目標を数値化して実現する

「今年の目標を言いなさい」

こういう質問が苦手な人がいると思います。

「ライターズルーム」では「脚本課題の本数」と「映画を見る本数」の目標数字を聞いて、分析会などで集まる度に定期的に進捗をチェックしています。

何かを完成させるような、仕事のプロジェクト(橋を建設するとか)であれば、ごく普通のやりとりではないかと思います。

当たり前ですが、脚本の仕事でも〆切がありますし、映画でもいろんな部署があるので、段階的に修正稿を出して完成させていきますので似ています。

「ライターズルーム」はプロの脚本家になりたいという前提で集まってもらっているので、お勉強会や習い事スクールのような「褒めて伸ばす」ようなやり方ではありません。

もちろん、いい仕事をすれば正当に褒められますが、中途半端に褒めていると、グループとしての価値基準が下がります。

「いい仕事とは何か?」を、プロ基準におかなくてはいけないのです。

そういったやり方に、慣れずに大変さを感じている人もいるかと思いますが、しつこく本数チェックはしていきます。

ただ、その意図や意義だけは説明しておきたいと思います。

ちなみに僕の過去の数字は執筆・鑑賞の参考値に書きました。

目標を立てる2つの意義

目標には2つの役割があります。

1つめは「モチベーションの維持」です。

小学校などで「将来の夢はなんですか?」と聞くときに似ています。

実現の可能性に限らず「叶うよ!」と言われる(教師の倫理観に基づくチェックはされますが)。

未来にポジティブな態度をもつことで、前向きに課題を取り組んでいけるようになります。

プロの脚本家になったら、自分の生活はどうなるだろう?

「芸能人に会えるかも」「お金がたくさん」「作家ってカッコイイ」といった俗っぽい憧れを含んでいて構いません。

あるいは「今の仕事をやめられる」「嫌な奴から離れられる」といった逃避的な側面をもっていても構いません。

その目標を考えるとき、頑張ろうと思えたり、ワクワクできるかが大切です。

俗っぽい動機しかない人に、いい作品が書けるかという疑問はありますが、貪欲に物語技術を学ぶことに繋がるのであれば、最初はそれでいいと思います。

目標の2つめの役割は「具体的なゴールの設定」です。

ゴールといっても最終的な到着点である必要はありません。人生の意義のような高尚な目標を求めてるわけではないので「プロになる」で構いません。

「プロ」の基準も人それぞれです。

一度でもクレジットされればプロか?

原稿料だけで生活できるようになってプロか?

そこには段階がありますが、まずは「デビューすること」でしょう。

脚本家としてデビューするには「コンクールで受賞する」か「コネから仕事をもらうか」しか、ほぼほぼないでしょう。

コンクールで大賞を受賞をすれば、映像化されますし、大賞でなくても名前は知られます。デビューと呼んでもいいでしょう。

小さい仕事であれど、作品として見られるものにクレジットされていれば、名刺代わりになります。

こういった作品では、公に募集はしていないので、コネからもらう形になるでしょう。

まあ、自分で映画を作るというのもありますが、監督やプロデューサーも兼ねる気持ちがあれば、それもいいでしょう。

いずれにせよ「実力」が必要です。

「コンクール受賞」はもちろんのこと、「コネ」で仕事をもらったとしても実力がなければ続きません。

「一本だけデビューすれば、それで満足なんです!」という目標であれば呑み会など出まくって営業活動をすれば達成できるかもしれませんが、仕事して続けていきたのであれば「実力」が要ります。

目標を数値化する

「デビューする」を「大目標」と呼ぶなら、「実力」をつけることが、次の「中目標」です。

大目標はワクワクできるような憧れや願望を含んで、モチベーションを上げる目標でなければなりません。

旅行の目的地のように捉えても構いません。

「どこどこへ行ってみたいな~」という憧れと、「デビューしたいな~」という憧れは似ています。

次の「中目標」では、そのための具体的なプランを考えます。

旅行でいえば、いつ、どの交通機関を使って、どこに泊まるのかといった、具体的なプランです。

ここで面倒くさくなる人もいるでしょう。

意外にお金や時間がかかるんだなと現実を知って、萎える人もいるでしょう。

それなら、それまでです。

プロの作家として続けていくことはけっして甘くはないので、中途半端に続けるよりは、本当に自分に合った道を見つける方が、人生も豊かにもなるでしょう。

大変そうだけど、叶えたいと思うなら、具体的に計画していくべきです。

これまで一度もコンクールに応募したことない、長い作品を書いたことがない、というのであれば「まずはコンクールに出す」というのが一つの中目標になるでしょう。

応募したことがあれば「どうすれば受賞できるか?」という次の目標が出てきます。

目標達成へのルートが、自分だけでは見えてこないという人もいるでしょう。

初めての旅で、どうやって行ったらいいのかわからないなら、旅行会社を頼ればいいのです。

「ライターズルーム」には僕がいます。

脚本課題でいえば、まずは「100本」を目指すように言っています。

旅行プランでいえば「どうしても、これぐらいの金額はかかってしまいますね」というのと似ています。

「ヨーロッパ旅行を1万円で? それは、ちょっと無理かと……」

100という数字は、大変そうに見えるけど、やってやれないことのない数字です。

10では簡単すぎます。1000だと遠すぎます。

100本を達成したら、必ず腕は上がります。それなりの自信もつきます。

プロになれるか、受賞できるかは保証はできません。

センスが良ければ100本もかからないし、悪ければもっとかかるでしょう。

100本という目標は、絶対的な目標ではなく、あくまで当面の目標、作業仮説のようなものです。

「どうしよう? 自分にプロになれるかな?」

なんて迷っている暇があったら、100本課題に取り組んでみてくださいと伝えています。

自分にはプロが向いているかどうかも、挑んでる途中で気づけるでしょう。

プロの作家になるということは100本程度ではなく、一生書きつづけることなので、それが苦痛であるようなら向いてません。

もちろん苦痛はゼロではありません。どんな仕事でも嫌な部分はあります。

〆切に追われたり、あれこれダメ出しされたり、大変だけど、それでも書くことに喜びを見出せるなら向いているかもしれません。

一年はあっという間です。今年も2ヶ月過ぎました。

これまで何本書きましたか?

