文学を考える9【『万葉集』の三大部立】

『万葉集』は日本最古の歌集。成立は770年頃といわれ、全20巻、4500首が収められている。といった歴史的な意義や研究は様々な本に書かれている(おすすめ本はページ下部の書籍紹介で)。

ここでは文学として考える上で「部立(ぶだて)」について考える。
部立とは短歌に詠まれている内容で分類したものでテーマとも言える。
万葉集の三大部立は以下である。

「相聞歌(そうもんか)」
消息を確認するという意味で、親子、兄弟なども含むが、男女の恋愛の歌が最も多い

「挽歌(ばんか)」
棺を「挽くときの歌」という意味で、死者を弔い、哀惜する歌。

「雑歌(ぞうか)」
相聞歌・挽歌以外。天皇の行幸や宴席など、公的な儀礼で詠まれた歌など。他人の容姿をからった歌や、ダジャレのような言葉遊び、ギャンブル(双六)はほどほどにといったものもある。

万葉集には皇族、貴族から読み人知らずの民衆の歌まで収められているが、身分の貴賤にかかわらず、歌にされている感情は同じで、それはもちろん現代にも通じる普遍的なものである。
当時は「妻問婚」(男が女の家に通う結婚)なので恋しい相手に会えない「寂しさ」や「嫉妬」、職務のために家族を置いていかねばならない者は妻や幼子を思い、山上憶良の「赤子は何よりもまさる宝である」といった「家族愛」。その愛しい者を亡くしたときには「挽歌」が生まれる。

言霊思想の背景もある。タマというのは魂のこと。
言葉に魂が宿っていると考えられていた。
たとえば男性が口説くときには女性の名前を尋ね、女性が教えたときには関係の了承を意味した。勾玉というのもタマからきているのだろう。

「寂しさ」や「死」といった人間個人の力ではどうしようもできない感情に直面したとき、歌に魂を込めたのであろう。万葉集という歌集がつくられたことは、歌のお手本として教科書としての役割もあったのかもしれないが、やはり他人の歌に共感する人が多くいた証であろう。

「どうしようもできないものにぶつかった人間」を描くことは現代でも文学たりえる。

※後日、歌人ごとについても考えていきます。

●書籍紹介
とりあえず雰囲気だけ味わいたい方はマンガ版。お好みで→
万葉集 (まんがで読破 MD119)

万葉集 (コミックストーリー わたしたちの古典)

マンガで楽しむ古典 万葉集

万葉集の歴史的背景、歌人、歌の内容などコンパクトにまとまっていて入門におすすめ。→図説 地図とあらすじでわかる!万葉集 (青春新書INTELLIGENCE)

140首を集めたダイジェスト版→万葉集 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

万葉仮名(ひらがなではなく音を漢字で当てた当時の書き方)で全4500首が全四巻に収められてる本格版→万葉集 全訳注原文付(一) (講談社文庫)

万葉集 全訳注原文付(二) (講談社文庫)
万葉集 全訳注原文付(三) (講談社文庫)
万葉集 全訳注原文付(四) (講談社文庫)

(緋片イルカ2019/04/15)

文学史の目次ページへ

SNSシェア

フォローする