5つの創作スタイル(文学#85)

あなたは「どうして物語を書くのですか?」と尋ねられたら、何と答えるでしょうか?

もちろん「動機」や「目的」は人それぞれでしょう。

ですが「物語を書く」という行動の背景には、いくつかのパターンがあるように感じます。

タイプによって創作へ姿勢、良いと思う作品などが影響しているようにも感じます。

自分のタイプを知ることで、モチベーションを上げたり得手/不得手を見つけるヒントになるのではないかと思います。

また、意識することで、それは固定したタイプではなく、切り替え可能なスタイルのようなものになります。

以下、僕が思うパターンを提示していきます。もちろん私見ですので、あしからず。

業務型スタイル

●どうして物語を書くのか? → 「お金のため」「仕事だから」
●物語評価基準:売れるもの、人気のでるもの、エンタメ性
●モチベーション:原稿料、責任感
●特徴:安定性、一般性、没個性

「動機」と「目的」が、とてもはっきりしているので、あえて一番最初に挙げました。

仕事の依頼を受けて、受注した作品を提供し、報酬を受ける職業としてのプロ作家。

創作の収入だけで、生活しているかどうかは関係ありません。プロになるという目標で学習しているアマチュア作家も含みます。

このタイプの作家は「売上げ」に関する情報を意識します(興収や視聴率なども)。

売れれば内容なんか、どうでもいいと考えるような作家はさすがにいないと思いますが、作者自身が書きたいものよりも「仕事を回すこと」を優先する傾向があります。

「〆切」をきちんと守ったり、内容に対する責任感を持ち合わせています。正当な権利の主張もします。サービス残業が嫌なのは作家に限りませんね。

自身の作品に変に拘らず客観視する能力がありますが、裏を返せば、思い入れが少ないともいえます。

このスタイルを軸に物語を書くと、最低限のエンタメ性は確保されますが、作家性の薄い作品になります。

なお、業務型の作家であることと、作品のレベルは別の問題です。

業務型のタイプでも、つまり考え方や価値観がプロ志向であっても、レベルが低ければ仕事になりません。

反対に、次に紹介していくような別のタイプでも技術さえあればプロとしての仕事の依頼は来ます。

業務型=プロ作家というわけではなく、あくまで物語を書くことへの「動機」や、そこから現れてくる「傾向」としての「業務」を重視するタイプということです。

発散型スタイル

どうして物語を書くのか? → 「楽しいから」「すっきりする」
●物語評価基準:自分の好き嫌い
●モチベーション:不満やストレス
●特徴:私小説的、マイワールド、共感性、クリシェ

このタイプのモチベーションは不満やストレス、目的はストレスの発散です。

日常生活で嫌なことがあったとき、それを昇華する行動として「物語を書く」のです。

物語を書き始めの初心者、スクールにとても多いと思います。誰でも最初はこういったところから書き始めるともいえます。

技術がアマチュアレベルだと「自己満足」やクリシェな作品に陥りがちですが、不満やストレスが、その時代の空気を感じとっていれば、多くの人の共感を得られプロとして見出されていきます。

