「ライターズルーム」で指導をしていて、一番の課題と感じているのがスピードです。
作品の質以前に、スピードが遅いと仕事になりません。
見習いのような立場で勉強できるチャンスがあったとしても、スピードが遅いと声をかけるわけにもいきません。
「プロを目指す」のであれば、一番最初の課題は、なにより作業スピードを身につけることだと感じます。
課題を2倍速く書けるようになれば、成長も2倍速くなるとも言えるでしょう。
3日間ごとに目標を立てる
まずは参考までに……
人間の脳は3日間ぐらいは短期記憶で処理できるといわれます。
これは「今のやる気」が3日間は続くとも言えるし、3日間しか続かないとも言えます。
何かを「やろう!」と計画したり決断したとき、人はやる気に満ちています。
宿題や課題など、なかなか気の重い作業でも、とりあえず目標を立てると「よし、やるか……」と重い腰が上がります。
「目標を立てる」という行動は、決断や覚悟をうながす作業でもあるのです。
けれど気合いだけで乗り切れるのは、せいぜい3日。
その間に目標を達成できれば満足感が得られます。
ですが満足して、次の目標を立てないと、そこで終わってしまいます。3日坊主の原理です。
満足感に浸ったたら、また次の目標を立てることが大切です。
3日間で目標を達成できなかったときはどうでしょう?
「ああ、やばい、やらなきゃ、やらなきゃ」という焦りは募るのに、当初のやる気は3日間のうちで失われているので悪いループに陥りがちです。
目標は達成できても、できなくても、定期的に立て直すことが極めて重要です。
僕はこの作業を「リプラン」と呼んでいます。
目標達成できたら、ほどほどに満足感に浸り、またリプランして、次へと進む。
達成できなくても、クヨクヨしてないでリプランして仕切り直す。
定期的な「リプラン」は重要で、その一つの目安となるのが3日間なのです。
個人差について
何にせよ、ものごとには個人差があります。
ちょうど良い睡眠時間にも個人差があるように、ちょうど良い「リプラン」にも個人差があります。
仕事や生活スタイルの影響も大きく受けるでしょう。
自分にとってのベストなリズムを見つけることが大事です。
あなたにとってのベストな方法は誰も教えてくれません。自分自身で見つけるしかありません。
どうやって見つけるのか?
やってみること、続けてみる以外にはありません。
目標を立て、実行して、上手くいけば、それがあなたにとって良いやり方です。
失敗したら調整して、次の目標を立てて、また試す。
その繰り返しで、自分のちょうど良い塩梅が決まってくるのです。
目標を立てない人、リプランしない人には、一生見つかりません。
その時々の予定や、自分の気分に振りまわされて「できた」「できなかった」と一喜一憂しているのは運任せの人生ともいえます。
目標設定とリプランをつづけて、なりたい自分になっていくのは運命を切り拓いていく物語の主人公のようです。
自分自身の人生も組み立てられないような作家が、他人を感動させるような主人公を描けるのか疑問です。
スポーツ選手の活躍が(勝っても負けても)、我々を感動させるのは「何か」と闘っているように見えるからでしょう。
そういう主人公を描けるのは、作者自身が自分の人生を一生懸命に生きているからではないでしょうか?
現状に満足してたり、うまくいっているなら変わる必要はないかもしれません。
ですが、変わらないということは成長しないということでもあるかもしれません。
現状の書くスピードが遅いと思うなら、今の自分から何かを変えなければいけません。
努力や根性の話ではないのです。
表面的な心構えを変えるのではなく、根本的なシステムからアップデートしないと成長はしません。
システム変革
わかりやすいように数字で考えてみましょう。
気合でスピードを上げようとするのは、1ページ書くのに60分かかるのを30分に加速するというようなものです。
ダラダラとネットをしてしまったり、休憩ばかりとって進まないムダを削って、集中することでスピードが上がるということはあります。
こういうものは気合で加速しているだけです。
初心者のうちは何をするにも戸惑って時間がかかるのが、書き慣れてることで、自然と速くなってくるということもあります。
慣れれば、気合など入れなくても、それなりのスピードは維持できます。
ですが、こういった加速は一時的なスピードアップでしかありません。
言い換えるなら「一日分の作業スピードを上げる」ということでしかありません。
目標設定とリプランで加速するのは、一ヶ月に5ページしか書けないのを20ページ、30ページに上げていくという長期的なスピードアップのことです。
1ページ60分かかるとして、単純計算しても、30ページ書き上げるのに30時間かかります。一日では終わりません。
ちなみに僕が「10分脚本なんて徹夜でもすりゃ書き上げられる」と言うのは、5ページ×60分=6時間(※専用テンプレートの想定)ですから、睡眠時間を削ればこなせる範囲だからです。
