「蜚蠊」読めますか?(ゲス漢5)

※漢字の答えは広告の下にあります。小説内にお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。

 M子との待ち合わせはコインパーキングと決まっている。家族にはパチンコに行くといって財布だけもって家をでる。日曜の真昼間、暇を持てあまして散歩するオヤジという風を装って。
「いいお天気ですね」
 犬をつれた近所の主婦に笑顔で返し、角のタバコ屋に寄る。カウンター窓だけでババアがやってる昔ながらの煙草屋だ。もう八〇は越えているだろうがしっかりと俺の銘柄を覚えている。
 ババアは俺から受け取った五百円玉を貯金箱へ入れた。百円玉や五十円玉は四角い缶に放り投げて、お釣の十円玉をその中からとりだす。煎餅か何かが入っていたアルミの缶だ。だが五百円玉だけは兀兀と貯金箱に貯めているのだ。
 隣の駅まで歩いて、路地裏の駐車場でタバコを吸いながらM子を待つ。
 黄色いスポーツカーが入ってくる。日産のフェアレディだ。俺は運転席のM子に手を挙げて、タバコを捨ててもみ消す。車は旦那の趣味でタバコの臭いがつくのを嫌がるのだ。
「すこしドライブでもするか?」
 俺は助手席に乗り込んで言った。すぐにホテルに行くには惜しいような青空だった。
「時間がないの。旦那が18時には帰ってくるから。それまでに買い物行って夕食の準備しなきゃ」
 サングラスでM子の視線は見えない。
「旦那はまた、これ?」
 と、バットを握る仕草をして聞いた。
「そう。息子も連れてってくれるから助かるけどね」
 M子の夫は草野球チームに入っていて、毎日曜の朝は弁当をもって出かけていく。それが俺との逢瀬の時間なのだ。
 車が安いラブホテルへ入っていく。
 どうせ俺が払うのだから、もう少しいいホテルをとってやろうとしたが、M子はラブホテルがいいのだと言う。日曜の午後に、旦那と子どもに嘘をついてこういう場所に来ていることが気持ちを駆り立てるのかもしれない。それには安っぽいホテルの方が最適なのかも知れない。
 薄暗い部屋に入ると、M子はすぐにシャワーへ向かった。
 俺はベッドに腰をかけてタバコを取り出した。
「きゃああああああ」
 M子の悲鳴がして、俺はバスルームの扉を開けた。全裸のM子が浴槽の隅で固まっている。
「そ、それ、どうにかして」
 指さした床を見ると、なんてことはない、蜚蠊だ。
 俺は笑って、
「次からはもっといいホテルにしよう」
 と言って、シャンプーボトルをもって、その嫌われ者を叩きつぶした。




●今日の漢字:「蜚蠊」(ごきぶり)
 室内に出ると驚くカサカサいう虫。飛行能力もある。道路で見かけたりするとそれほど怖くない。北海道にはいないってほんと?

(緋片イルカ2018/10/30)

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