用語解説「クリシェ」「ブリッジ」「シナジー」(文章#42)

チームでやりとりすることも増えたので、僕が最近使うようになった用語について、説明しておきます。

あくまで、僕がこういう意図で使っているという意味で、厳密な定義などではありませんので、ご注意ください。

クリシェ

これは、最近という訳ではないのですが、よく使うわりにとくに説明していないので、一応、載せておきます。
ロバート・マッキーがよく使っている印象があります。

クリシェ【cliché フランス】
昔から言い古されてきた出来合いの表現やイメージ。また、独創性のない平凡な考え方。

広辞苑からの引用ですが、辞書通りな意味です。

物語では「シーン」や「イベント」、「キャラクター」など、あらゆることに使います。

日本的な言い方では「ベタ」です。

「クリシェ」でも「ベタ」でも、悪いイメージで「ありがち」であることを意味しています。

アニメなんかでよくある「死亡フラグ」もクリシェの一つですが、では、そのシーン自体が絶対にNGかということは、そんなことはなくて、全体からの流れから「浮いている」とか、とってつけた説明的なシーンになっている場合が、クリシェだと思います。

このことについては後述の「シナジー」で再度、触れます。

ブリッジ

これはある監督さんが使っていた言葉で、出処は知りませんが「シーンとシーンの繋ぎ目」のような意味で使われていました。

回想に入るきっかけとして「何かブリッジがほしい」とか、「ブリッジを入れてシーンとシーンを滑らかに繋ぐ」という使い方で良いと思います。

「ブリッジ」がないとチグハグになっていたり、流れが悪くなるというかんじで、言葉の連想で前後のシーンを繋いだり、映像的な類似で繋いだりすることで「ブリッジ」になります。

ハリウッドでは、次のシーンへの勢いをつけたいとき「ボタンを押せ」とか、編集用語ですがシド・フィールドが「トランジション」という言葉を脚本にも使っていました。

「ブリッジ」は相手方にも、伝わりやすいなと思って、ときどき使っています。

ただ「シーンの繋ぎを滑らかに」とかでも良いとも思いますが、あえて「ブリッジ」と呼ぶことで、「シーンに繋ぎとなる要素を入れる」というニュアンスが出るように感じて、使う時があります。

シナジー

これは、カラスさんに勧められてハマっているカードゲームで使われる用語です。

カードゲーム上でのニュアンスはともかく、広辞苑をひくと、

シナジー【synergy】
相乗効果。共同作用。特に、経営戦略で、事業や経営資源を適切に結合することで生まれる相乗効果のこと。

とあるので「経営学」とかから流用なのかもしれませんが、これも物語の感触を言うときに、良い言葉だと思って、最近使うようになりました。

「セットアップ」と「ペイオフ」、日本語では「フリ」と「オチ」とかが類似の言葉だと思います。

たとえば、「殺人が起こる」→「犯人がわかる」というのは、「フリ」と「オチ」です。

この2つのシーンには「シナジー」(相乗効果)があると言えると思います。

ただ、「フリ」「オチ」に限らない「シナジー」もあります。

たとえば「冷たい性格のキャラクターは青系の服を着ていて、温かくて優しい性格のキャラクターには赤系の服を着せる」などです。

これはト書きに書いてある程度でなら、演出の範囲(衣裳さんの仕事の範疇)ともいえますが、会話の中に「キミは冷たい色の服ばかり着るね」といったセリフがあった場合、脚本として効果が生まれます。

それを「セットアップ」しておけば、赤系のキャラクターについては「セリフ」のやりとりまでなくても、「あ、赤色を着てる」とお客さんが気付き「シナジー」が生まれます。

「フリ」と「オチ」という時には強力なストーリーエンジンが動いていますが、そこまで、フらなくても「シナジー」は生めます。

ニュアンスは微妙に違いますが、意味合いはほとんど同じなので、混同しても問題ないと思います。

「デッキ構築」からシナジーを考える

カードゲームでシナジーということを考えたとき「デッキ構築」の話につながっていきます。

デッキというのはカードゲームで「60枚のカードを入れる」というルールです。

この中で、どのカードを取捨選択をして「デッキ構築」するか?

カードゲームをやらない方には何の話?ってかんじでしょうが、これは脚本につながる部分が多々あります。

「60枚しかカードを入れてはいけない」ということは、脚本でいば「60分の尺でシーンを選ぶ」ということと同じです。

入れたいシーンがたくさんあっても取捨選択しなくてはいけないのです。

脚本にとって、ムダなシーンが致命的なのは、それ自体がムダなだけでなく「いいシーンを入れる時間を奪っている」という問題が潜んでいます。

また、強いカードばかり入れれば良いといえば、そんなこともありません。

これは、野球やサッカーのようなチーム競技でも同じではないでしょうか?(こっちは門外漢ですが)

一人の強い選手がいると、部分的には強くなりますが、チーム全体としての総合力を考えたら、別の「戦略」もあるでしょう。

個々の力が弱くても、「戦略」に合わせて、シナジーが働くようなメンバーを選べれば、チームとしては強くなるでしょう(奇しくもサッカー日本代表の勝利の例がありますね)。

「シナジー」は「戦略」があって、考えられるものです。

物語でいう戦略は「テーマ」や「企画」です。

この物語が、どういうジャンルで、どういった「テーマ」を伝えたいのか?

それに対して、各シーンが「シナジー」を生んでいるかが大切です。

「シナジー」があるならムダなシーンにはなりません。

部分的には「クリシェ」なシーンでも、「シナジー」があるならムダなシーンにはならないのです。

「シナジー」がないなら、たとえ部分的には素晴らしいシーンでも、全体から見たらムダなシーンになる可能性があります。

もちろん「シナジー」がないけど、いいシーンだから残すという判断も戦略の一つです。物語としては統一感に欠けても興行にプラスになることがあります。

このあたりは物語の「テーマ」よりも、より現実的な「企画」としての戦略になります。

美学に反する人もいるかもしれませんが、仕事としては妥協も必要です。

緋片イルカ 2022.12.3

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