きょうだい間でのコンプレックス(例えば優秀な兄とダメな弟のような)について数々の事例もあげながら、コンプレックスが生まれる要因としての「親の自己愛」「愛着」といった視点から、その克服まで丁寧に書かれている良書でした。
第四章の「生まれ順の心理学」はキャラクター論にも応用できるのでまとめておきます。
まずは引用から、
アドラーはきょうだい内での立ち位置によって、四つの場合に分けて論じた。すなわち、①長子、②第二子(中間子)、③末子、④単独子(一人っ子)である。そこに、双生児の場合や養子・義子(連れ子)を付け加えるべきだろう。
単に順番だけでなく、きょうだいとの間にどれくらいの年齢差があるかどうかということも重要だ。いわゆる「年子」で下にきょうだいが生まれた場合、二歳程度離れて生まれた場合、三歳以上離れて生まれた場合では、同じく下にきょうだいができても、その影響はかなり違うのである。
二歳くらい離れて下にきょうだいが生まれた場合には、見捨てられ不安や頑固な傾向が強まりやすい。これは、二歳頃が、いったん離れ始めた母親に再び執着する「再接近期」という時期に当たっていて、このときに母親の関心が下のきょうだいに移ってしまうと、母親を奪われたという心の傷が強く残りやすいためである。
アドラーはあまり感心を払っていないが、きょうだい間に差異や確執を有む要因として、生まれ順や年齢差にも増して重要な要因は、母親がその子の世話にどれほど没頭したかということである。これは、(中略)愛着に関係する部分である。
個別の事情が、生まれ順といった大雑把なとらえ方ではつかめない影響を及ぼすこともしばしばである。とはいえ、きょうだい間の力動を考えていくうえで、生まれ順は、いろはとも言うべき基本だろう。
以下は、本書より要点をまとめたものです。
長子の心理学
・万能感に充ちた自信を育みやすい。
・両親にとって特別な存在としてこの世に誕生する。親として未熟な面もあれど、懸命に世話することで愛情の絆である愛着が強まる。愛情を独り占めする期間を持った。第二子の誕生時期によって、その期間の長さが変わる。
・第二子と年齢差がある場合、鷹揚で、ガツガツしない、のんびりした性分を示しやすい。
・一人っ子の期間が長いと知らず知らず一番であろうとし、特別扱いされることを期待する。自分が一番でない状況や軽くあしらわれる状況にはストレスや不満を感じる。
・一番であろうとして、大きな夢や野心を抱き、大きな成功を手にすることもある一方で、幼い頃ちやほやされた名残で、見通しが甘く、地に足がつかないところがあり、非現実的な夢物語で終わってしまったり、せっかくの成功を調子にのって台無しにしてしまったりする。
・優しさや面倒見の良さ。下のきょうだいを指導する機会が多かった場合にはリーダーシップを発揮。反面、仕切りすぎ、支配的、過干渉にもなりやすい。
・人が好く、危険な人にひっかかったり、大盤振舞しすぎたりすることがある。ちやほやされた記憶が、大人になっても心地良い思いと結びついて残っているため。
・すぐ下にきょうだいができた場合は、親の愛情を独占できた期間は短く、安心感に欠け、自己防衛的な傾向や、自己顕示的な傾向が強まりやすくなり、お人好しや見通しの甘さは薄まる。
第二子の心理学
・誕生から強力な競争相手(長子)がいるため、不利な状況と戦う適応戦略に応じて、特有のパーソナリティが形作られる。
・年上のきょうだいを目標に追いかける。アグレッシブ、野心的、自己顕示欲も強い。その野心や上昇志向は現実的な計算に裏打ちされ、地に足がついている。
・中間子は、権威的なものに素直に服従するのではなく、頑固に逆らい、強情に自分の意見に固執する。
・競争を好まない性格の場合は、大きな成功は諦め、ほどほどで満足しようとする。一番の者に従属することで無用の摩擦を避け、分け前を堅実に確保しようとする。
・長子のような甘さがなく、冷静に相手を観察し、相手の魂胆を見抜く。お世辞や甘言は信用しない。
・自分のことは自分するという自立能力を身につける。自分からアクションを起こさない限り、何もしてもらえなかった経験が多いので、自分で対処するか、対処できないときは助けを求めるということが身についている。
・社会的スキルや忍耐力は優れている反面、自己肯定感の低さ。
末っ子の心理学
・親の愛情を独り占めでき、親が生きている限り、その恩恵を享受できる。
・母子分離が遅れやすく、甘えん坊、依存的な性格。
・おっとしりた性格になりやすい。
・衝突を避け、うまく立ち回る能力が高い。一番下っ端なので力で争ったら太刀打ちできないことを小さい頃から学ぶため、人に取り入ったり、甘えたり、気に入られようとする。
・上のきょうだいを観察する中で、人間関係のダイナミズムを察知する能力に長けている。
・親が年取ってから生まれた場合、過保護になりすぎて、自己コントロールの弱い未熟な人間になりやすい。アルコール依存症のリスクが高い。
