イルカの「100文字小説大賞」選考日記

2020/06/01 一回目
86作品すべての印刷がおわる。ハガキの束で年賀状みたいだ。日にちを変えて、何度か読ませていただくつもりなので、初日は第一印象を重視して読んでいくことにする。自分の中に「判断基準」は決めてあるが、しまうま選考委員長に影響を与えないよう大賞が決まった後に話そうと思う。まずは、ふつうに読んで「なにかしら、おもしろい!」と感じたものをA群、それ以外はB群、理解できなかった、あるいはもう少し意図がありそうだと感じたものをC群とすることにした。もちろん、この時点で作者名はないし、シャッフルしたので番号順にもなっていないので、誰が書いた作品かはわからない。読んでみると、テンプレート1ページ内に収まってはいるが受領時に気付かなかった行数オーバーをしている作品が他にもあった。きちんとテンプレート通りの人には申しわけないと思うが、ここまで来たらもう仕方がないということにする。また開催することがあれば、制限字数は明記しようと思う。一回目の選考の結果、A群:22作品 B群:55作品 C群:9作品となった。初めて選考という作業をさせていただいて「すんなり伝わらない」というのはコンクールではマイナスなんだろうなと感じた。「100文字小説大賞」では、一回だけ読んで終わりにするつもりはないが、大手の、何千も応募が来るようなコンクールでは、わかりづらい作品をわざわざ読み解こうとする下読みは少ないのではないかと思う。またB群に入りやすいと思ったのは「どこかで聞いたことあるな」という既視感。面白いかどうか以前に、記憶が想起されて「ああ、あれね」と思ってしまう。よく読んでみれば、元ネタより面白かったとしても、「おもしろい」の前に「ああ、あれね」という印象がきてしまう。オリジナリティが求められるというのが、選考してみるとよくわかる。勉強させてもらった。

2020/06/03 二回目
二回目では、まず、C群をていねいに読み解いていく。うち、6作品は理解したと思うのでB群に移動させる。3作品だけはいまだC群に残る。うち2作品は「たぶん、こうだろう」と思うのだが、文章から断定ができないのでもやもやしたものが残る。それが魅力にも見えるから不思議だ。これらはB群に入れてもいいと思ったが、とりあえずC群に残しておく。わからない1作品は内容が、何を指しているのかがわからない。クイズが解けないような気分。答えがわかったら単純なのかもしれないが、この作品にも不思議な魅力がある。とりあえずC群のまま保留。また、日にちをかえて読んでみることにする。CからBに戻した6作品を含めて、B群だけで「なにかしら、おもしろい」を探していく。敗者復活のようなかんじでA群に入れていく。結果、A群:33 B群:50 C群:3となった。今日はA群は読まないでおく。決めつないで、まだ何度か読むつもりではいるが、B群は最終選考には残る可能性は低そうな気配は感じている。

2020/06/05 三回目 一次選考通過作品決定
C群に残っていた3作品を処理する。2作はA群、1作はB群へ移動。それからB群から、もう一度、いいものを見落としていないかチェックしていく。どの作品にもいいところはあるので「これがどうしてダメなのか?」という質問に答える自信や根拠はない。伝えようとしている感情や思想には優劣はないと思う。それは人間の考えに優劣がないのと同じ。けれど、その視点に立ってしまうと選考はできない。あくまで判断基準として決めた5つの視点に立って選考していく。作品の優劣は、けして作者の優劣ではない。また当初から、選考する姿勢として減点式ではなく加点式にしようと考えていた。ダメなところではなく、いいところを探す選考をしたいと。だから、一度、A群に上げたものをB群に落とすようなことはしない。けれど、A群に上げるべきかどうかで迷う作品で、技術的なマイナスを考慮するかどうかが問題になった。読みにくい、伝わりづらいとか、決定的に余計な言葉があるといった技術的なマイナスが作品の「いいところ」を潰してしまっていて、これがなければA群にあげたいが、全体として他の作品と比べたときには、やはり優先しづらいものがある。心を鬼にして3作品だけA群に移した。結果、A群:38 B群:49となった。A群を二次選考通過作品、B群を一次選考通過作品とすることにした。明日以降、A群から同じように選考を繰り返して、最終選考通過作品を10作品前後にしぼっていく予定。

2020/06/06 四回目 二次選考の一回目
二次選考の一回目。A群の38作品を、直観に従って「とてもよい」「よい」「ふつう」の3グループに分けていく。一次選考よりもやや厳しく選考したつもり。結果、「とてもよい」に残ったのは9作品、「よい」が14作品、「ふつう」が15作品となった。第二次選考は加点式とするので、「とてもよい」は2点、「よい」は1点として、それぞれのハガキの裏(郵便番号欄がちょうどいい!)に記入。その後、すべてをシャッフルして、次回は直観ではなく、別の判断基準による客観的な採点をして加点していき、合計点の高いものから最終選考を選んでいく。ちなみに一次選考から同じだが、誤字脱字やテンプレートのズレなどはマイナスにはしていない。それらが作品内容と関連する狙いである場合はプラスとしようと思っていたが、特別に何かを狙った字面はなかった。一行空けをするのはない発送だったので面白いと思った。6行しかないテーンプレートで一行空ける効果は、短歌の字足らずのような空白を生む効果があると思う。このペースで選考していけば、来週には最終選考作品を公表できると思う。大賞決定は、しまうまさんと会える日次第なので未定。