このタイプが書くものは大きく「直接的」と「逃避的」な作品に分かれます。

「直接的」とは作者の体験に基づいたテーマを扱うような作品です。

たとえば介護職にある人が、介護にまつわる物語を書くような場合です。日本では純文学、私小説作家に多いように感じます。

一方、「逃避的」とは作者の実生活にまるで関係ないジャンルで書かれた作品です。

自身の生活が地味で冴えないと感じているような作者が、「ファンタジー」や「コメディ」など実生活と切り離された突飛な世界を書いたりするのです。

非現実的な空想をすること=物語を書くことが、作者のストレス発散に繋がるのです。

稀に「幸せなことがあったから、これを物語にしたい」という方がいます。

物書きの多くは「不満」「悩み」「生きづらさ」などが動機になっているものですが、稀に幸福感から物語を書こうとする人がいるのです。

あり過ぎる幸福感は人間の身体にとってはストレスです(涙の原理を想像してみてください。嬉しくても悲しくても溢れます)。

思春期の学生などが、恋愛経験を元に、ただハッピーなだけの物語を書いたりします。

ビジネスの成功譚などもそうです。言うなれば自慢話です。

ハッピーな動機だけで書かれたものは「苦労して成功する」といったアークもなく、鼻につく場合も多く、共感が得られにくい作品になりがちです。

詩のような世界(短歌とか歌謡曲とか)では、こういった「瞬間的な幸福」が動機となって生み出されたものが残りますが、長い物語にはあまり結実しません。

幸せな人が何日もかけて長い物語を書くなどという大変な作業はしません。ハッピーな日常生活で忙しいでしょう。

こういう作者はすぐに飽きて、書くのを辞めていきます。

不満やストレスを動機に書いている作家は、実生活でそういったものが解消されると、書けなくなってきます。

既にプロになっていると、強い動機のないまま、経験で身についた技術だけでマンネリのような作品を書きつづけたりします。

作者のネームバリューでプロとして続きはしても、作品にはデビュー作のような輝きはないかもしれません。

あるいは、自身に「根深い苦しみ」があるような作者は書きつづけるでしょう。

生きていくために書かざるを得ないという破滅的な、文豪のような人も中にはいます(破滅的な文豪に憧れる中二病もいますが)。

追求型スタイル

どうして物語を書くのか? → 「楽しいから」「喜びだから」
●物語評価基準:自身の理想
●モチベーション:追究の喜び、理想の実現
●特徴:作家性、芸術性、意固地

このタイプは発散型と似ています。発散と追究が混在していることも多いでしょう。

発散型がマイナスをゼロにリセットするために書くとしたら、追究型は日常をプラスを高めるために書くのです。

発散型の作者が経験や価値観を積むうちに、追究型に変化していくことはよくあるように思います。

つまり、最初は自分の書きたいことを書いていた作者が、だんだんと「自分らしさ」「作家性」のようなものを確立し、そこへ向けて書くようになっていくのです。

ただ発散的に書くのではなく、書くこと自体が喜びであったり、楽しい趣味のように書く人もいます。この点では快感型とも呼べそうです。

お腹が空いたから空腹を解消するために食べるのではなく、美味しいから食べる。そんな風に書くことを楽しむのです。

書かなくてもいいと言われても書きます。場合によっては禁止されても隠れて書いてしまうかもしれません。

作家のタイプでいえば「小さい頃から物語を書くのが大好きで、そのままプロになってしまった」ような人です。

このスタイルが強まると、アーティストのように理想の物語を「追求」したり、アスリートのようにテーマを「追究」したり、狭く深くなっていきます。

その過程で、発散型ではあった共感性が失われていくこともあります。

芸術観が「売上げ」とバッティングするとき、「業務型」の考えとはぶつかりやすいともいえます。

お金がもらえるとか、仕事だから書けと言われても、自身の心の中に「湧きあがるもの」がなければ、なかなか作品にとりかかれないでしょう。

承認型スタイル

どうして物語を書くのか? → 「かっこいいから」「作家になりたいから」
●物語評価基準:作者の評価、受賞
●モチベーション:目立てるかどうか、プライド
●特徴:新規性、奇抜さ、ハッタリ

