映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』

誠実に撮る監督

いい映画だなと思いました。率直に。

以前、予告を見て気になったまま忘れてしまっていた映画でした。

ケン・ローチ監督の作品は一本も見たことなかったのですが『天使の分け前』の印象でコメディをとる監督だと思っていました。

コロナ自粛の四月だか、五月だかに監督がインタビューに出ていました。

チャンネルを回していて、たままた映ったのを途中から見ただけなので番組名などは覚えていませんが、NHKの番組だったので映画の番宣などではありませんでした。

監督は「世界的に格差が分断が起きていることに対して、自分の世代の責任で謝らなくてはならないと思っている」というような主旨を述べていました。

とても誠実な価値観を持っている人だなと思って、作品を調べて『わたしは、ダニエル・ブレイク』を見てみました。

感動しました。

構成だけでは感動しない

この映画を三幕構成で分析をするなら……

アクト1:大工をしている高齢のダニエル・ブレイクは心臓を悪くして医者に仕事を止められます、国の援助を得ようとするが、インターネットで手続きをするように言われます。

PP1:手続きを進めていく。

アクト2:周りの人間(隣人の若者など)の手助けをえながら手続を進めて、就職活動をするように言われて、タテマエ上、履歴書を持っていって仕事を探したりもします。

PP2:申請が脚下される。

アクト3:人生に嫌気がさしたダニエル・ブレイクは身辺整理をしますが(明示はされていないが自殺しようとしているように見える)、弁護士の手助けを受けて、再申請の手続きを初めますが、希望が見えたところで心臓麻痺で死亡(ツイスト)。

表面的には三幕構成がきちんとあります。

しかし、これだけ読んでも、それほど面白い映画には見えないと思います。

三幕構成に慣れれば、構成やあらすじを作るのはとても簡単です。けれど作品の本質は構成では決まりません。いくら構成がうまくても作り手の「思い」に欠けるものは、やはり感動しないのです。

たとえば、上に書いたような構成を使い回して、作品を作っても、作者によって明確な違いが出るでしょう。

この映画には、高齢者の疎外や、貧困者の苦しさといった、一見ベタにみえる社会的なテーマがありますが、そういったテーマに対して、作り手がどれだけ問題意識を持っていて、踏み込んで作るかで、作品の質は変わるのです。

ニュースで見るような一般論でしか問題意識を持っていなければ、当たり障りのない結論しか出せません。善か悪かといった簡単な結論に落ち着けようとするかもしれません。

そういった二元論と三幕構成はとても相性がよく、エンディングもはっきりするので興業も成功しやすいでしょう。

映画を見た直後は感動もするでしょう。しかし、それはエンターテインメント的な雰囲気で巻き込むタイプの感動です。

世の中には答えなど出せない問題がたくさんあります。安易に答えを出してはいけないことも多いはずです。

そういった問題に向き合った作者は、三幕構成の持つ構造的求心力と闘わなければいけません。

リアルに描く

この映画で僕が震えたシーンがあります。

ダニエル・ブレイクは自らが経済的に困窮しながらも、同じように困るシングルマザーを助けます(サブプロット的に描かれていますが比重でいえばメインプロットに近いもう一つのストーリーです)。

大工としての腕を活かして水道を直してやるだけでなく、苦しい懐から電気代を払ってやります。

ある日、ダニエル・ブレイクは彼女をつれてボランティア団体の配給をもらいにいきます。

彼女は、品物を選んでいる途中で、唐突にトマトの缶詰を空けて食べ始めます。彼女は子ども達にだけ食べさせて、自分は何日も食べていなかったので、空腹に耐えられなくなってしまったのです。

その姿を見られた彼女は泣き出してしまいます。自分のしたことを惨めに思って、周りの人達に謝りますがダニエル・ブレイクは「君は悪くない」と声をかけます。

とてもリアルで、震えました。

監督のインタビューによると、実話をベースをしているシーンです。

頭で構成を考えて、一般論の価値観しか持たないような作者には絶対に描けないシーンです。

そういうリアルのシーンこそが、人の心を打つのです。

ただし、そのリアルとは、ここでは詳しくは書きませんが、ただ現実を映すというのとはまた違います。現実にあったことを、そのまま書けばいいというのとは違うのです。

現実と向き合いつつも誠実に物語ることが大切なのです。

緋片イルカ 2020/09/27

『わたしは、ダニエル・ブレイク』はPrime会員なら無料で見られます。

また、ケン・ローチ監督がこの映画の次にとった作品『家族を想うとき』。未見ですが、近々見たいと思ってます。

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