脚本作法15:モノローグの扱い

ライターズルームで「初心者禁止事項」に入っている項目の意義について解説します。

モノローグの書き方

まずは脚本上の書き方を説明しておきます。

例文1:
○キッチン
冷蔵庫をあけて、
太郎「牛乳がない……」

これは独り言です。つまり、役者は声に出して「牛乳がない」とセリフを言うことになります。独り言については「脚本作法14:独り言の扱い」をご覧ください。

例文2:
○キッチン
冷蔵庫をあけて、
太郎「牛乳がない……」

このように「M」と付けるとモノローグになります。もちろんMonologueの「M」です。「心の声」という書き方をする人もいますが字数の少ない「M」でよいでしょう。役者が直接喋るのではなく、映像に「マイクを通したような声」を重ねる処理になります。

例文3:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあける。
女の声「牛乳ないじゃん!」
振り返ると妹が立っている。
妹「お兄ちゃん、ぜんぶ飲んじゃったの?」

この「女の声」はモノローグではありません。普通のセリフとしての声です。

映像で、妹の姿を見せるよりも先に声を聞かせるときの書き方です。

「女の声」としましたが「妹の声」にしても構いません。

ただし、妹が初登場だとしたら、以下のような書き方はしません。

例文4:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあける
妹(15)の声「ないじゃん!」
振り返ると妹が立っている。
妹「お兄ちゃん、ぜんぶ飲んじゃったの?」

これはルール違反。セリフ欄に年齢は入れません。

例文5:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあける
妹の声「ないじゃん!」
振り返ると妹(15)が立っている。
妹「お兄ちゃん、ぜんぶ飲んじゃったの?」

これはルール上はNGではありませんが、初見の読者の気持ちになると「妹の声」というセリフの時点で「ん? 妹っていたっけ?」などと戸惑わせてしまうのでおすすめしません。

例文6:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあける
女の声「ないじゃん!」
振り返ると妹(15)が立っている。
妹「お兄ちゃん、ぜんぶ飲んじゃったの?」

とすれば、読者の気持ちは「女の声」で「誰だろう?」と興味を惹かれ、太郎が振り返るのと同時に読者も「妹を認知する」ことになり、読み心地がよくなります。

ちなみに、

例文7:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあける
妹(15)が背後から覗いて、
妹「ないじゃん!」
太郎、驚いて振り返る。

妹「お兄ちゃん、ぜんぶ飲んじゃったの?」

このように、妹を先にセットアップした場合、ショットが少し変わります。

実際は演出家次第ですが、文章の書き方で、読者に浮かぶイメージが変わり、それがショットへ影響します。

どう変わるかは、ご自身で想像してみてください。まるで分からないという人はショットの勉強をしたり、脚本起こしをして、脚本とショットが繋がるようイメージ能力を練習してください。

また、妹が背後から話しかけてきたのではなく、遠くからの場合はどうでしょう?

例文8:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあけようと手をかける。
女の声「おにいちゃーん。牛乳もってきてー」
と、2階から妹(15)の声がする

これは、書き方のルールとしては問題ありませんが、やや読み心地が悪くなっています。

「女の声」のボリュームがわからないからです。

「おにいちゃーん」と呼びかけているので遠くなのはわかりますが、距離感が掴めません。

妹が隣のリビングにいて見えるぐらいの距離で「持ってきてー」と言うのと、2階から言うのでは、言い方や声の大きさが変わります。

初見の読者、すなわち[妹が2階にいること」を知らずに読んだ人は「女の声」を読んだあと「妹は2階にいるのか」と知って、もう一度、声のボリュームを上げて「女の声」を読み直すかもしれません。

こんなふうに、読者に余計な作業を強いる文章は「読み心地が悪い」文章です。

例文7:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあけようと手をかける。
と、2階から妹(15)の声がして、
妹の声「ねえ、おにいちゃーん。牛乳もってきてー」

このように、ト書きを先に書いてあげるだけで読み心地は良くなります。

脚本ルール上では問題がなくても、読み心地が悪い文章は、読者がつまづき、流れるようなイメージが浮かびづらくなります。

初心者は書き方のルールを覚えることが先決ですが、次には、どうやったら読みやすくなるかを意識して書くようにしましょう。

モノローグの問題点

モノローグは独り言とちがって「心の声」なのでリアリティは崩しません。

しかし、テンポを崩します。

例文8:
○キッチン
太郎、冷蔵庫をあける。
女の声「牛乳ないじゃん!」
太郎、振り返ると妹(15)が立っている。
妹「お兄ちゃん、ぜんぶ飲んじゃったの?」
太郎M「花子か。学校に行ってると思ってたのに、いつのまに帰っていたんだ。俺が飲んだわけじゃないが、こいつとケンカになるとめんどうだから、とりあえず謝っておくか。」
太郎「ごめん」

