10分脚本を効率化する

「10分脚本」を仕上げるスピードを上げるために必要なのは、もちろんタイピングのスピードを上げることではありません。

「考える」「決める」といった内面の処理を速くすることだったり、初心者にとっては「書くことへの心の抵抗感」を下げることです。

創作には「クリエイティブな作業」がたくさんありますが、実際は「やるだけ」の雑務のような作業もあります。

「やるだけ」のことは素早く処理して「クリエイティブな作業」に集中して時間を欠けることはスピードを上げるコツです。

具体的な例を以下に示していきます。

フォルダ・ファイルを作成

下手な考え休むに似たりで、「何書こう?」「どうしよう?」と考えてばかりいても作業は進みません。

どこかから「すばらしいアイデア」が降ってくると待ちかまえていても、時間ばかりが過ぎていきます。

まずは「出来ること」から処理してしまいましょう。

脚本を執筆しようとしたら、誰でも最初にやる作業は「ファイルを作ること」です。

過去に書いたテンプレートなどがあれば、コピペして、新しい作品のファイル名にすればいいだけです。

こんな作業は「5分」もあれば出来ます。

書くのが遅い人ほど「書くときにファイルを作ればいいや」と思って、出来ることを後回しにします。

ファイルをつくることで「5分」のアドバンテージを得ようというのではありません。内面の処理をスムーズに行うために、作るのです。

僕は依頼を受けると、すぐにファイルを作ります。

内容は真っ白で、ファイル名もいったんは適当。それでも、書くときは「このファイルに書くんだ!」という心の準備ができるのです。

書く段階になってファイルが準備されておらず「あれ、どこだっけな?」なんて探してるうちに、せっかくスイッチが入ったやる気が萎えてしまうこともあります。

スポーツなどで、レースの前に慌てないように必要なものを準備しておくのと同じです。

千里の道も一歩からならぬ、千頁の道もファイル作りからです。

騙されたと思って、すぐにファイルを作ってみてください。

人物表から書く場合

10分脚本においては、本分の前に「人物表」「ログライン」「狙い」の3つの項目があります。

実際は、どのタイミングで書いてもいいし、あとで修正していいのも大前提ですが、ファイルを作った後は、すぐにここに取りかかると考えましょう。

内容が決まっていないと書けないと思うかもしれませんが「書けるところだけでも書いてしまう」のです。

どこが書けるか?

そのとき、浮かんでいるストーリーによって違います。

キャラクターが決まっていれば、それを人物表に並べていきます。

名字と名前を考えるのは、実はわりと時間が掛かる作業です。

ネーミングを大事にしない作家は、キャラクターを大事にしていないことでもあります。

赤ん坊の名前を考えてやるように、性格やイメージに合った言葉を選ぶ作業自体がキャラクター創作の一歩です。

人物表では年齢も決まります。14歳とすれば中学生の可能性が高いし、70歳とすれば仕事はしていない可能性が高いでしょう。

名前、年齢、職業が決まるだけで想像力は刺激されるはずです。

身近な人をモジって使うのも構わないでしょう。その人の性格も借りられるので一石二鳥かもしれません。

あまりに本人に似過ぎてまずいなと思ったら、ラベルを貼り替えるように名前だけ変えて偽装しておけば大丈夫です(検索・置換を使うと便利)。

キャラクターのイメージができたら、その人たちが何をしたら面白いかを考えてログラインにしていきます。

ログラインから書く場合

主人公をどんな人にするかすら決まっていないけど、ネタとかエピソードだけ浮かんでいる場合はログラインから考えます。

たとえば「人身事故で電車が止まる」というイベントを使おうと考えていたとします。

構成のイメージとして、どこにそのイベントを置くか考えます。

トップシーンに置くなら「人身事故で電車が止まってしまった主人公は……」となります。

ミドルに置くなら「主人公は〇〇しようとしていたが、人身事故で電車が電車がとまってしまい……」となります。

ラストに置くなら「主人公は〇〇するため、△△へ急いでいたが、人身事故で電車が止まってしまった」など。

あとは〇〇や△△や……を穴埋めしていけば、ログラインが出来ていきますし、自然とキャラクターも決まってくるはずなので、人物表を並行して進めていいでしょう。

ここで重要なポイントは「穴埋め作業」に変換することで、クリエイティブな意識が集中することです。

つまり「何を書こう?」と漠然と考えてる意識と、「主人公は〇〇しようとしていた」の〇〇に当てはまるものを考えようという意識では、後者の方が考えやすいのです。

「何でもいいから面白い話して」と言われるよりも「最近、見た中で一番面白かった映画の話をして」と言われる方が楽です。

もっと言えば、「最近っていつ?」となるなら「ここ1ヵ月で」となれば「ああ、あの3本しか見ていない」となるし「見ていなければ見てない」と答えられるので楽な質問になります。

こういうことは「いったん書けるところまで書いてみよう」と、進めてみることで課題に気づけます。

ファイルも作らず、頭の中で考えているのは「クリエイティブな作業」ではなく「やれることをやっていない」だけなのです。

狙いから書く場合

キャラクターも、エピソードも浮かんでいないという人は、いったん「狙い」を決めてしまいましょう。
参考:10分脚本における「狙い」についての補足

「狙い」を決めるのに必要なのは「決断力」だけです。

作者自身が、今回の作品では「こうしたい」「これに取り組もう」と決めるだけなのです。

「いつも男性ばかり主人公にしてるから、今回は女性にしてみよう」とか「10代の恋愛ばかり書いているから、高齢者を書いてみよう」とか、その程度の問題意識でいいのです。立派な「狙い」です。

