※漢字の答えは広告の下にあります。小説内にお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。
クラゲとデートするのは何回目だろうか。
最後にあったのは水族館に海星を見に行ったときだった。あれから一ヶ月以上、何も連絡がなかったので切れたかと思ったいたが、
「イルミネーションを見に行きませんか?」
どうやら代々木公園のケヤキ通りが飾られているらしい。
テレビや情報誌やらがオススメしてそうなデートスポットは、さして興味はないが、ある種の女には驚くほどに効果的だ。
そのことを昵懇な女に話したらこう言っていた。
「女だって興味はないのよ。混んでるだけだしね。だけど、そういうのを好きなフリをしておけば男が誘いやすいでしょ?」
なるほど、そうかもしれない。
クラゲも俺に会う口実にしたのかもしれない。大学の奨学金を返すためにガールズバーで働く彼女に、俺は逢う度に金を渡していた。財布の中からほんの4、5万渡すだけだが、いつも申し訳なさそうに受け取った。
「海底トンネルみたい!」
青いLEDを巻きつけられた並木道を彼女はそう呼んだ。海が好きなクラゲらしい。
「奥まで行ってみましょう」
クラゲが俺の手をとって歩き出した。プールからあがったばかりのようにひんやりとした手だった。思えばクラゲの体に触れるのは初めてだった。
そろそろ抱いてもいいかもしれない。
青白く照らされたクラゲの横顔からはどう思っているかは読めなかったが、いつもより明るいようだった。
「好きなフリをしておけば男が誘いやすいでしょ?」
ある女の言葉が思い出された。
一直線の並木道を行くと、小さな箱形のアトラクションがあって周りには屋台なども出ていた。
「ああ、終わっちゃった」
クラゲが手を離した。
それから俺の方を見て言った。
「下衆山さん、お逢いするのは今日で最後にします。今までありがとうございました」
唐突な別れ話に胸がざわついた。
奨学金を払う目処がついてバーもすでに辞めたそうだった。
「そうか、それは良かったね」
俺は動揺を噯気にも出さずに言った。
「下衆山さんは本当に紳士ですよね。ホテル行ってもしぶしぶ払う人とか、ヤリ逃げする人とかもいたけど、下衆山さんは逢うだけでたくさんくれて、本当に助かりました」
頭を下げた。
「一度くらい、下衆山さんとしてみたかった気もします」
白い歯を見せると、大海原へ泳ぎ出すように、今来た並木道を引き返していった。どうやら俺は魚を逃がしたらしい。クラゲは白い歯を見せると、大海原へ泳ぎ出すように、今来た並木道を引き返していった。どうやら俺は魚を逃がしたらしい。
(参考:まったり散歩「青の洞窟 SHIBUYAに行ってみた」(2018/12/1))
今日の漢字:「昵懇」(じっこん)
「昵」も「懇」も親しくしているという意味合いの漢字です。「懇意(こんい)にしている」という言葉もありますね。とはいえ画数が多いせいか固い間柄に見えてしまうのは僕だけでしょうか?
(緋片イルカ2018/12/16)