文学を考える11【文学は肯定すること】

一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))

この本の中には小説を書くために必要な鍵として20個のキーワードが書かれている。本文を読まないとわかりづらいものもあるが列挙する。

①なにもはじまっていないこと、小説がまだ書かれていないことをじっくり楽しもう
②小説の、最初の一行は、できるだけ我慢して、遅くはじめなければならない
③待っている間、小説とは、ぜんぜん関係ないことを、考えてみよう
④小説を書く前に、クジラに足がなん本あるか調べてみよう
⑤小説を、いつ書きはじめたらいいか、それが、いちばん難しい
⑥小説を書くためには、「バカ」でなければならない
⑦小説に書けるのは、ほんとうに知っていること、だけ
⑧小説は書くものじゃない、つかまえるものだ
⑨あることを徹底して考えてみる。考えて、考えて、どうしようもなくなったら、まったく別の角度で考えてみる
⑩世界を、まったくちがうように見る、あるいは、世界が、まったくちがうように見えるまで、待つ
⑪小説と、遊んでやる
⑫向こうから来たボールに対して、本能的に体を動かせるようになる
⑬小説は、どちらかというと、マジメにつきあうより、遊びでつきあった方が、お互いのためになる
⑮世界は、小説で、できている
⑯小説を、あかんぼうがははおやのしゃべることばをまねするように、まねる
⑰なにかをもっと知りたいと思う時、いちばんいいやり方は、それをまねすることだ
⑱小説はいう、生きろ、と
⑲小説は、写真の横に、マンガの横に、あらゆるところに、突然、生まれる
⑳自分のことを書きなさい、ただし、ほんの少しだけ、楽しいウソをついて

高橋源一郎さんのメッセージは、要約してしまえば「小手先のテクニックではなく、本当に書きたいものをしっかり見つけて、つかんで、そして楽しみながら書きなさい」というようなことである。構成やキャラクターを論ずる「文章テクニック本」の対極として、物語を伝える意義、本質をよく考えなさいというメッセージである。それは「文学」とも言い替えられると思う。

⑧小説は書くものじゃない、つかまえるものだ

自分のテーマを見つけて作家性を持つことであるし、そのためには、

⑩世界を、まったくちがうように見る、あるいは、世界が、まったくちがうように見えるまで、待つ

独自の視点をもつことや、

⑫向こうから来たボールに対して、本能的に体を動かせるようになる

グロテスクな引用までして(セックス障害者たち (幻冬舎アウトロー文庫))、他者を受け止める(それを「ボールをつかまえる」と喩えている)で感受性を養うことを説いている。
そして、そういった小説の根底にあるのは、

⑱小説はいう、生きろ、と

人間や社会や自分を肯定する力なのだと思う。

高橋さんはいくつもの文学賞の選考委員もされているが、こういう方の存在は「新しい文学の発見」には欠かせないと思う。
一方で、許容範囲の広さが、未熟さを許容することになってしまい、まえがきにあるうわさのベーコンのような作品に対しては過大評価だとも思う。

自分のテーマを、自分の言葉で書くことが重要であるというボールは受け取りつつも、読み手のことを考えて誰にでもわかるように書く努力を、作者は怠ってはいけないと思う。
高橋先生が優しいからといって、我々、作家は甘えてやわな文章を書いてはいけないのである。

●書籍紹介

13日間で「名文」を書けるようになる方法は大学での講義を書籍化したもので、今回の一億三千万人のための小説教室 (岩波新書 新赤版 (786))よりも、はっきりとメッセージが書かれているので、個人的にはこちらの方がおすすめです。

高橋源一郎さんの、その他の小説関係の書籍を参考までに。

(緋片イルカ2019/04/21)

時代区分から考える → 【文学を考える6】

『初心者のための「文学」』(大塚英志)から考える → 【文学を考える7】

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構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

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