太郎の長いモノローグです。

こういうモノローグがあると、映像が止まります(この解説は長くなるので別記事にて補足します)。
→ 脚本を「リアルタイム」に同期させること

時間の流れを止めかねないという意味では「回想」と似たところがあります。
参考:脚本作法13:回想の力学

この弊害が大きいことが「初心者禁止」の意義のひとつです。

もうひとつの意義は、他でもよく言うように「都合よく説明的に使えてしまう」からです。

キャラクターの感情はセリフではなく、映像的に見せることが大切です。それが脚本における「描写」です。

「描写」ができていない物語、あらすじのように出来事を説明しているだけで、感情移入もできないし、当然、面白くもありません。

子ども向けの昔話を聞いているときを思い出してみると、感覚が近いと思います。

こんな人がいて、何して、どうなり、こうなりました。めでたし、めでたし。

たとえば「シンデレラは本当はとても舞踏会に行きたかったのです」と説明するのではなく、映像を見た人が「ああ、シンデレラ、本当はすごく舞踏会に行きたいんだろうな~」と伝わるように書くのです。それが「描写」です。

モノローグは説明するのには好都合です。

だからこそ、それに頼らないよう初心者には禁止しているのです。

効果的なモノローグ

ハリウッド映画でモノローグが使われているのは、ほとんどが原作小説がある場合だと思います。

小説が一人称で書かれていて、その雰囲気を踏襲するために、あえてモノローグを多用しているのです。

一例として『ブリジット・ジョーンズの日記』をあげておきます。

映像のシーンに対して、主人公がまるで別のことを考えていたりして、それらがモノローグによって表現されています。

セリフでは「いえ、気にしてませんよ」と言いながら、モノローグでは「うざ、こいつ。セクハラじじい」と思ってるようなシーンに面白味があるのです。

あるいは『太陽と月に背いて』な、詩人や作家を題材にしたような作品では「魅力的な言葉」をセリフだけでは表現しきれず、使わないのはもったいないような場合もあります。

けっして「説明的に」モノローグを使ってるわけではなく、モノローグによるテンポの悪さを差し引いてでも効果がある場合はモノローグが活きます。

「回想の力学」の記事でも書いたとおり、メリットがデメリットを上回っているなら、使う意義があるといえるのです。

よく効果を考えて使うようにしてください。

安易に使うとデメリットが大きいので、効果がわからない初心者には「禁止事項」になるのです。

※当たり前過ぎて書き忘れましたが、モノローグは普通は「主人公によるもの」で使うなら使うで「作品内で何度か使う」ようにします。作品中で「一回だけモノローグが使われている」などは、いかにも説明的に見えます。その部分だけ別の処理ができるはずです。複数人でのモノローグを使う場合も、使うキャラと使わないキャラ(つまり視点)を明確にして、使わなくてはバランスが悪くなるでしょう。

追記:
『孤独のグルメ』のモノローグも効果的ですね。モノローグなしで「食べるだけのドラマ」は成立しません。

オマケ:ナレーション

モノローグと似たようなもので「ナレーション」があります。

NHKのテレビ小説や大河などでは必ず使われていますが、通常はあまり使う機会はないと思います。

モノローグ以上に説明的になりますが、大河のように説明をしてしまった方がスムーズに物語に入れる場合は、わりきって使っていった方が効果的です。

モノローグの効果がわかってくれば、ナレーションもわかってくるはずです。

「テロップ」にするか「ナレーション」にするかの判断も出てくると思います。

いずれにせよ、ドラマの本質からは遠いので、使う機会があったときに理解すれば充分でしょう。

以下、書き方の説明だけ。

〇関ヶ原・東軍陣営(昼)
野営している東軍の兵士。
総大将の徳川家康(57)、腕を組んで座っている。
N「慶長5年9月15日、美濃国不破郡関ヶ原にて、徳川家康率いる東軍××万人と……」

〇関ヶ原・西軍陣営(昼)
N「石田三成を中心とした西軍○○万が……」
野営している西軍の兵士。
歩きながら、兵士達の様子を眺める石田三成(40)。

このように「N」のセリフとして書きます。

ナレーションだからといって長ゼリフが許されるわけではないので、どんな映像に重ねるのか意識してト書きもいれましょう。

まあ、ナレーションは編集で上手いこと処理してくれる範疇ですが、物語に責任を持つという意味でも、ナレーション中にどういう映像を見せて、それが観客にどういう影響を与えるかまで把握して書くのが脚本家の仕事だと僕は思います。

緋片イルカ 2023.8.2

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