※漢字の答えは広告の下にあります。小説内にお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。
妻の浮気シリーズは「綺羅星」読めますか?(ゲス漢16)からの連作です。
夕食は娘がつくったらしい。
ジャーマンポテトだったようだ。使いかけの和蘭芹が出しっぱなしになっていたのでパックに入れて冷蔵庫にしまった。
食器を洗うのは好きだ。ソースや油の汚れが落として、表面を指でこするとキュッとなった瞬間が心地よい。
穢れ(けがれ)を落とす。
わたしが過ちを犯しても禊ぎ(みそぎ)をうければ、元に戻れるのだろうか。今夜は何もなかったけれど、松山くんにまた誘われたら……
「じゃあ、また」
別れ際に松山くんはそう言って手を挙げた。もしかしたら「今日はありがとう」とかそんなメッセージが来ているかもしれない。
わたしは蛇口をとめて、手の水気をしっかり拭いた。バッグに手を伸ばすと夫が入ってきた。
「今日は危うくベーコンなしのジャーマンポテトになるところだったよ」
夫は濡れた髪をバスタオルでごしごしやりながら、冷蔵庫へむかった。
「聖香に食材の買い物を頼まれたんだが、わざわざすべて漢字で送ってきたんだ。でもあいつ、ベーコンの漢字がわからなかったとかでリストから抜けててさ」
風呂上がりはいつも缶ビール。わたしはその隙にすばやく画面を点けた。メッセージが来ているかどうかだけでも確認したかった。
『1件のメッセージがあります』
邪な期待が沸いて、堪えきれずにロックを解除する。
「ところで誰と会ってたんだ?」
「え?」
わたしはスマホを消した。
「珍しいだろ。お前が夜、飲みに行くなんて」
「うん、高校の同級生。たまたま会っちゃってさ」
「男か?」
「え? まさか」
精一杯、自然に笑ったつもりなのに、子どものピアノみたいに外れていた。夫が缶ビールをプシュッと開けた。
「それなら、いいんだが」
夫はソファへいってテレビをつけた。
わたしはトイレへ行って、松山くんからのメッセージを読んだ。
「今度デートしませんか?」
松山くんらしからぬ丁寧な誘い文句に、わたしは眦を決して返す。
「もし松山くんがよかったら、抱いてくれますか?」
(つづく)
今日の漢字:「邪」(よこしま)
「横しま」「横さま」とも言い「横向き」という意味で、正しい道に対して横というニュアンスがあり悪いことについて言います。邪道(じゃどう)、邪悪(じゃあく)、邪魔(じゃま)など。ちなみに野球のファウルフライを邪飛球というそうです。
(緋片イルカ2018/11/25)