映画『わたしは、ダニエルブレイク』(三幕構成分析#114)

※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。

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【ログライン】

心臓を患い就労できないダニエル・ブレイク(デイヴ・ジョーンズ)が支援手当を受給しようと奮闘するが、得られずに死んでしまう。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「支援手当申請のため医療専門家との面談」女性の質問にまじめに答えない男性。男性は心臓が悪いのを伝えたいのに、見当違いな質問に呆れている。政府の委託事業者の医療専門家と名乗る女性。彼が困窮している実態を行政に伝えられるのかがこの映画のテーマだ。

CC「主人公のセットアップ」:「受給資格なし」間違ったことは許せず、ものを言うダニエル。彼は心臓を患っているために長年続けてきた大工の仕事を止められてしまったのだ。すでに亡くなった妻の介護のために、すっかり夜型の生活になってしまったらしい。そんな彼に製材所の所長が生活の手伝いを申し出るが彼は断る。頑固で人の助けを借りる気はないようだ。しかし、役所から受給資格はないと手紙が届く。電話をかけても、なかなかつながらず、やっと話せても審査の担当者とは話せない。「突然の出来事」で彼は八方塞がりだ。

Catalyst「カタリスト」:「ケイティの口論」ダニエルはやむなく求職手当を申し込むため職業安定所に行くが、苦手なPCによる申請が必要で困り果てる。このままでは静止=死だ。 職員のアン(ケイト・ラッタ―)に心配されていると、子連れのシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)が遅刻してきたため違反審査を言い渡され口論になっていた。それを見ていたダニエルは役所の融通のきかなさに怒りを抑えられず、抗議する。彼はケイティとともに追い出されてしまう。

Debate「ディベート」:「ケイティ親子を助ける」 ダニエルはケイティ親子の窮状を知り、借家を修理してやると申し出、電気代のお金を渡す。ケイティ親子は「台風の目」だ。彼が社会福祉制度の非人間的な扱いと戦いながらも、親子を支援して、感謝され、ふれあいを持つことが、彼に慰めを与え、人間の尊厳を思い起こさせてくれる。

Death「デス」:「ネットで手に入れた希望の靴」ダニエルは隣室のチャイナ(ケマ・シカズウェ)の荷物から、ネットが貧困から抜け出すための希望の道具であることを知る。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「無料PC使用施設へ」ダニエルは求職手当申請のため、無料PC使用施設を訪れる。第二幕は求職手当申請の戦いだ。

Battle「バトル」:「PCの扱いに奮闘する」PCなど使ったことのないダニエルが手当申請のために奮闘する様子がこの映画の「お楽しみ」でもある。彼は周囲の人の助けを借りて、申請を送信するが、時間切れでエラーになってしまう。

Pinch1「ピンチ1」:「チャイナが求職手当申請、支援手当不服申立てをしてくれる」ネットで仕入れたシューズを販売するチャイナが代わりに求職手当の申請と支援手当不服申立てをしてくれる。ケイティ親子のために家を修理したダニエルはお礼に夕食をごちそうされるが、ケイティが食べていないことに気づく。ケイティ親子との関係はサブプロットだ。

MP「ミッドポイント」:「求職活動、面接の辞退」求職手当の申請をすると、今度は求職活動の証拠を求められ、ダニエルはまたも苦手なPCで履歴書作成を求められる。彼は履歴書を持って、手当たり次第に事業所をあたっていく。若手の仕事が続かないことを嘆いてる園芸センターの主人はベテランのダニエルに興味を持ち、面接を案内してくれるが、「まやかしの勝利」で、働けないダニエルは求職手当のためだと断る。主人は腹を立てて、ダニエルも落ち込む。「いきなり危険度がアップ」だ。一方、ダニエルはケイティ親子とフードバンクに行く。ケイティは生理用品が無いかと尋ねるが、寄付が無いらしい。そして、彼女は空腹のあまり、突然缶詰めを開けて食べだしてしまう。ショックを受けたケイティをダニエルは慰める。

Pinch2「ピンチ2」:「求職活動の証明は足りない」困窮するケイティはスーパーで生理用品を万引きして捕まってしまう。店主に見逃してもらい、警備員から仕事を紹介すると電話番号をもらう。一方ダニエルは求職活動の証明が足りず、違反審査によって家財一式を売り払ってしまい、チャイナが心配して助けを申し出るが、ダニエルは頼らない。ピンチ1の対。

Fall start「フォール」:「求職活動の証明は足りない」ダニエルの履歴書は指示されたPCで作成されたものではなく、鉛筆の手書きのものだった。当然、電子的な記録は残っていない。違反審査を受けるよう言い渡され、4週間の支給停止になるという。次に違反すれば13週間の停止、最長では3年になる。ダニエルは無言で去り、家財一式を売り払ってお金をつくる。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「拷問の求職活動はやめる」娘のデイジー(ブリアナ・シャン)が貧しさからいじめをうけていることを知ったケイティは警備員から紹介された売春の仕事を始める。ダニエルはケイティにやめるよう言うが、彼女の決意は固く、別れを告げられる。その後、ダニエルは職業安定所のアンに働けないのに求職活動をしなければならないような拷問はやめるといい、求職手当の申請を取り下げてしまう。アンはそうして何人もホームレスになっていったのを見てきたと止めるが、尊厳を失ったら終わりだとダニエルは出ていく。映画が始まってから、彼は最も悪い状況になる。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「器物損壊罪、引きこもる」ダニエルは職業安定所を出ると、突然、壁にスプレーで「俺はダニエル・ブレイクだ」と書き始める。人間の尊厳を求める行動に町の人々は喝采するが、警察が来ると、彼はおとなしく連行される。器物損壊罪の初犯として口頭注意で済まされるが、ひどく落ち込んだダニエルは自宅に引きこもってしまう。

BBビッグバトル:「支援手当の回復申立て」メインプロットとサブプロットが交差して、ダニエルの家にデイジーが訪れ、彼女の助けられたお礼に助けたいとの申し出を受け入れる。ケイティが支援手当の回復申立てのため代理人を見つけ、ダニエルと共に申立てに向かうが、彼はトイレで心臓発作のため倒れ、そのまま帰らぬ人となる。

image2「ファイナルイメージ」:「ダニエルの葬儀」ダニエルの葬儀で、ケイティが挨拶する。朝は葬儀代が安く、貧者の葬儀と言われるが、彼は決して貧者ではなかった。人間の尊厳を教えてくれた。病によってではなく、国の制度によって彼は早い死に追いやられたのだと。ダニエルは国に心臓の病を伝えることができず、死期を早めたが、人間の尊厳は守り抜いた。

【感想】

「好き」4点 「脚本」4点 「作品」4点
ドキュメンタリーのような、時間経過をフェードアウトで繰り返してみせる演出が象徴的で。ネットで普及した動画のような演出も想起させる。
主人公の人間ドラマに絞っていて、詳しい制度の説明はなく、人物も限られているので、福祉制度が鍵となる社会派ドラマとしてみると、物足りないものも感じる。
しかし、政治的な主張を外して観てみても、ネット社会が急速に進んだこの時代に、取り残されてしまった一人の大工の男のドラマ、それが皮肉にもネット動画で普及しているドキュメンタリー演出を想起させながら、映し出されていることは印象深い。

(川尻佳司、2023/1/21)

イルカの感想
映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』

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