むしろ「感動させよう」「笑わせよう」なんて「狙い」は言葉は簡単なようで、実際は相当な技術がいります(笑わせようと思って笑わす能力をお持ちなら、芸人さんにでもすぐになれます)。

自分のなかでの「決断」すら難しい人は、機械的に決めてしまいましょう。

テレビを点けて最初に映った人を主人公にしてみるとか、スマホの電話帳をみて5番目に来たひとを主人公に書くとか、ルールに従って遊べばいいのです(良くも悪くも課題なんて練習ですから)。

エピソードで「事故」を使いたいと決めたら、検索してみるのもいいでしょう。

誰でもすぐに「自動車の交通事故」が浮かびますが、すこし調べてみるだけで、いろんな事故があるはずです。

一般の人が知らないようなネタを見つけたら、それだけでフックにできます。

「自動車の事故」だって、ぶつかり方や原因などでパターンが無数にあります。それを取り込むだけでリアリティが増すでしょう。

漠然と「何書こう?」と考えてるより、「ネタになる事故ないかな?」という意識で生活している方が「クリエイティブな作業」をしていることになります。

そんな風に生活していると、不思議とネタに出会えるものです。

下書きとして書く

「人物表」「ログライン」「狙い」の三つが固まれば、何を書くかは決まったようなものです。

次のハードルは「トップシーン」です。

オープニングイメージの知識があると「トップシーン」が重要なのは知ってるはずです。

考えすぎて、書き始めに抵抗を感じる人には「初稿で完璧を目指そう」という意識が潜んでいるかもしれません。

「ライターズルーム」では必ず修正稿の提出がありますので、その段階で直せばいいと考えてしまうのは一つの手です。

雑な脚本を周りに見せることに抵抗があるなら、初稿提出前にもう一度、直せばいいだけです。

「0」から「1」を生むより、「1」を「2」にする方が簡単というのは感覚としてわかると思います。創作できない一般人でも、他人の作品に難癖つけます(そして的を射ている場合もあります笑)

初稿なんて「0」から「1」どころか、「0」から「0.1」でもいいのです。まずは生むこと。

〆切を逆算して修正できる日を確保して、まずは「0.1」の出来でいいから=下書きのつもりで書いてしまうのです。

下書きと思えば「雑なセリフ」など書いても許容しやすいでしょう。あとで直そうと思って、先に書き進みましょう。

「0」から「1」を目指して、〆切ギリギリで書き上げたものは「1」になるか怪しいものです。焦って書き上げて、結局は「0.6」ぐらいになるのがオチです。

それよりも「0.1」でもいいから下書きを仕上げると、心に余裕が生まれます。最悪の場合、直す時間がとれなくても提出はできる安心感もあります。

リラックスした気持ちで作品を見直すと、気づくことが大いにあります。そこから直せば焦って書いた「0.6」より良くなることが多いでしょう。

ちなみに「オープニングイメージ」というビートは修正稿で入れた方が、圧倒的に入れやすいタイプのビートです。

ビートが分かっている人ほど、初稿で入れていこうなどとは考えません。

まとめ

今回は「ファイルを作る」など言わなくてもいいような細かい作業を提案しましたが、実は誰にも言われないような細かいことにコツが潜んでいるのです。

弟子は師匠の所作を見て盗むもので、師匠の言葉だけを聞いているだけではレベルは上がりません。

一流のアスリートは地味な基礎練習や道具の扱いなど細かいことを、とても大事にします。

勉強のよくできる子と、宿題をやってこないような子には、生活習慣や態度に明らかな差があります。

創作はクリエイティブな作業で、その部分においては初心者だけでなくプロにとっても大変な作業です。

けれど、書き慣れている作家は向き合い方を身につけているのです。

それは「ビートを身につけている」といった派手なことばかりでなく、「すばやくファイルを作る」という小さな作業の積み重ねです。

「クリエイティブ」に見える作業も「調べればわかる」「決めるだけ」といった「やるだけの作業」に変換することができです。

そういった雑務のような作業を、すばやく片づけてしまえば「クリエイティブな作業」だけが残り、大切なことに意識を集中できます。

初心者ほど下手な考えにとらわれたり、闇雲にぶつかって、むずかしいと悩んだり、才能がないと悲観したり、創作自体を辞めていく人もいます。

大切なことは意識を変えること。アドバイスに素直にすぐに従ってみること。

他人から何かを学ぶということの基本です。

「他人に教える」という経験をしたことがある人なら感じたことがあると思いますが、良い方法を伝えても、素直に従う人はなかなかいません。

「なるほど」なんて、その場で言っても、実行しないのです。

本当に良いかどうかはやってみないと分かりません。やって合わなければ止めてもいいでしょうが、やらずに良いものを逃すのは損です。

考えてばかりで動かない人は、言い訳ばかり。どんな世界でも、素直な人はよく伸びます。

緋片イルカ 2023.8.11

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