このシリーズは三幕構成を「自分の作品に応用する」ことに着目して解説しています。段階的な説明になっているのでStep1からご覧ください。
今回のテーマ「三幕構成の使い方」
前回で三幕構成の作り方については説明しました。一気におさらいしてみましょう。
Step1「物語は旅である」
まずは物語は「旅」であるという感覚を掴んでもらいました。「行って、帰る」という感覚さえ掴めば、その旅の「はじまり」と「おわり」が、そのまま「プロットポイント」に相当しました。
Step2「誰の旅なのか?」
「旅」が構成だとすると、主人公は「キャラクター」に相当します。「誰が、どんな旅をするのか?」それこそが物語です。旅によってドキドキ、ワクワクできる人物が主人公に相応しいといえました。
Step3「その旅って面白いの?」
書こうとしている「物語」が面白いのかどうかは早めにチェックしておくことが大切でした。「旅」が観客や作者自身にとって価値のあるものでなければいけません。それには「感動スポット」を見つけるというポイントでした。「感動スポット」はジャンルにもつながります。
Step4「ツアーを組もう」
ここから、いよいよ構成に入っていきました。まずは「感動スポット」をミッドポイントに置くことで、物語の中心が定まり「ミッドポイントへ行くまで」と「ミッドポイントから帰ってくるまで」という捉え方ができるようになります。
Step5「旅の準備をしよう」
アクト1を3つのパートにわけて構成しました。「主人公の日常」→「旅のきっかけ」→「旅立ちまで」という構造は、「旅のきっかけ」を中心にして、その前後と捉えれば、ミッドポイントを中心にした構造と同じです。また、アクト1では主人公をセットアップすることも重要でした。アクティブか、パッシブかによって今後の構成はすべて変わります。
Step6「旅の往復」
アクト2を3つのパートにわけて構成しました。「ミッドポイントまで」の方向性は明確ですが「障害」をつくり、簡単にはたどり着けないようにして、葛藤をつくります。「ミッドポイント以後」は旅の帰り、山の下りのようなもので、三幕構成にするためには、日常の世界へ帰らせなくてはいけないのでした。
Step7「もう一度、旅へ」
日常に帰った主人公は、アクト3でもう一度、旅へ出ます。その「旅」や動機がどんなものになるかは主人公や作者のテーマ次第なので一概には言えませんが、クライマックスなので、とにかく作者の思いをすべてぶつけることが大切です。それでこそオリジナリティが生まれ、あなただけの物語になるのです。
以上、「三幕構成の作り方」ということで、あなたが書こうとしている物語に三幕構成をあてはめていく方法を解説してきました。
しかし、三幕構成の使い方は「直す」ときにも使えます。
具体的にみていきましょう。
今回の課題「物語の型のストックを増やそう」
はじめにハリウッドのストーリーアナリストであるロバート・マッキーの言葉をご紹介します。
経験が浅く自信のない作家はルールに黙従し、訓練不足で反抗的な作家はルールに従わない。真の芸術家はうまく型を使いこなす。(ロバート・マッキー『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』)
三幕構成の本質は、太古からつづく人類の物語法則にあります。表面のルールだけみて安易なテクニックとして「ルールに黙従」するのはまちがいですし、反抗的に無視したところで物語が破綻するだけです。ロバート・マッキーの言う通り、うまく型を使いこなすことが大切です。
今まで学んできたように、三幕構成は「創る」ときに大きな助けになります。ルールに従うのではなく、助けになるのです。これは「直す(推敲」ときでも同じです。
ハリウッドではストーリーのアナリストやコンサルタントといった職業が、ライターとは別に成立するように「創る」のと「直す(推敲)」のとは似て非なる作業です。
「創る」のは、ゼロからイチを生み出す作業。目指すのは書き上げること、ENDマークをつけることです。初心者は、書き上げた興奮もあいまって、そこで完成と思ってしまうかもしれませんが、「初稿」ができただけでは、まだ「旅の準備」ができたようなものです。本当の「旅」はこれからです。
「直し」の目的を一言でいえば「作品を良くすること」。これにはキリがありません。「この道でいいのだろうか?」と直してみたけど行き止まりにぶつかって、引き返して、また別の道を探す。そんな手探り作業の連続です。やがて「もう、これで、いいや」と気になるところを残したまま諦めるように完成にしてしまったり、〆切だからと終わりにしてしまう人が多いと思いますが、ここで踏ん張れるかどうかで大きな差がでます。
道に迷いながら進みつづけるのは不安で、苦しいものです。
そんなときに「地図」となってくれるのが三幕構成に基づく「物語の型」です。
先人達の作品には「成功例」も「失敗例」もたくさんあります。どうすれば、この道を抜けられるのか、ヒントが山ほどあるのです。
ランダムにたくさんの作品を見ることでもヒントは得られることがありますが、自分の作品に似た「旅」の作品を参考にすることで、より効率が上がります。
具体的には、ミステリーを書いているならミステリー作品を、コメディを書いてるならコメディ作品を、ラブストーリーならラブストーリーを……分析するのです。
もっといえば、どのような「ミッドポイント」を持っているかで「旅」の種類が決まります。
これが「物語の型」に相当します。(参考記事:「三幕構成と恋愛)」)
自分の作品と似た「旅」の地図をもっていれば、大いに参考になります。
物語の型を知ることはパターン化することではありません。知ったからといってルール通りにつくるのは「黙従」することです。むしろ、ルールを把握した上で、過去にない「新しいもの」を考えることでオリジナリティが生まれます。自分の頭で考えだしたとしても、結果として過去の名作と同じであれば、第三者には「似ている」と思われてしまいます。過去にあるものを知った上で、過去にないものを生み出すことが本当の「創造」です。自分で考える=創造というのは主観的な感覚でしかないのです。
ここで、前回のクイズの解説です。
桃太郎を三幕構成にすると、どこがミッドポイントになるでしょうか?
