「海星」読めますか?(ゲス漢6)

※漢字の答えは広告の下にあります。小説内にお題の漢字が出てくるので、よかったら推測しながらお読み下さい。

「今から、海星さわりにいきませんか?」
 クラゲからのLINEが入っていたのはM子と真っ最中のときだった。
 M子はいつもに増して激しく求めてきた。嫌いな蜚蠊を見た恐怖が媚薬のように作用したのかもしれない。回数がいつもの倍に及んだ。
 M子の車から降りてメッセージを確認したとき、今日はこれ以上は不能かもしれないと思ったがクラゲからだったのでホッとした。
 大学二年生のクラゲとはガールズバーで出会った。本名は知らない。
 無愛想な女で、化粧も髪も素嬪(すっぴん)に近いが、それでも元が整っているからでカウンターに立っていても絵になる。注文を受けても笑顔一つつくらず接客するので、彼女を狙っている男から「お高くとまりやがって」と罵声を浴びせられたこともあるらしい。
「ただの陰キャなんですけどね」
「インキャ?」
「最近の言葉で暗いヤツって意味です。陰気なキャラクター。陰キャ、陽キャとか」
「なるほど」
 水族館の閉館まで1時間ぐらいしかなくて、これから入口へ向かう人はいない。ベビーカーをひいた若い家族とすれ違いながら、俺とクラゲも父娘にしか見えないだろうと思う。
「イルカショーはすべて終わってますけどよろしいですか?」
 チケット売場の女性が聞いた。 
「体験コーナーはやってますよね? ネコザメとか糸巻海星とか」
「はい、閉館の15分前までです」
「じゃあ、お願いします。大人2枚」
 クラゲはバーでは「水母」と書いたネームプレートをつけていた。名前を呼んで注文すると、クラゲは懐かしい友達に道端で偶然に再会したかのような顔で固まった。一発でクラゲと読めた男は俺が初めてだったらしい。水母も読めないような男はドリンクバーにでも行けばいい。
 外で会うようになって、聞けば、母子家庭で奨学金で大学に通っているらしく、足しにするためにガールズバーで働いている。キャバクラのが時給が良かったが面接で落とされたらしい。
 それから俺は金を渡してやるようになった。
「そういうつもりはなかったですけど」
と言ってから、受け取った。 
 体験コーナーでは上が開いた水槽にヤドカリや海星、サメなどが入れられている。もちろんサメといっても、ネコザメやドチザメといった安全あサメで、ざらざらした鮫肌に触れることができる。
 クラゲはニットの袖をまくって腕をつっこむと、海星をすくって手の平にのせた。浅黄色に朱のかかった星を愛でる彼女を見ながら、いつこの女を抱こうかと考える。




今日の漢字:「海星」(ひとで)
由来は形そのもの海の星。人手、海盤車とも書きます。英語でもsea star。じつは貝類に覆い被さってバリバリ捕食する肉食系。

(緋片イルカ2018/10/31)

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