脚本作法16:文字情報の扱い

ライターズルームで「初心者禁止事項」に入っている項目の意義について解説します。

テロップの書き方

「テロップ」は、画面上に出る字幕です。主に「人物名」「場所」「時間経過」の補足として出します。

〇野球部の部室・内(昼)
山田太郎(18)が入ってくる。
T「山田太郎・キャプテン」

このサイト上では区別できませんが、ト書きとして書きます。セリフ形式ではありません。

テロップを使うかどうかは、作品全体の方針などもあるし、編集段階で決めることもあるので、脚本家が気にしすぎることはありません。

名前について、初心者が忘れがちなので「呼ばせないと、観客がわからない」ということです。

脚本上は「山田太郎」と書いてあっても、映像では「おい、山田!」とか誰かに呼ばせないと、その人物が「山田太郎」であることが伝わりません。

とくに、画面に登場して早い段階で呼ばせておかないと、あとで「山田が言ってたよ」みたいなセリフが出てきても、観客は「山田って誰?」となってしまうことがあります。

脚本を文字として読むのではなく、映像をイメージして読むように心掛けましょう。

あまりに登場人物が多い場合や、野球のようなチームスポーツもので、部員がたくさん出てくるような場合、脇役までいちいち名前を呼ばせるのは手間であったり、ムダな段取りになってしまうことがあります。

そういうときは、テロップで出していく方針のがスムーズという判断もできます。

時間経過では「建物外観(朝)」に合わせて「翌日」と出す「説明的な表現」がありますすが、この方がスムーズか、ドラマの流れを崩さないかなどの、判断によるでしょう。

初心者は、テロップで出せば、なんでも伝えられるという態度にならないように注意しましょう。

タイトルの書き方

タイトルは作品名、サブタイトルも同様です。

〇裏路地(夜)
花子、歩いている。
道端に倒れている男。
包丁が刺さって
花子、悲鳴。

〇タイトル「暗い夜道殺人事件」

柱形式にしたり、ト書きに入れたり、どちらでも構いませんが(※僕は目立つように柱にしますが、シーン番号が増えないないように注意する)。

脚本で指定しても、編集段階で変わってしまうことも多いので、あえて書かなくても構いません。

シリーズものなどに参加した場合だと「アバン」とか「前回予告」などと合わせて、形式が決まってるはずなので従えばよい、という意味でも課題などで気にする必要はない。

応募作品でも入れても、入れなくても良いです。

あえて入れると効果的なのは、セットアップに時間がかかるようなストーリーで、リズムをつける場合。

タイトルより前のシークエンスは「プロローグ」という印象を与えられるので、あえてタイトルを入れて、この後から「本編ですからね?」と印象づけるためなら意図的に書くのも良いでしょう。

スマホ画面の書き方

スマホ画面の文字も書き方はテロップと同じようにト書きに書きます。

ただし、Tではなく何の文字か分かるように書きます。

〇道端(昼)
太郎が歩いている。
電話が鳴る。
太郎、スマホを確認。
スマホ画面「母」
太郎、電話に出て、
太郎「もしもし……」

ただし、以下と較べてみてください。

〇道端(昼)
太郎が歩いている。
電話が鳴る。
太郎、電話に出て、
太郎「なに、母さん……」

スマホの画面をわざわざアップで見せる必要があるのか?(説明的になっていないか)

よく考えた上で判断してください。

最近は使われなくなりましたが、メールの場合も書き方は同じです。

〇道端(昼)
太郎が歩いている。
メール着信音。
太郎、スマホを確認。
画面にメール「牛乳かってきて」

など。説明しづらければ、

スマホ画面に「牛乳買ってきて」とのメール。

など、文面が「」で明確になればOKです。

メールに代わって、最近多いのがラインなどのメッセージアプリでのやりとり。

3人グループの会話としてみます。

〇道端(昼)
太郎が歩いている。
メッセージ着信音。
太郎、スマホをとりだして確認。
以下、画面上で、
 × × ×
二郎「今日の待ち合わせ何時だっけ?」
花子「あれ、今日だっけ?」
二郎「そうだよ。花子も忘れてた?」
太郎「二人とも忘れてたなら明日でもいいよ」
花子、土下座している動物スタンプ。
二郎、OKのスタンプ。
 × × ×
太郎、スマホをしまって歩き出す。