承認欲求が「動機」になっているようなタイプです。

「作品」を作者自身のファッションのように書く傾向があり、このタイプの作品は「難解」だったり「理解不能」なところがあります。

自分が相手に伝えるのではなく、自分の文章を相手が理解するという姿勢で書いているからです。

ときには「理解できない」と言われること自体に喜びを感じてるかもしれません。

「理解不能」な部分を「かっこいい」「深い」などと解釈するファンがついているプロ作家もいます(例は挙げませんが笑)。

そういう作家に憧れて「作家になりたい」と思ったアマチュアが、同じような自分本位の物語を書きます。

ファッションなので一時的な流行になることはあれど、長い人類の歴史上、時代が経ればあまり読まれない物語になっていく可能性は高いでしょう。

ただし、作者は目立つためだけにやったような「ハッタリ」が、それまで誰もやらなかった「新規性」を生み出すこともあります。

一般人がイメージしがちな、変わり者という「芸術家」は、このタイプですが「追究型」のような芸術観を持ち合わせていない、なんちゃっても多いでしょう。

また「作家になりたい」と言うとき、業務型の「作家」を目指している場合と、承認型の「作家」を目指している場合があります。

業務型タイプにとっての「目的」は収入ですが、承認型タイプにとっての「目的」は受賞のような名誉や「作家として扱われてチヤホヤされること」です。

とはいえ、現実では「ハッタリ」が仕事につながることもあるのは、なんとも皮肉だとも思います。

制御型スタイル

どうして物語を書くのか? → 「誰かのために」「社会のために」
●物語評価基準:読者の感動、影響力
●モチベーション:コントロールしたい
●特徴:善人的、偽善的、独裁的

このタイプは物語を通して感動させたいとか、誰かに何かを伝えたいという思いから書きます。

社会を良くしたいといった健全な価値観から書かれていれば、作者は善人のようにみえますが、その本質は「他者の感情をコントロールし、変化させたい」ということです。

政治のプロパガンダや、歴史や宗教の神話などのように、物語の支配の道具に使われることもあります。

物語の影響力を自覚している、物語の力を信じているということが、このタイプの特徴です。

そのことを理解した上で、物語を書くのです。そういう意味では、偽善的、独裁的でもあるのであるのです。

このタイプは、承認型のように作者が評価されることなどよりも「目的」が達成されることを望みます。

目的とする「価値観」が浸透するなら、その作品の作者が誰かなど、どうでもいいという布教の精神にも似ています。

強い影響力をもっている作家は、無自覚にこの制御型のスタイルを持ってしまっていることがあります。

作者が「〇〇が好きだ」「〇〇が嫌いだ」と書いたものが読者に影響を与えるとしたら、作者自身は個人的な意見で、自分の好みを書いただけのつもりでもいても、無自覚に読者をコントロールしているといえるのです。

スタイルの切り替え

ここまで5つのスタイルを紹介しました。

なんとか占いのように、5つのうちのどれかに当てはまり、それは変わらないなどと言うつもりはありません。

動機は混在しているので、「書くこと自体は好きで楽しい」けど、なれるものなら「プロになって収入も得たい」と内心思っている人はほとんどでしょう。

各スタイルは、五角形で表されるグラフのように、ここが強いが、ここは弱いといった捉え方が相応しいと思います。

説明の中では、スタイルと呼んだり、タイプと呼んだりしました。

冒頭でも触れましたが、無意識に取り組んでいるうちは、その傾向に縛られている「タイプ」ですが、自覚して意識的に取り組むときには「スタイル」として切りかえていけます。

書き始めの初心者は、ストレス「発散型」や楽しいだけの「追究型」で書いているだけかもしれませんが、プロとして認められたら「業務型」の性質を少しは持ち合わせないと続かないでしょう。

あるいは、最初からプロを意識して「業務型」で取り組んでいても、形式的、没個性の作品ばかりで評価されません。作者自身の発散したい思いや、追究したいテーマを見つけられたとき、グッと作品のレベルが上がるかもしれません。

作家としてのタイプだけでなく、作品に合わせてスタイルを切りかえていくこともできます。

仕事としては「業務型」としてエンタメを書いて、同人誌では「追究型」で自身のテーマを書くなどです。

これも、冒頭に書きましたが、5つのタイプはあくまで私論です。僕の考えを述べただけです。

自分の「動機」や「目的」(目標)に向き合うきっかけになれば幸いです。

緋片イルカ 2023.7.2

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