一人っ子の心理学
・親の愛情や関心を独り占めできる特別な地位を保ち続けるため、おおらかで、ガツガツせず、のんびりしている。
・わがままで自己本位な傾向を強めやすい。
・自分がみんなの注目の中心であろうとする自己顕示性、何でも思いのままになるという万能感。そうした欲求が常に満たされるわけではないことを教えられるかどうか。
・万能感は成功への原動力ともなる。夢見た成功が得られないとき現実逃避して、ファンタジーの世界で願望を満たそうとする。
・ただしつまづこうが、失敗しようが、親が応援しつづければ、最終的には困難を乗り越えていく。
・人の中でもまれる経験が不足するため、他者との交流がやや不器用で、自分本位な関わり方をしたり、表面的で親密な関係を避ける。自閉的。
連れ子の心理学
・人の顔色に文館で、相手に過度に合わせる。本音が言えない。
・安心感や自己肯定感の低下。
・愛情飢餓感を抱えて、紛らわそうとして自己破壊的な行動や、家から早く出ようと異性関係に避難場所を求める。
双子の心理学
・通常の兄弟とは次元の違う絆で結ばれている。
・相手をライバルというより、自己の延長、分身のようにみなしている。争いや対立も少ない。
・成長とともに、一方が主導権を握るようになり、もう一方は受け身的な役割に回る。主導権を持つ方は活発でよくしゃべり、自己主張が強い。もう一方は消極的で、相手の意志に合わせ、口数も少ない。
・別々に育てられる、驚くほど似た性格になるが、一緒に育てられる役割分担がなされ、対照的な性格になる。
それぞれの有名人やエピソードなども挙げられて、この四章だけを性格診断の読み物として読んでも面白いと思います。
その他、興味深かった点を引用を交えてご紹介します。
社会や家族を扱う場合に有用な理論に「役割理論」がある。機能不全家族には、一方に家族の希望の星であり、期待を一身に担って成功を成し遂げる存在である「ファミリーヒーロー」(一家の英雄)が現れるが、もう一方には、悪者の役割を引き受け、みんなからつるし上げや糾弾を受け続けるスケープゴート(生贄の羊)が生まれる。集団にはそういうものが大なり小なり現れるが、不健全な集団ほど、それが極端な形で現れやすい。
きょうだいの存在は、その人の中でしばしば大きな支配力をもつが、相手が異性のきょうだいとなると、性的な憧憬とも重なって、理想化されたイマーゴ(心象)となり、その人の人生を親以上の力で縛る場合がある。(中略)ブラザーコンプレックス、シスターコンプレックスと呼ばれる。(中略)性愛的な要素も混じった尊敬、憧憬の思いは、一方で、インセスト・タブー(近親相姦の禁忌)により、永遠に”叶わぬ恋”として抑圧される。
きょうだい間のコンプレックスは、通常、共に生きたきょうだいに対して生じる。大きな存在であればあるほど、良い意味でも悪い意味でも、そのきょうだいに対する憧れや劣等感が、その人を支配しやすい。だが、ときには、もう亡くなっているきょうだいが、その人の人生の中に大きな存在感を示して、支配する場合もある。
きょうだいの早すぎる死は、自分にはまったく原因がない場合でも、まるで生き残った自分に責任があるような思いを抱かせる。周囲の対応によっては、自分の方が死ねばよかったのではないかという罪責感を強めて、(中略)その子の力を奪ってしまうこともある。しかし、逆に、その子がきょうだいのやり残した思いを受け止め、身代わりとなってその責任を引き受けようという前向きな変化を生むことも多い。
きょうだいコンプレックスの根底には、大きく三つの要素がある。一つは、自分が他のきょうだいより親に愛されなかった、認めてもらえなかったという不遇感や親の不公平さへの怒りであり、自分の分まで親から愛をもらったきょうだいに対する嫉妬である。(中略)もう一つは、理想化されたきょうだいのイマーゴ(心を支配する理想像)へのとらわれである。(中略)第三の要素は、愛着した存在から裏切られた、見捨てられたという思いである。
さいごの第六章では「きょうだいコンプレックスは克服できるのか」として、コンプレックスと向き合い、乗り越えていくについて書かれています。興味のある方は書籍をご覧ください。
緋片イルカ 2019/07/31
●書籍紹介
きょうだいは同じ境遇を分かち合った、かけがえのない同胞のはずだ。しかし一方では永遠のライバルでもあり、一つ間違うと愛情や財産の分配をめぐって骨肉の争いが起こることもある。実際、きょうだい間の葛藤や呪縛により、きょうだいの仲が悪くなるだけでなく、その人の人生に暗い影を落としてしまうケースも少なくない。きょうだいコンプレックスを生む原因は何なのか? 克服法はあるのか? これまでほとんど語られることがなかったきょうだい間のコンプレックスに鋭く斬り込んだ一冊。(Amazon商品紹介より)
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