プロットを考える17「 オールイズロスト or プロットポイント2」

初心者の方はこちらからどうぞ→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

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前回は「ディフィート」というビートについて考えました。ここで主人公は敗北します。「ピンチ2」としてサブプロットが展開されていた場合でも「旅の終わり」があります。
たとえば、ラブコメの王道で「性格が正反対の男女が、あるプロジェクトを共同でやらなくてはいけなくなる(PP1)、最初はお互いケンカばかりしていたのが、だんだんと相手の良さに気づき認める(MP)」というストーリーがあるとして、その後、相手を意識し始めるのがMP以降の展開になります。
「ディフィート」で展開していく場合、昔の恋人などが現れて誤解してケンカする(これはサブプロットとしても機能していますが)。
「ピンチ2」で展開していく場合、サブプロットが展開された後、「プロジェクトの期間終了」が訪れます。この場合、派手な敗北にはなりませんが、関係の終了すなわち「旅の終わり」が訪れます。

神話論で言えば、「オールイズロスト」(all is lost/すべてを失って)は宝物を持って村に帰ってきたところにあたります。
待っていただけの村人達は主人公(英雄)によってもたらされた宝物を喜びますが、英雄はむなしさを覚えます。村人に邪険にされることさえあります。
ここには本当の宝物とは物質ではなく、学びや成長そのものであるという真理が隠れています。モノミスでは宝物は『究極の恵み』として定義されます。

映画のビートに戻ります。ディフィートの後の「敗北感」、旅が終わった後の「喪失感」が今回のビート「オールイズロスト」と言えます。
SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』では、「オールイズロスト」の後に「ダークナイトオブザソウル」(dark night of the soul/心の暗闇)というビートが設定されていますが、これはオールイズロストに対する主人公のリアクションでしかないので物語論的にはあまり意味がありません。アクト1のディベートと似ていますが機能が違います。なので、オールイズロストに含んでしまってよいと考えています(「ダークナイトオブザソウル」に関してはあえて別に説明することがないのでプロットを考える補足「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」)。

「オールイズロスト」のシーンとしては、それまでの「旅」の終わりを告げられショックを受け、寂しげな音楽とともに主人公が落ち込んだり悩んだりする姿が描かれます。ミステリー映画ではこの後のアクト3が真犯人との対決なので、その確信を得るための最後の推理(悩んでいる)シーンになります。

映画全体を3つにわける考え方でプロットポイントを定義する場合は、ディフィートかオールイズロストが「プロットポイント2」にあたります。
映画によってディフィートが遅かったり、オールイズロストの悩むシーンが長かったりするので、プロットポイントの位置としての目標とする全体の3/4のタイミングから大きくズレていることもあります。
ストーリーアナリストの中には、プロットポイントの位置(プロットポイント1は全体の1/4、プロットポイント2は全体の3/4という目安)に拘りすぎて、ビートの定義を曖昧にしたり矛盾した定義になっているものも見受けますが、前回考えたビートの本来の意味である「叩く」という意味で考えれば、どこにプロットポイントがあるかよりも、リズミカルに不足なく叩かれているかの方が重要だとわかります。
『SAVE THE CAT』の欠点の一つである、ストーリーが形式化してしまう原因もここにあります。

一つビートに引っ張られて失敗している例をあげます。
それは『ズートピア』という映画で、真っ直ぐな性格が魅力なウサギの警察官ジュディは、相棒の狐のニックとケンカをして警察官をやめてしまうという「オールイズロスト」があります。
そのキャラクターの行動に違和感をもつかどうかは、個人差もあると思いますが、僕はトップシーンの子供の頃から夢だった警察官を捜査の途中でやめてしまうのはキャラクターのブレを感じました。ジュディを諦めさせるにはもっと大きな敗北(ディフィート)を用意する必要があったと思いますし、オールイズロストをもう少し軽くすることでもキャラクターのバランスはとれたはずです。
「オールイズロスト」させなければいけないという思い込みで、「ジュディが警察官を辞める」というシーンが来ているように見えます。

そもそも、ビートシートより前にモノミスを応用したヒーローズジャーニーという考え方があります。ストーリー開発コンサルタントをしていたクリストファー・ボグラーが『千の顔をもつ英雄』を七頁にまとめたマニュアルがあって、ディズニーのストーリー開発部門で応用されて『アラジン』や『ライオン・キング』に使われたと言われます。
その後、ボグラーは『神話の法則』(絶版)や「物語の法則」という本を書いています。

ディズニー映画は三幕構成の教科書のようにタイミングもセオリー通りに作られています。反面に型に拘りすぎてズレることができずもったいないと感じるシーンも見受けられます。
観客が感じる矛盾や違和感は、演出的に勢いをつけて押し切ってしまうと気づかない人が多くいます。多くの観客を楽しませるという意味では正しいセオリーと言えますが、ストーリーの視点で分析をしてみると粗が見えてきます。
2回目、3回目と同じ映画を見るときに気づく人も多くなります。
このため、三幕構成を勉強しすぎると大切なことを見落とすというような言い方で批判をする人もいますが、それは導入しか勉強していない人の考え方です(『Save the cat』を読んでいても『千の顔を持つ英雄』を理解していない人が多くいます)。
三幕構成を無視して書かれたものは演出面のテンポが悪いものが多く、無視して書いていても面白いものは図らずもビートに一致しています。

形式に陥る問題点を解決するには、モノミスの亜流であるビートシートではなく本来の神話論の考え方を理解する必要があります。
講習や分析を商売としている人は、理屈として理論武装する必要があるためか、強引な説に走る人も何人かみました。
どこまで理解するか、どう使うかは、創り手の自由だと思いますが、知らないよりは知っていた方が得なのは間違いないと僕は考えます。

何かご意見、ご質問などありましたらコメント欄にどうぞ。

★まとめ:
・「オールイズロスト」は、ディフィート後の敗北感、旅の終わり後の喪失感。
・『SAVE THE CAT』の「ダークナイトオブザソウル」は物語論としての機能がないので「オールイズロスト」に含める。
・構成上はプロットポイント2と定義されることも多い。
・ビートに縛られると、形式化する。
・ビートを無視しすぎると、リズムが悪くなる可能性が高い
・亜流のビートシートではなく、本質的であるモノミスをいずれは理解すると良い。

緋片イルカ2019/05/10

イルカの音声解説はこちら(※しまうまさん抜きで録音しています)

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