ライターズルームでの課題提出の最低基準は「月に1本」ですから、そもそも月末に〆切に追われてる時点で計画性がなかった証拠ですし、追われてしまったとしても気合で乗り切れる量です。
そう考えると「プロになりたい」のであれば、〆切に間に合わせる根性ぐらいは欲しいものです。
課題をこなしているだけでは足りないとも話しています。あくまで最低限の基準です。
一ヶ月に5ページしか書けないとすると、一年で60ページ。1年に映画一本、あるいは30分もの2本。
年収にしたら100~200万がせいぜいでしょうか。「書くことで生活しているレベルのプロ」ではありません。
ちなみに、ここには直しの時間を含んでないので、2稿、3稿……と修正作業をしていたら、実際は一本すら書き上がられないでしょう。
最低限のスピードもなくてプロになりたいというのは、プールで25m泳げてもいないのにオリンピックに出たいと言っているようなものかもしれません。
冒頭で「プロを目指す」のであれば、一番最初の課題は作業スピードを身につけることだと言ったのは、こういうことです。
こういう話をすると「やばい、もっと頑張らなきゃ!」と焦ってしまう人がいるかもしれませんが、先に言ったように気合で加速するのはたかが知れています。
その焦りや頑張ろうという気持ちだって、3日しか続かないかもしれません。
どうやったら加速できるか?
本質的に変わる、システムから変える必要があるのです。
そのためのベストな方法は誰も教えてくれません。自分自身で見つけるしかありません。
ヒントとして僕が提供できるのは「目標設定」と「リプラン」です。
これは僕がうまくいっている方法の一つだからです。
あなたに合うかはわかりませんし、使うかどうかはあなた次第です。
具体例
さいごに僕の具体的なやり方を一例として紹介しておきます。
①一週間のリスト
まず一週間ごとに「予定」「やらなくてはいけないこと」「やりたいこと」をリストアップして、優先順位をつけておきます。
これはスマホのメモとかでなく、あえて紙に手で書くようにしてます。
紙は、Excelでつくった専用テンプレートがあって、パソコンでプリントします。
日付を入れる一週間分の紙なので、翌週には新しくプリントしなくてはいけません。
いちいちプリントするのは面倒くさいのですが、その面倒くささが「リプラン」を強制するような仕組みになっているのです。
スマホのメモを見て確認するだけだと「リプラン」した気分になりません(実際使ってみたこともありますが)。
わざわざ、プリントして手で書くという作業が「リプラン」になるのです。
終わった紙は、くしゃくしゃにして捨ててしまいます。新しく目標を立てるということは、古い目標を思い切って捨てるということでもあるのです。
Excelのテンプレート自体はここでは紹介しません。常々アップデートしているし、あくまで僕が使いやすいテンプレートです。
あなたはあなた自身のテンプレートや、やり方を持たなければ意味がないのです。
②今日の目標と細分化
朝起きると(起きるのはたいてい昼ですが)、①のリストから、その日にやる作業として「今日の目標」を決めます。
あらかじめ一週間分の計画を立ててしまうのではなく、進捗に合わせて柔軟に対応できるよう、その日、起きてから決めるようにしています。
もちろん優先順位の高いものを優先します。
このとき優先度が低い「やりやすいもの」をやるのは逃げになるから注意です。
特に体調が優れないときとか、「やらなくてはいけないもの」が大変だと思っていると、「とりあえず、やれることからやってしまおう」なんて言い訳をつけて逃げてしまうのです。
優先順位の高いものを少しでも進めることが大切です。
そのために作業工程を細分化することがポイントです。
例えば「300ページの本を読む」という作業があったとします。あまり読みたい本ではなくて、気の重い作業だとします。
いきなり「読破」を目標とせず、今日は「100ページまで読む」、次の日は「200ページまで読む」とするのが細分化です。
やる気がでない作業でも、細分化することで「これぐらいなら出来るか」と思えるし、それだけでも達成できれば満足感が得られます。成功体験は大事です。
「やらなきゃいけないこと」を抱えているのは、それ自体ストレスですが、とりあえず「今日の目標」をこなすだけでも少し気が楽になります。
少しずつでも、着実に進めていけば、必ずいつかは終わるという安心感も得られます。
だから「今日の目標」は必ず優先順位の高いものを入れるのです。
少量でも達成したら、いったん離れてもよいと思っています。「やりたいこと」にある気軽で楽しいことをやるのもいいでしょう。
もちろん余裕があったり、勢いがあれば、そのまま「200ページ」「300ページ」と読んでしまっても良いのです。
