Sブロック
2192
●2192:「机の上をゆっくりとなぜる」という一文が好きです。文庫本は何だったのでしょうか。家に持ち帰って、どんな気持ちで読むのでしょうか。やや出来すぎたマンガかドラマみたいなシチュエーションですが、とてもきれいで、素敵だと思いました。この作品に限らず、多くの小説で感じることなのですが、個人的には「先輩の忘れ物かしら」の「かしら」にひっかかります。古いかんじがします。作者さんの年齢も、想定した時代もわかりませんが、この一言で、この学校は古めの木造校舎などを思わせます。この一文を「忘れものかな」としただけで、途端に現代的になります。憧れの先輩の机に思いを馳せるシチューエーションからして、スマートフォンのある現代とはちがう印象を受けますが、先輩との距離感もわかりませんので、何とも言えません。夕日のかんじなどからも、この内容自体が回想なのかもしれませんが、だとしても「思い出した」的な説明をつけないところも、絶妙なバランスを保った良作だと思いました。
2193
●2193:「私は花粉症だ」というオチは、くだらないと片付けてしまえば、全くそうなのですが、前半のとてもきれいな描写からのギャップに、思わず笑ってしまいました。「雪が解けると土の匂いが漂う」東京人の僕は経験したことのない匂いですが、しっかりと想像できます。作者の体験に基づくしっかりとした表現だからだと思います。匂いの想像から「雪国の人間にとって至福」への共感も生まれます。さらに「雪解けのしずくがスタッカートを刻んでいる」という文章。スタッカートという音楽用語(ピアノ用語?)は知らなかったので調べてみたところ、屋根から垂れるしずくとぴったりのように感じられて見事だと思いました。匂い、音の感覚描写から、「日に日に太陽が力を取り戻していく」は明るさ、視覚表現につなげたところから、動植物が名前が連なり、映像が浮かびます。まったく見事な表現だと思ったところで「花粉症」。やっぱり笑ってしまいます。素敵な描写だけで押し通してもよいぐらいだとも思えますが、「100文字小説」というジャンルでは、このオチがやっぱり魅力的にも感じられます。