメイド』(自己形成プロット)
25 芸術映画 Art Film(ミニマリズムと反構造に分類できる)※詳細は書籍に
どのジャンルにも、ストーリーを設計する上での約束事がある。(中略)観客はこうした約束事を承知し、約束どおりの展開を予想している。それゆえ、ジャンルを選ぶことによって、ストーリーのなかのできることの限界がはっきり見える。観客の知識と期待を見越した上でストーリーを設計しなくてはならないからだ。
観客が予想していることを予想するためには、自分のジャンルとその約束事に精通しなくてはならない。
ジャンルを学ぶ方法を提案しよう。まず、自分の作品と似ていると思えるものを、成功作も失敗作もすべて合わせて一覧にする(失敗作から学べることは多く、謙虚な気持ちになれる)。つぎにその作品のビデオを借りて、可能なら脚本も買う。そして、脚本とゆっくり照らし合わせながら映画を再生し、設定、役割、出来事、価値要素を細かく検討する。最後に、分析結果を積み重ねて、上からひとつひとつ見ていく。自分のジャンルのストーリーに共通するものは何か。時間、場所、登場人物、行動の約束事はなんだろうか。その答えが見つからないかぎり、観客に追いつくことはできない。
ジャンルごとの約束事は不動のものではない。社会の変化にともなって進化し、成長し、順応し、変容し、分裂していく。社会はゆっくりとではあるが、確実に変化していて、社会が新しい段階にはいるにつれて、ジャンルうも形を変える。ジャンルとは現実を知るための窓であり、作り手はそこからさまざまな見方で人生を観察する。窓の外の現実が変わるとき、ジャンルもそれにつれて変化する。ジャンルに柔軟性がなく、変わりゆく世界に対応することができなければ、時代に取り残される。
ジャンルに精通することが重要なのは、もうひとつ理由がある。(中略)書くことはすべて試練をともなうものだが、脚本ほどきびしいものはない。だから、自分自身に問いかけてもらいたい。何カ月にもわたって情熱を燃やせるのは、なんのためだろうか、と。一般に、偉大な作家は多くのものに手を出さず、ひとつの主題にしっかりと全力を傾ける。それはおのれの情熱に火をつけるただひとつのテーマであり、生涯をかけてさまざまに形を変えて追い求めるテーマだ。(中略)発想の原点がなんであれ、ひとつ注意しなくてはならない。作品が完成に到るはるか前に、自己愛が消え去り、アイディアへの愛着も朽ち果てることがある。だからこそ、自分が好きなジャンルはなんだろうかとあらためて自問しよう。そして、好きなジャンルで書くのだ。(中略)書きたいと思う理由はいろいろあれど、変わることなく自分を支えてくれるのは仕事そのものへの愛情だけだ。
ジャンルが進化した例なども記載されてますが、詳しくは書籍をご覧ください。
緋片イルカ 2020/04/15