ドラマシリーズ『アドレセンス』(視聴メモ)

https://www.netflix.com/title/81756069

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※結末までの内容を含むことがございますのでご注意ください。

感想

何と言っても各話、1ショット長回しで撮影していることと、少年の演技がウリになっている。少年の演技に関してはエミー賞に値する素晴らしさがあるので言うことはない。とくに3話はすばらしい。問題は1ショット長回しの方で、これは演出効果が特殊なので、その辺りを理解せずに使うと、ただのこけおどしに過ぎない。素人、というか、素人はその大変さを想像しないかもしれず、むしろ微妙に映画を見慣れている人が「すごい」と言うだろうが、それは「撮影が大変」なだけで、演出的に効果的なこととはまた別。それは、大声や狂人などのエネルギーのいる演技をイコール役者の熱量や演技力と勘違いしているのと似ている。演出効果とは、ストーリーや感情、メッセージを最大限に伝えられているかどうかが重要で、制作者側の苦労アピールやコストがかかることが効果的というのとは違う。
長回しと、通常のカットの入る編集の違いは時間にあり「カット」というのはつまりは「無駄な時間をカットする」からテンポが良くなり、ストーリーに、観客を集中させる効果がある。その演出効果を理解できていない編集であれば、むしろ長回しして役者の熱量に任せた方がマシという場合がある。とくに邦画はその傾向が強い。これは演劇に近くなるということだが、目の前で呼吸し体温をもつ人間が演じているのとは違い、記録媒体を通すと物理的にも心理的にも、その温度感は消えてしまう。だが、観客と作品の時間が同期するという点は残り、つまり、映像で流れる時間と、映像を見ている人の時間が同じということ。このことを説明した上で、1話から見ていく。

1話:「好き」5 「作品」5 「脚本」5
シーン前半から、警察が突入し少年を逮捕し、拘置所での手続きや、弁護士との面会、最初の取り調べまでが1時間かけてリアルタイムに描かれる。逮捕後、どのように扱われるかなどは、一般人は知らず、シーンとしてもカットされることも多いので、見ていて飽きない。また、冒頭から事件が起きている感じで引き込まれる。1ショットにするため、各キャラクターがカメラを追うようにして、実質上、シーンを切り替える工夫もよくやっている。やっていないと主張していた少年(と父親)に、防犯カメラの犯行時の映像が突き詰められるところまでの流れも1話としてはとても良い。この回だけ見ると、主人公が誰かわからない。刑事たちから始まるので刑事ものらしさもある。少年と父親の視点もある。弁護士も、それなりに立っている。それらを1ショット長回しで見るので、観客は、それらを観察する立場に置かれてバランスが良い。

2話:「好き」4 「作品」4 「脚本」4
2話を誰の視点で立てるか、2話からアクト2ともいえ、この作品の方向性を決める話だともいえる。学校という舞台で、少年たちの友人関係などが浮かびあがってくる。1~2話からの流れで刑事が主人公のように見える。息子とのドラマもある。ラストでは少年の父親が登場する(これは次話が少年の回であることを考えると邪魔してると言える)。一方で、BGMの演出など、1ショット長回しに合わないことをやってしまっている。全体的に、無理して1ショットにしているため、無意味なエピソードで場所移動させたり、登場人物たちの行動に無理が出ている(例えば、ジェシカはなぜ、あのタイミングで殴ったのか?)。1話はあくまで仕事上の動きをしているキャラが多いので、あまり不自然には見えないが、2話では、演出が邪魔をし始めている。また、リアルタイムである1ショット演出は、リアリティとの相性がいいのだが、刑事の捜査に展開を作りすぎて、ストーリーの作為も浮かびあがっている。はっきり言って長回しにしない方がよい演出になった。

3話:「好き」5 「作品」5 「脚本」5
舞台は少年院で、心理学者による精神鑑定だけに時間を使う。これは見事だし、こういう内容こそ、1ショット長回しが生きる。画的には地味。1ショットのせいで効果的な構図にもっていくまでに時間がかかり、人物の顔のアップにするべきタイミングを逃してしまっているもたつきはあるが、それに代わる臨場感があるので許せる。少年の内面描写はよく描けている。自尊心の低さ、自己防衛的に相手にすがったり、怒ったりする描写。少年の心理自体がビートを作っていて、キャラクターアークとも噛み合っていて良い。このシリーズで一番魅力的な回。

4話:「好き」3 「作品」3 「脚本」3
シリーズの最終話としては相応しくない。3話で終わっているか、この後に何らかの5話を置くのであれば、この4話があっても良いと思うが、シリーズを終える回として置くには魅力不足ともいえるし、作家兼主演のエゴが出てしまっているとも言えてしまうような回。犯罪者の家族が受ける差別や苦労は、現実としてあるが「アドレセンス」というタイトルを掲げた作品の最終話に置くような内容ではない。1ショットがために、少年が登場もできず、電話で絡むだけというのも、前話からの流れでのショボさになっている。両親の会話内容は、ベタで、作者の年齢からしても古くさい価値観という印象(脚本は父親役をしているスティーヴン・グレアムが書いているらしく年齢は52歳。書いたときで50歳前後だろうか。一方、父親の設定は45歳になると言っていた。おそらく、50歳の作者が、自分たちより上の世代をイメージして書いてしまっている)。説教くささすら感じて、演技に苛立ちすら憶えるところもある。結局は、1ショットに拘りすぎている弊害で、ストーリーを演出の枠に収めようとするため、こじんまりして、とってつけたような結末になってしまって、シリーズ全体を台無しにしてしまっている。群像的に始まった1話からの流れを、家族が反省して受け入れる話のようになってしまっている。

全体:「好き」5 「作品」4 「脚本」4
60分枠に拘らず、30分ぐらいで終わる回とかがあって、話数を増やしても良かったかも知れない。そうすれば、キャラクターの視点の多さ(群像的な視点)が維持でき、演出とも噛み合った。たった4話に収めようとしたことと、1ショット長回しの特殊演出の組み合わせを処理し切れていない。とはいえ、1話はサスペンスとして、3話はドラマとして素晴らしい。これだけでも、このシリーズの価値はある高いと思う。

(イルカ2026.3.10)

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