文学を考える7【『初心者のための「文学」』】


今後、初心者のための「文学」 (角川文庫)を使って文学について考えていく。
まずは「はじめに」からの引用で大塚英志の文学に対する考え方を要約する。

ぼくが「文学」に限っては一定の「読み方」が必要だと考えるのは、「文学」と呼ばれる小説、もしくは「文学」と自称する小説が読者をしばしば誤った方向に導くからです。その点に関していえば、人が次々と死ぬゲームやライトノベルズより、時にはるかに読み手に悪い影響を「文学」は与えてしまうとさえいえます。「悪い影響」とは具体的には読み手の「私」を誤った形で立ち上げることに加担したり、「現実」や「社会」との関わりを示すように錯覚させて、むしろそれを巧妙に回避したりさせてえしまう、ということです。

「私」とはいったい何なのか、わからない。
「私」の内側にうまくことばにできないもやもやしたものや、いらだちや、不安のようなものがある。
「私」と「社会」や「世界」とのつながりがわからない。
こうやってことばにしてしまうとなんだかありふれた疑問ですが、しかし、そういう疑問が一瞬でも心の中をよぎったことのある人は決して少なくないはずです。

「私」や「私」と「現実」とをめぐっての問いは、この国が「近代」という時代、つまり明治時代に入って初めて成立したものなのです。

「近代」に入って西欧からいきなり「近代的自我」というものが入ってきて、西欧の思想や文学に触れた若者たちは「私」にならなければならない、と思い込んでしまいます。

その疑問に答えるべく誕生した手段の一つが「文学」です。今、手段、と申し上げましたが、この国の「近代国家」とは簡単に言ってしまえば言文一致体という話しことばに近い文章形式によって「私」が「私」についてあれこれと考える方法です。そして明治期の若者たちは不思議なことに「私は」と言文一致体で書き始めると「私」がたちまちそこに現れる気がしてしまいました。それをまじめにやってしまえば「私小説」になります。

以来、若者たちは現在に至るまで同じ問いを繰り返しています。それは要するに未だに「近代」が続いているからで、文学や思想の専門家の中には、近代はもう終わってしまって今はポストモダンなんだ、という人もいますが、若者が「私とは何か」と考え込んでいる限り、「近代」はやはり続いている、といえます。

「私」と書くと「私」がいる、という「文学」の都合のいい仕掛けに依存しすぎて、考えているようで、実は問題を回避しているケースが多々あります。そういう「文学」に限って作者が「文学」を書く自分は特別な者だと証明するために「文学」を書いているところがあって、読み手もまた、「文学」が与えてくれる「私」によって特別な自分である気がしてしまいます。(中略)「文学」はその点で厄介なのです。

「文学」を読むのは悪いことではない。
しかし「文学」に流されたり、「文学」によって「私」や「世界」について間違えてはいけない。
そのためには「文学」を疑いながら、「文学」を読むことが必要です。

以下に、章タイトルと扱っている作品をあげる。
(※今後、各作品について検証してリンクしていきます。作品名をクリックするとAmazonに飛ぶので予習したい方はどうぞ)

第一講 「私」と書き始めれば「文学」をまず疑う
三島由紀夫:仮面の告白 (新潮文庫)

第二講 戦争という「わくわく」した現実と「私」であることの関係
太宰治:女生徒 (角川文庫)

第三講 「文学」とは「私」ではない誰かのために「私」がなしうることではないのか
井伏鱒二:黒い雨 (新潮文庫)

第四講 「日常がいや」という「生きづらさ」は何故、始まったか
島尾敏雄:出発は遂に訪れず (新潮文庫)

第五講 「私」の外側で「私」を見つめるのは誰か
大岡昇平:野火(のび) (新潮文庫)

第六講 「萌え」と「血筋」と近代文学の関係
李恢成:伽倻子のために (新潮文庫 り 1-1)

第七講 「箱男」を疑いつつ「箱男」であること
安部公房:箱男 (新潮文庫)

第八講 「空気」を読む「文学」は転向する
中野重治:村の家・おじさんの話・歌のわかれ (講談社文芸文庫)

第九講 「文学」は「空想の地図」であってはいけない
中上健次:十九才の地図 (河出文庫)

第十講 孤立し、ただ一人、闇の奥へ
大江健三郎:芽むしり仔撃ち (新潮文庫)

補講 そして君は「文学」と出会い象徴的に人を殺し大人になる
村上春樹:海辺のカフカ (上) (新潮文庫)海辺のカフカ (下) (新潮文庫)


『初心者のための「文学」』は残念ながら現在、絶版です。古本でも高くはないので興味のある方はお早めに。

(緋片イルカ2019/04/15)
2019/04/24追記

時代区分から考える → 文学を考える6「日本文学史の時代区分」

『初心者のための「文学」』から考える → 文学を考える7へ

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