書き方として説明しましたが、スマホ画面をアップにして、文字だけで会話をさせるのは「映像表現」としては説明的でオススメできません。

妥協案としては、アプリ内の言葉を声で重ねるとか、特殊な映像的な処理として「吹き出し」でテロップ的に重ねてもらうとか、狙いがあればト書きに書いておけば伝わるでしょう。

ただし、必ずしもそう演出してもらえるとは限りませんし、脚本家が考えるべきはドラマ的な効果や、アプリ会話によって観客の没入感を阻害しないかです。

文字情報が出ているあいだ、画面上に何が映っているのか、映像的なイメージを必ずもつようにして使いましょう。

それが上手く処理できない初心者は使用禁止です。

手紙の書き方

手紙も書き方自体は、スマホ画面と同じです。ト書きに書きます。

〇寝室(朝)
太郎、サイドテーブルに封筒を発見。
開いて、読む。
手紙の文面「あなたがこの手紙を読んでいる頃には、わたしは飛行機に乗っていると思います。あなたからのプロポーズ、とても嬉しかったです。だけど、わたしは自分の……」

長い文章はモノローグを重ねた方がいいでしょう。

ただし、モノローグ自体にもデメリットがありますので、別の工夫も常に考えてください。
参考:脚本作法15:モノローグの扱い

文字情報のメリット・デメリット

実は映像の中に「文字情報」多く映り込んでいます。

街を歩いてるシーンではお店の看板や、衣裳や小道具のメーカーのロゴが映っていることもあります。

観客は、映像を見ながら、何気なくそういうものを読んだり、認知しています。

悪目立ちするもの(観客が気になるようなもの)は、没入感を阻害するため観客の目を引かないように演出するべきでしょう。

パッと下の画像を見てみてください。


ぱくたそ(www.pakutaso.com) photo by カズキヒロ

第一印象はどうでしょう?

「夜の繁華街」といった印象ではないでしょうか?(ちなみに新宿らしい)。

次に、上の画像をもう一度見て、あえて写真内にある文字を読んでみてください。

「やきとん」「カラオケパセラ」「風俗情報」とか、文字として読むと、その言葉が印象に残り、最初の印象が薄れてしまうのではないでしょうか。

文字は「文字として強く認識」されると、映像に没入していたときの感覚を阻害します。

以下はどうでしょう?


ぱくたそ(www.pakutaso.com) photo by カズキヒロ

「歌舞伎町」というのが強く印象づけられますが、歌舞伎町のシーンのセットアップであれば問題ありません。

歌舞伎町に来たことがない人でも「ああ、歌舞伎町なんだな」と認知できます。

ストーリーの補助になっているので、没入感を阻害しません。

これが「やきとん」や「カラオケパセラ」という認知との違いです。

日本人は字幕で映画を見ることに慣れていますが(アメリカでは英語でない映画は吹替が基本らしい)、見ている最中は読んでいる感覚はあまりないと思います。

ですが、読みづらい文章だったり、あまり使わない表現が単語が出てきたりすると「読んでいる感覚」になることがあります。

また、「手紙」「本」「パソコン画面の情報」など、長文をアップにして読ませるのは、多くの観客を「読ませる感覚」に誘導します。

短い単語より、長い文章の方が、読ませるのは当然です。

読む感覚には個人差も大きく、判断も難しいところもありますが、工夫して上質な映像表現を目指していきましょう。

とにかく、説明のためだけに安易に文字情報を出すクセをつけないようにするのが「初心者禁止事項」の意味です。

緋片イルカ 2023.8.3

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