でした。
Step1では桃太郎の旅は「鬼退治に行って帰ってくる」だと説明しました。
Step3・4では、旅先のもっとも遠い地点が感動ポイントであり、ジャンルでもあるとも話しました。
そうなると「鬼との対決」がミッドポイントになりそうです。
桃太郎は鬼から宝ものを奪い、「プロットポイント2」で帰ってきます。旅は終わります。
アクト3はどうしましょうか?
Step7で説明したように、もう一度、旅に出ます。たとえば、「鬼がじつは生きていた」とか「村に復讐にやってきた」とか「新たな真の鬼が現れた」とするのです。
これが基本的な三幕構成です。これはこれでいいでしょう。
ここで、「桃太郎」の物語の型を考えてみます。
「桃から生まれた」というのはあくまでキャラクターの設定です。
桃太郎の旅は「仲間をあつめて、鬼を退治する」ことにあたります。
これと似たストーリーが浮かびますか?
すぐに浮かぶのは「七人の侍」だと思います。
村人が、侍を7人あつめて、村を襲う野武士達と戦います。
犬、猿、雉をあつめて、鬼と戦うのと、構造は同じです。
では『七人の侍』のミッドポイントはどうなっていたでしょうか?
野武士との対決はもっと後半にあります。
答えは、ぜひ自分で分析してみてください……と言いたいところですが、答えは「仲間が七人集まり準備が整ったところ」です。
たまたま『七人の侍』がそういう構造になっているかというと、実はそうではありません。
「仲間をあつめて、あるミッションをこなす」という物語の型があります(個人的にミッションプロットと呼んでいます)。
この「物語の型」を知っていれば、「ミッドポイント」に悩まず「仲間をあつめて準備完了」と設定してやればいいのです。
あとは、どんなユニークな仲間を考えるかという方にオリジナリティを生むことに尽力できます。
Step3・4では「感動スポット」=「ミッドポイント」と言いましたが、それはあくまで初心者向けの説明です。例外はいくらでもあります。物語の可能性は無限です。ルールに黙従せずに、使いこなすことが大切なのです。
(参考記事:「ヒーローズジャーニー作品比較」)
物語の型をあつめるには?
このように物語の型をたくさん知っていれば「創るとき」「直すとき」の両方でとても役に立ちます。
では、どうやったら物語の型を集められるのでしょうか?
作品をたくさん読んだり見たりするだけでも、記憶の倉庫に蓄積されていくことはありますが、同時に忘れてもいきます。
学生の頃に必死で覚えたことを、大人になるとすっかり忘れていて思い出せない経験がありませんか?
一方で、専門的に学んだ知識は、部分的には忘れていても、理解したことの全体像は残っているということがありませんか?
物語でも同じです。
ただ読んだり見たりしているだけだと、印象に残ったシーンだけが残って「タイトル」が思いだせないなんてことがよくあります。
しかし、一本の物語をきちんと分析しておくと、体系的な理解にになるので記憶にも残りやすく、その「物語の型」を自分の作品に応用することもできます。
分析といっても難しいことではありません。
このシリーズで学習した「旅」、「主人公(アクティブかパッシブか)」、「ミッドポイント(感動ポイント)」、「アクト3での旅」などを、まとめるだけでも構わないのです。
いくつか分析がたまれば、比較ができるようになります。共通点は「物語の型」になるし、相違点こそがオリジナリティになるのです。
分析に慣れてくれば、より細かいビートによる分析をすることもできますし、真剣に分析しなくても一回読んだり見たりするだけでも、だいたいの構造が掴めるようになってきます。そうなると、型のストックあつめが加速していきます。
ストックが増えてくると、いろいろな応用が利くようになり、これこそ、ロバート・マッキーのいう「型を使いこなす」ことになるのです。
さいごに
以上、8回にわたって解説してきた「三幕構成の作り方シリーズ」は終了になります。
分析の実例は以下をご覧ください。
三幕構成がっつり作品分析『浦島太郎』楠山正雄(#23)
三幕構成がっつり作品分析『桃太郎』楠山正雄(#24)(※中級レベルです)
より細かいビートなどを理解したい方は「ログラインを考える」シリーズをご覧ください。音声解説もあります。
キャラクターについては「キャラクター論」シリーズをご覧下さい。
ほかに「文章テクニック」シリーズ、「文学を考える」シリーズもあります。
また、三幕構成の分析に興味がある方は「読書会」へのご参加をお待ちしております。
(2020/05/16現在:新型コロナの影響で開催が延期になっています。代わりにイルカのひっそりライブとしてライブ配信分析などをしています)
「読書会」は「分析をしてストックを増やす作業」の実践です。一人でやるよりもグループでやった方が多角的になるし、なにより継続する力になります。過去の様子は音声ファイルがアップしてあります。
あなたの作品がすてきなものになりますように。
緋片イルカ 2020/04/12
※次回からは「三幕構成 中級編」を毎週月曜8時更新で連載します。
次回 → 「葛藤のレベルと2本のアーク」(三幕構成26/中級編1)(5/18公開)