このペースでいくと、今年一年で何本書けますか?

100本書き上げるのに、何年かかりますか?

それでも続けますか?

答えがYESなら、頑張りましょう。サポートはします。

「いつかプロになる」と豪語していても書いていない人は、プロにはなれないでしょう。

「自分には無理だ」と悲観していても、書きつづけている人は、必ず腕が上がります。

「中目標」では具体化することが大事です。数値化することは、極めて客観的な方法です。

豪語する人も、悲観する人も、発言には関係ありません。

やったかどうかだけを、自他共にはっきりと判断できるのです。

自分の目標を淡々と進める

「大目標」「中目標」を立てた人、あるいは「難しくて考えられない」という人、いずれにしてもやるかどうかは「小目標」にかかっています。

「小目標」は、日々の生活、目の前の「課題」です。

とくに数日や一週間程度でできる「課題」のことです。とくに3日以内の目標が大事です(人間のモチベは3日までなら気合だけで維持できます)。

そこには、自身の生活が関わってきます。

収入のためにしなくてはいけない仕事や、家庭のこと、その他、遊びの予定や、ついついやりくなってしまう事柄などもあるでしょう。

3日のスパンで、具体的に「課題」に取り組んでもいなければ、いつ書き上がるのでしょう?

どうしても、絶対的に外せない用事が詰まっている3日間ということもあります。

そんなことは自分で調整することです。

この3日がダメでも、次の3日で完成するなら構いません。自己管理はできています。

その程度の細かいことを言っているのではなく、

「この3日は書けなかった。次は頑張ろう」などと言って、3日後には「ああ、またダメだった」などと続けることです。

気づけば1週間、1ヶ月、1年と過ぎていきます。

そんなペースで、目標はいつ達成できるのでしょう? いつ、プロデビューできるのでしょう?

そもそも書く時間自体が確保できないのであれば、生活自体を改善する必要もあるでしょう。

仕事をして、家事をする。残りの時間は疲れて寝てしまう。

大変だと思います。「だから書けません」と言いたくもなるでしょう。

ですが、仕事なら「お忙しいようなので、他の作家さんに頼みますので、ご自身の生活頑張ってください」と言われるのがオチです。

デビューしても、いきなり生活が保証されることなど、ほとんどありません。二足のわらじを続けなくてはいけない時期があります。

そういう時にも、書く時間が確保できないのであれば、現実問題としてプロにはなれないでしょう。実力以前の問題です。

ちなみに僕の事例を言えば、自分の方法が正しいとは微塵も思いませんが、18歳の頃から、書いたり読んだりする時間を確保するため、意図的にアルバイト生活をしてきて、結果的に時間の確保をできたことが成長につながったと思います。

実家住みだったからこそできたとも思っています。それを許してもらえた環境に感謝もしてます。一方で、年を重ねるごとに就職が難しくなって、将来どうなるんだろう?という不安や社会的なリスクが高まる危機感もありました。

有名な作家には、サラリーマン生活をきちんとこなしながら、出社前の数時間をきちんと確保して書きつづけた人もいます。

大変さ勝負をしだしたら、病床や、収容所の中で、死と隣り合わせに書きつづけた作家だっています。

ですが、環境は人それぞれです。書きやすい環境にいれば、書くのが難しい人もいます。

他人と比べるものではなく、自分で折り合いをつけるしかないということです。

現実は残酷です。

客観的な事実である「数値」も残酷です。

学校のテストなどを思い出せばわかるでしょう。やったかやってないかはテストの結果に出ます。

裏を返せば、やりさえすれば点数など獲れるのです。

物語でも同じです。誰でもノーベル賞をとれるとは言いませんが、東大ぐらいやれば入れます(東大生が年間に何人いるか考えてみてください)。

課題100本とか、「デビュー」ぐらい、やってやれないことはないのです。

逆に、やらないということは、やりたくない=本心ではプロになりたくないんだよね?と、周りからは見られます。

コネという観点でも、(実力がなくても)頑張っているから面倒を見てあげたいと思う人が、世の中には必ずいます。

努力は周りの人間の気持ちも動かすのです。

だけど、実力もなく、努力もしていない人に「頑張れ!」と言う人は限られます。

仕事としてお金をもらっている人(たとえばスクール講師)とか、自分の理想を他人に押しつける人(たとえば夢やぶれ親が子供に)ぐらいでしょう。

親しい友人であれば「合わないなら辞めれば」と言ってくれるのが、むしろ優しさかもしれません。

(※内情を知らない方のために補足させてもらいますが、ライターズルームでは添削などの指導に関してお金はいただいていませんし、僕自身は自分の作品を書いている現役なので、自分の理想を押しつけようとは思いません。プロを目指したいという人が集まったので、具体的な方法論を提示していますが、やるかやらないかは本人次第と思っています)

物語では、主人公のキャラクターアーク、つまり成長・変化を描けなくてはいけません。

自分の人生においては、自分が主人公です。

努力して、目標を達成するイメージは、物語の能力と直結します。

目標をもって努力することは、量をこなして実力をつけるというだけでなく、物語のセンスを養うことにも繋がっているのかもしれません。

緋片イルカ 2023.2.23

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