キャラクター概論9「言動決定要素②価値観:二面性」

6つにわけた言動決定要素のうち、前回は「価値観」のキャラクターコアの有無について考えました。
今回は同じく「価値観」の「二面性」について考えていきます。

よく物語創作の本に「キャラクターに二面性を持たせよう」ということが書かれています。
二面性を持たせることでキャラに深みをもたせたり、共感を得ることが目的です。
これにはいくつかのパターンがあるので、分けて考えていきます。

「キャラクターコアの有無」
これはまさに前回、考えたことですので、詳しくはそちらの記事をご覧下さい。
悪い行動をしているキャラクターにも、そうなる動機があるというコアを持たせることで共感をえます。
「表面的な悪い行動」と「善的な動機」という二面を持っていることになります。

「意外な設定」
たとえばゴルゴ13のような硬いキャラクターを想像してください。
そんな「硬派な殺し屋」が、実は「お花が大好き」とか「料理がものすごく上手」といった家庭的な趣味を持っていたらどうでしょうか?
ハリウッドの脚本セオリー本SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術のタイトル「Save the Cat](猫を守る)も、同じ理屈です。
ある映画で殺し屋が人を殺しまくり、終わったところで、物音がして銃口を向けると猫がいる。
「俺は猫だけは殺さない主義なんだ」というと、キャラに魅力がつきます。
正反対なキャラで「女と子供は殺しやすい。逃げるのが遅いからな」というのもあります。
もう少し日常的な設定でいうと「厳しいお祖父ちゃん」が「孫にだけは優しい」とか。
これらの二面性は、キャラクターの「強すぎる側面」を「中和する設定」という組み合わせになります。
ときどきテレビドラマでとってつけたような無意味な設定がついていますが、中和する効果を持っていなければ、面白味ではなくて、タイアップか?などと思われるとマイナス効果です。
「二面性をつける」というセオリーの意義を理解していないためだと思います。

「状況としての二面性」
「意外な設定」の二面性とは違い、そのキャラクターが持っている訳ではないが、ストーリーの展開上で意外な一面が見えてしまうことです。
「硬派な殺し屋」でお花が大好きと言った設定は持っていないとします。
その殺し屋が敵に追われて、身を隠した先が保育園で、仕方なく保育士のフリをするといった状況です。
効果としては同じですが、設定上で起きるのか、状況で起きるのかが違います。

「変化としての二面性」
これはキャラクターアークのの本質ですが、長い物語ですが主人公は物語の中で「成長・変化」をします。
「状況としての二面性」と似ていますが、こちらは本質的に価値観自体が変化します。
「硬派な殺し屋」でいえば、「もともと女子供にも容赦しない冷徹な殺し屋が、身を隠すために保育士として働くことになり愛情を育み、子供を守るために戦う」といった変化です。
構成上の変化がおきるミッドポイントでは「俺もこんな風に愛されて育ってれば、殺し屋なんかにならなかったかもな」なんて呟くかもしれません。そういう意味ではキャラクターコアとも関わります。

【価値観と多面性】
アンパンマンのような子供向けのキャラクターでは「正義の価値観」がブレません。
小さな子供は人間の多面性を理解できないので、アンパンマンが迷ったり弱い側面を見せると不安になります。プロパガンダの物語でも同じことがいえます。
大人になると、こういった物語は幼稚にみえたり、ウソくさくみえたりします。
人間は二面に限らず、いくつかの側面を持っているからリアルに見えなくなるためです。
一方で、悩み苦しみながらも「正義の価値観」を貫くマーヴルのヒーロー達には大人も共感できます。
主人公が持つ「価値観」とリアリティのバランスを考えるのは物語創作で重要です。

次回は

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緋片イルカ 2019/07/10

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