2020/06/07 五回目 二次選考の二回目
今日は客観的な視点で「判断基準」を精査していった。判断基準のくわしい内容は大賞決定後に話すが、一言でいえば「小説らしさ」。主催者としては100文字小説はあらすじや川柳やツイートのようなものではなくて、あくまで小説的であってほしいと思いがある。大手出版社のコンクールでも、受賞作や佳作を読んでいくと主催者の求めているものが浮かびあがってくる。100文字小説の選考から、そこまでにじみ出せるとは思わないが、ただの好き嫌いだけで選ばないようにしたい。けれど、しまうまさんの主観が入ることで選考の面白味が増すとも思っているので、彼には彼の基準で選んでもらう。「小説らしさ」には大きく三つの要素を想定している。ただし、それらは独立しているわけではなく、ベン図の共通部分のように重なるところがあって個別に精査はできないのが、その要素が滲み出ているかどうかの「有無」で、滲み出ているものには1点ずつ加点していった。1つめの基準で19作品、2つめの基準で6作品、3つめの基準で10作品の加点となった。点数を集計してみると、5点満点は0作品 4点:2作品 3点:9作品 2点:12作品 1点:8作品 0点:7作品となった。
4点の2作品は先に最終選考通過作品とした。点数はハガキの裏に記入しているので集計中は、どの作品かわからなかったが、内容を見てみて自分でもちょっと意外だった。自分の好みだけにならなかった良い証拠としたい。3点の9作品を眺めてから、最終選考に残す作品のバランスは考えたかったので、2点のものから3作品に+1として3点群に加えた。逆に3点とっていたが4点の2作品と似ている1作品だけは外してしまった。これはコンクールならでは「運」のようなもので内容の良し悪しではない。残り11作品から8作品選んで、計10作品を最終選考作品にする。

同日 六回目 最終選考通過作品決定
休憩を経て気分をリセットしてから、計13作品から最終選考通過作品を選んでいく。13枚を並べて眺めてみる。ここまで残っているのだから、すべて通過にしてもいいと思うが、それは選考の手抜きでもあるので、きちんと2作品を落とすことにする。2作品は決定済みなので、残されたイスは8つ。全体のバランスを考えてジャンルや空気感でグルーピングしてみると、3作品は似たものがないため、すんなりと通過枠に収まる。その中には2得点だったが+1されて入ってきたものがあった。このジャンルが少なかったのが「運」として作用していると思った(とはいえ二次選考まではきちんと実力で残っているのだ)。もう1作品、並べてみると個性が目立っているものがあって、ポンとイスに座った。残り4席。ここからが難しかった。まず明確にぶつかってる2作品があった。1つはいちばん最初の選考でよくわからないとしてC群に入ったものだ。いまだに、何を指しているのかはわからないが、独特の魅力がある。ぶつかってる、もう1つの作品も雰囲気で伝わるものがあるが曖昧さが魅力となっている。前者は謎、後者は詩的という印象。前者は答えがわからない謎が解けてしまえば単純なオチかもしれないという通過作品として評価する上での怖さもある。悩んだ末、後者の文章表現の工夫を評価してこちらを選んだ。前者の作品も、ぶつかっていなければ残ったと思う。残り3席を5作品で争う。1作品は日常的だが魅力的なので選ぶ。自虐のようで深い人生観がかいま見えるところがいいと思った。もう1作品も全体のバランスがよくて面白かった。あと1作品。どれもすでに決定した作品と似ている部分はある。1つは描写に専念しているところに好感がもてるが、ことばの選び方のせいか、いまいち情景や状況がぼんやりとしか浮かんでこないのが残念。1つは感情がストレートで共感も抱くが具体性が少なくて抽象論のようにも見えてしまう。1つはいかにもショートショートというかんじで、ややベタな印象を受けたがわかりやすくて、結局、これを選んだ。以上で、最終選考通過作品10作品を決定した。あとで話題にでることを予測して、応募IDからペンネームを調べていくと「ああ、この人か!」というかんじだった。ペンネームしか知らないが、たくさん応募してくれた方の名前は印象が残っている。最終選考に2作品残っている方が1人いたが、似てなくて「これと、これが同じ作者なのか!」と驚いた。選考日記は終了。あとは後日、しまうまさんにより最終選考。どれを選ぶか、たのしみである。(了)

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