3分ミステリー「自称探偵シュガーの事件簿」file4 妹のお年玉

音声は2種類あります。
【ラジオ版】イルカとウマの前説と途中で推理トークが入ります。
【ドラマ版】音声ドラマのみをお楽しみいただけます。
【テキスト版】ページ下部にあります。移動する場合はクリック

【ラジオ版】(16分06秒)

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【ドラマ版】(4分14秒)

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【テキスト版】

『自称探偵シュガーの事件簿』

俺の名前はシュガー。職業は私立探偵。
依頼はまだない。
依頼がないのに探偵なのかって?
ふっ、心配することはない。俺ぐらいになると事件の方からやってくるのさ。

file4 妹のお年玉

 事務所の電話は今日も鳴らなかった。
 探偵への依頼がないのは世の中が平和な証拠。大いにけっこうじゃないか。収入は欲しいが俺は多くは望まない。甘いものさえあれば、それでいい。
 家に帰って、母さんのつくったカレーを食べる。もちろん、はちみつたっぷり、甘口だ。飲み物は炭酸ジュース。
「あ、お兄ちゃん、それ、私のコーラだから」
 俺には中学生になったばかりの妹がいる。それも双子だ。姉のパピコと妹のグリコ。このウルサい方はパピコ。
「はい、弁償ね、一万円でいいや」
 パピコが掌を差しだす。
「バカか、お前は。俺にそんな金があるわけないだろう」
「じゃあ、あの財布はお兄ちゃんのじゃないよね?」
 振り返ると、妹のグリコが俺の財布から一万円札を抜いている。
「ヤメロ。これは探偵としての調査費用だ」
 俺は財布を奪い返す。
「どうせママからもらったお小遣いでしょ。可愛い妹達に恵んでよ。こんど原宿にいくから、お揃のトレーナー買うの」
「知るか。母さんに頼め」
「ケチ、ボケ、ハゲ」
 パピコが黙ると、次はグリコの攻撃だ。こいつは温和しそうに見えて怖いことを言う。
「そういえば、私、部屋に隠しておいたお年玉の残りなくなったんだよね。あれ、お兄ちゃんでしょ。だから返してもらうね。3万円」
 妹達の部屋は二階にある。俺の隣だ。だが部屋の扉には防犯カメラがついていて、俺は入れない。
「この前、マンガ貸したでしょ。あの中に挟んであったの」
「マンガとは『恋する探偵さん』のことか?」
「ちがう。『キラキラ恋日記』。これなら、お兄ちゃん読まないと思って、お年玉のポチ袋に入れたまま挟んでおいたの。たしか99頁と100頁の間、ね、パピコ」
「うんうん、私も見てた。表に門松のイラストが描いてあるポチ袋だよね」
「3万円入ってたけど可哀想だから、その1万で勘弁してあげる」
 まったく。ディテールに拘るあまり墓穴を掘ったようだ。
「妹たちよ。お前達の話はありえないぜ。シュガーな作り話だってバレバレだ」

★クエスチョン

シュガーが指摘する「ありえない」点とはどこでしょう。

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■解決編

 俺はこう推理した。
 ポイントは1つだけ。グリコが99頁と100頁の間に挟んだと言ったこと。本にそんな見開きは存在しない。1頁目から始まるので99頁と見開きになるのは98頁である。

 そのことを指摘すると、双子は強硬手段に出た。パピコが俺を羽交い締めにすると、グリコがわさびのチューブをとってきた。俺の口に流しこむ気だ。俺は善意の気持ちからノンシュガーな妹達に一万円寄付することにした。
 俺にとってはティラミスみたいにほろ苦い事件だったぜ。

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