文学を考える6【日本文学史の時代区分】

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前回までにエンタメと文学という違いから、文学性はテーマによるものだということを考えてきた。
またテーマには作家自身による表現だけではなく、それが読者に共感されるということで成立するということも考えた。
今回からは文学史を追いながら、時代によるテーマ、あるいは普遍的なテーマなどを考えていく。まずは日本文学史から。

高校生用の参考書だが、文学史全体を見るには便利だし、学参である分、内容的な中立性も保たれているので原色 新日本文学史[増補版] (シグマベスト)を参考にしていく。

目次を見ると5つの章に分かれている。
「上代の文学」「中古の文学」「中世の文学」「近世の文学」「近代の文学」
それぞれ、歴史分類で使われる区分で、その時代ごとにどういうった文学があったかを考えていくのにわかりやすい。
歴史区分の定義は、研究者によって違ったりもするので細かくは拘らず、大きく分けるための便宜上としてつかっていく。
まずは簡単にその時代を代表する作品と、時代の雰囲気をとらえていく。

「上代の文学」(奈良時代まで~794年)
代表する作品は『古事記』『日本書紀』『万葉集』
この時代は天皇による中央集権国家が成立していく時代。
集団で漁や農耕を行うムラから、争いがおこりクニができていき、やがて国家の形が整っていく。歴史では大宝律令(701年)などが重要な時代。国家には法律が必要である。
その頃に完成した『古事記』は日本最古の書物。成立は712年。文字がなかった頃から口承で語り継がれていたものを初めて記載した。天皇の正統性を唱えるためにも神話が必要であった。

「中古の文学」(平安時代794年~1188年)
歴史でいえば、藤原氏による摂関政治のイメージ。天皇から貴族が権力を握り出す。遣唐使の廃止(894年)は
作品は『源氏物語』(1008年頃)『枕草子』。男達の漢文的な教養とは別に女性がかな文字をつくった。『竹取物語』は最古の物語とも言われる。残っているのは貴族中心の物語ばかりだが、説話を集めた『今昔物語』(1100年頃)もこの時代を知る上で見過ごせない。

「中世の文学」(鎌倉・室町時代1192~1600年)
貴族の時代は、武士にとって代わられる。風流な貴族とは違い、力強さ(金剛力士像を想起)や仏教的な無常感など。『平家物語』『方丈記』『徒然草』。戦乱を避けて地方に逃れた貴族などにより、京都から地方へと文化が広がりを見せる。和歌から発生した連歌が庶民の間で広がり、もともと民衆の芸能であった能狂言が貴族や武将達に好まれるようになったり、文化が浸透していく。

「近世の文学」(江戸時代1603~1867年)
江戸時代は264年。長いと言われることもあるが実は平安時代のが長い。ペリーの来航(1853年)以降の幕末では戦乱が起こるが、それまでの250年に戦争はなかった。とはいえ、災害や飢饉や一揆なども多く、民衆の暮らしは楽ではなかった。文化では町人文化として、教養がなくとも楽しめる大衆的なものが生まれてくる。エンタメの誕生とも言える。活版技術の発達により、書物としての文学も誕生してくる。作品としては歴史で覚えさせられたりすることが多い『好色一代男』(近松門左衛門)、『曽根崎心中』(井原西鶴)、『奥の細道』(松尾芭蕉)、『雨月物語』(上田秋成)、『東海道中膝栗毛』(十返舎一九)、『南総里見八犬伝』(馬琴)。

「近代の文学」(明治以降1868~1994年)
明治維新により日本の近代国家化が始まる。外国文化も流入して、急激な時代変化の中で「私とは何か?」「どう生きるべきか?」といった葛藤がテーマに生まれてくる。作品ではいえば『舞姫』(森鷗外)などから始まるといえる。その後は戦争を経て、戦後、現代へとつながっていく。参考書では当たり障りのない大江健三郎のノーベル文学賞受賞(1994年)で止まっているが、近代以降は、より細分化して掘り下げていった方が捉えやすいと思う。それについてはおいおい。
大塚英志のモデルを→文学を考える7『初心者のための「文学」』(大塚英志)

※今後、各作品について個別に検証してリンクを追加していきます。

(緋片イルカ2019/04/13)

日本文学史についてはこちらで改めて記事にしています→日本文学史【目次】

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