脚本作法14:独り言の扱い

ライターズルームで「初心者禁止事項」に入っている項目の意義について解説します。

独り言のリアリティ

まずは初心者の脚本でありがちな例を書いてみます。

シーン1:会社・室内(昼)
上司、デスクに書類を叩きつけて、
上司「何なんだ、これは。ミスばかりじゃないか」
会社員、つぶやくように、
会社員「あんたの指示通りやったんだろ……」
上司「何か言ったか?」
会社員「いえ、すいません、すぐに直します」
上司「今日中にな」

シーン2:会社・廊下(昼)
会社員、ふてくされた様子で歩きながら、
会社員「なんで俺ばっか……」

独り言の箇所を赤字にしました。

どちらもマンガやアニメでは許容されるでしょうが、実写では説明的に見えます。

会社員の気持ちを説明するためにセリフで言わせている「説明台詞」です。

リアルな日常、ご自身の職場などの様子を想像してみてください。

上司に怒られているときに「あんたの……」なんて呟く人がいるでしょうか?

廊下で声にだして愚痴っている人がいるでしょうか?

いたら、かなり追い詰められている人に見えると思います。街中でぶつくさ言いながら歩いている人なんかも思い出してみてください。

ポイントはリアリティです。

現実とマンガやアニメの世界では、表現方法も許容される言動にも違いがあります。

実写で独り言を絶対に言わせてはいけないということではありませんが、そこから与えるキャラクターへの印象はかなり変わるということを、わかった上で使って欲しいということです。

この加減がわかっていれば、アニメにおいてでリアリティを出す表現も身についていきます。

独り言の代用表現

独り言を言わせちゃいけないなら、どうやって「会社員」の気持ちを伝えればいいのか?

その工夫してもらいたいので「初心者禁止事項」に入れているのです。

全くわからないという人のために一例を示しておきます(※ベストな例ではありません)。

シーン0:会社・室内(昼)
上司「高橋君、メール送っておいたから書類つくってくれる?」
会社員「わかりました。すぐにやります」
上司「そこに書いてある指示通りにやればいいから」
会社員、パソコンに向かう。
壁時計は3時過ぎ。
ぐるぐると進んで5時前になり……

シーン1:会社・室内(夕)
上司、デスクに書類を叩きつけて、
上司「何なんだ、これは。ミスばかりじゃないか」
会社員「すいません、すぐに直します」
上司「今日中にな」

シーン2:○会社・廊下(夕)
会社員、持っていた書類を丸めてゴミ箱に捨てる。

独り言の「あんたの指示通りやったんだろ……」に相当するシーン0を置きました。これで観客に状況は伝わります。

シーン1で何も言わなくても、会社員の気持ちは伝わります。戸惑う表情などのト書きを足してもいいでしょう。

セリフ(独り言)で説明するより、会社員の表情を見て「ああ、わかるよ」と観客に思わせた方が感情移入の効果も高くなります。

シーン2では「書類を捨てる」という動作で「映像的に」見せました。

これだけだと「何で俺ばっか……」と思っているかどうかは伝わらないかもしれません。

見る人によって受け取り方は変わりますが、映像表現はそれで良いのです。

「あの、クソ上司め!」と思っているなら、書類を破り捨てたり、丸めてゴミ箱に投げつけたりするでしょう。

こういう表現はキャラクターの性格、心情、状況によって変わります。

それらがすべてのシーンで一貫していればワンシーンで明確にならなくても、シーンを続けて見ているうちに、その人のことがわかってきます。これがキャラクターアークです。

キャラクターアークを意識するためには、作者自身は「会社員の気持ち」はすべて把握していないといけません。

だからといって、すべて説明してやる必要はないのです。

キャラクターアークに基づいて描写していけば、自然とリアリティは出て感情も伝わるのです。

独り言を使うシーン

現実において独り言をいうような状況、すなわちリアリティがある状況であれば、言わせて構いません(むしろ言わせなくてはなりません)。

たとえば、驚いて「ウソだ、ありえない……」と言うようなとき。

ご自身の日常を振り返って「本当に声に出してしまうぐらい驚いた状況」かどうか、よく考えてください。

驚いていることを説明したいがためだけに言わせていないか?

こんな状況になれば、誰でも思わず声にしてしまうと思えるならリアリティがあります。

キャラクター自体が、性格的に「独り言をよくいう人」という設定もあるでしょう。

その場合は、しっかりとキャラを立てていく必要があります(※欲を言えば「独り言をよくいう人」という設定自体に意義が欲しい)。

何度も繰り返しますが、都合よく独り言をいうだけではだめです。説明です。

酔っ払いやトリップしているような、ある状況下においては独り言をいうことはあります。

犬や猫、植物に話しかけるのは許容されやすいでしょう。

いずれにせよ、リアリティがあるなら問題ありません。

「初心者禁止事項」に入れているのは、リアリティを無視して、都合良く説明的に使わないようにという意図なのです。

それを理解したうえで、使う分には一向に使っていただいても構いません。

緋片イルカ 2023.07.28

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