この作品は脚本学習中のどるどるさんによるものです。作者の了承を得た上で掲載しています。無断転載は禁止。本ページへのリンクは可能です。
※どるどるさんはライターズルームメンバーではありませんが、オーディオドラマを学習中の方で「脚本は設計図に過ぎないので作品化した方がいい」という考えを受けて、ご自身で朗読もされ、発表のひとつの場として当サイトで掲載させていただきました。
タイトル『霧の夜に』
作・朗読:どるどる
登場人物
大沢紘一 28歳 刑事
辰野正孝 35歳 刑事
雪絵 30歳 スナック紅のママ
本文
SE パトカーのサイレン。
大沢MO 俺は大沢紘一。刑事だ。数日前から俺は、霧の深い夜に起こる、奇妙な連続殺人事件を追って、山あいの村に来ていた
大沢「辰野先輩!」
辰野「来たか大沢、こっちだ」
大沢MO 深い霧の中、ぼんやりと輪を描くライトが見えた
SE 崖を滑りながら降りる音。
大沢「こんな崖下にガイシャが? 辰野先輩、また例のコロシですか?」
辰野「それがな、今度のガイシャ、あのうるさい雑誌記者、名前が確か、西、西」
大沢「西田、ですか?」
大沢MO 俺は、蝋のように白く変貌した西田を見て激しく動揺した。なぜなら西田は、夕べ同じ飲み屋にいたからだ
辰野「ほら見ろ。首の噛み傷、血も抜かれてる。これじゃ犯人はまるで吸血鬼だよ」
大沢「冗談やめて下さいよ」
大沢MO 俺は、夕べ西田と同じ店にいたことを、辰野先輩に言えなかった。俺は、もう一度あの店に行って、確かめたかった。あの時、西田が言った言葉の意味を
SE チリンと鳴り、ドアが開く
雪絵「あら、いらっしゃい、大沢さん」
大沢MO スナック『紅』は、暗い山道の先にぽつんとある店だ。俺は、まるで呼ばれているように毎晩《紅》に通った。今夜も霧が濃い。
雪絵「ビール?」
大沢「お願いします」
SE グラスにビールを注ぐ音。
大沢「(一気に飲み干して大きなため息)」
雪絵「何かあったの?」
大沢「雪絵さん。夕べそこの席に男が居ましたよね? 西田っていう雑誌記者」
雪絵「ええ」
大沢「帰り際、西田が雪絵さんに何か妙なこと言ってた、気がするんです」
雪絵「なんて?」
大沢「お前が、生きてるはずがない、とか」
大沢MO 店の空気が揺らいだ気がした
雪絵「……聞こえてたのね」
大沢「雪絵さん?」
大沢MO 雪絵さんの赤くてやわらかな唇が、ゆっくり俺の唇に重なった。俺の意識が遠のいていった
SE 鳥のさえずり
辰野「おい! 大沢、おい、起きろ!」
大沢「あ、あれ? 辰野先輩? ここは?」
辰野「お前、よくこんな山ン中で寝てられるな。居なくなったから心配したぞ」
大沢MO いくら見渡しても店はどこにもなかった
SE 風が吹き渡る音
(了)
2023.10.11