「300ページは大変だな~」と思っていたのが「今日は100ページ」という目標を立てたことで、結果的に「一日で読破してしまった」なんてことは良くあります。
目標設定やリプランをしない人には、こういった経験がないでしょうが、本当によくあります。
僕の性格がそういうものなのか、「人間ってそんなもん」なのかはわかりませんが、こういう成功体験が何度もあるから、細分化して目標設定することが、とても大事だと思えるのです。
小説や脚本を書く時などは「1日1ページ」とか「1日20分」とか、かなり小さい目標を立てることがあります。
「これなら、さすがにやれるでしょう」という量です。
小さい目標のようで、実は書き始めのハードルは高いので、それを越えることには大きな意味があります。
成功体験のない人は、小さな目標をバカにしがちですが、ときにはファイルをつくるだけでも大きな一歩なのです。(参考:10分脚本を効率化する)
もちろん、そのペースで単純計算してしまうと、〆切までに終わらないと焦ってしまいますが、書き始めると筆はのってきます。
自転車のこぎ始めのようなもので、最初はペダルが重くてスピードもでないけど、車輪が回り始めるとスイスイ進むのです。
勢いがでてきたら目標設定を高くしてもいいし、目標はそのままでも勢いで書けてしまうことが出てきます。
サラリーマンのような雇用される仕事をしている人は「やらなきゃいけないこと」=仕事、「やりたいこと」=自由時間という感覚で生活している人が多いと思います。
作家はいきなり「仕事」はもらえないので、しばらくは「プロになるまでの期間」があって、「やらなきゃいけないこと」=「仕事+学習」となります。
それも自由時間を削って、学習をしなくてはいけないのです。ある編集者の方は、プロになるまでが一番大変だとおっしゃっていました。
学習自体が楽しいと思える人は加速が早いでしょう。
学習を全く楽しいと思えない場合、もしかしたら、その職業には向いていないということもあるでしょう。
創作だけではなく、資格試験を勉強するときでも同じです。
そもそも法律の文章など読みたくないという人が司法試験には受からないでしょう。頭が良くて、なれてしまっても、好きでもないものと一生付き合っていかなくてはいけないのは苦痛でしかないでしょう。
作家はプロになってもフリーランス的なので「やらなきゃいけないこと=仕事」を自分でやっていく能力が不可欠です。
ちなみに外部の〆切、すなわち依頼主に言われた期限とか、課題の提出期限は、「やらなきゃいけないこと」を強制してくれる一つの手助けですが、作品の質を考えると〆切に追われているうちは完成度が上がらないようにも感じます。
自分で立てた「目標」も〆切の一種になります。
「外部の〆切」より「目標としての〆切」を早く設定することで、直す時間が生まれて、完成度を高めて「外部の〆切」に提出ができるようになるのです。
話が横道にそれました。戻ります。
③次の日の目標=リプラン
一週間の作業リストをつくり、一日ごとに細分化した「今日の目標」を決めるというところまで話しました。
一日が終われば「今日の目標」が達成できたかどうか、否が応でも決まります。
出来たら嬉しい、ダメだったなら仕方なし。次の日、また「今日の目標」を立てるだけです。
一日ごと目標を立てることは、一日ごとに「リプラン」しているような作用があります。
毎日、目標設定とリプランを繰り返し、一週間でまた全体の見直しも行う。
これを続けていれば、自分にとってベストな方法が見えてきます。
最初は面倒に感じた目標を立てる、立て直すという作業自体にも慣れていきます。
こういう話をしていると、僕のことを几帳面とかマメな性格だと言う人がいますが、僕は慣れただけだと自分では思っています。
学生時代のテスト勉強など一夜漬けばかりでしたし、コンクール応募の作品を書くときも〆切の三日間くらいで集中して書いたりしていました。
以前は、こういう書き方しか出来なかったのです。
一夜漬け的な能力は短期集中の能力として、あって損はないと思っていますが、そればかりに頼っていると体調を崩しやすいし、作品の質も良くなりません。
僕なりに探った結果が、今回ご紹介した、このやり方です。今後も改良はしていきます。
こういったやり方が合わないという人もいるでしょう。何度も言うように、あなたのベストは、あなたにしか見つけられません。
ただし、プロになるにはスピードが必要だという事実は変わりません。
すでにスピードがあるなら変わる必要はないかもしれませんが、スピード不足のまま続けていても絶対にプロにはなれません。
書き慣れることで速くなる部分はたかが知れています。本質的な改革が必要な人もいるのではないでしょうか?
これは本気でプロになりたいのか?という問いかけに通じるのかもしれません。
僕はヒントを提供することしか出来ません。変わるか変わらないかは、あんた自身の問題です。
緋片イルカ 2023.9.11