『パンク侍、斬られて候』町田康(読書#14)

江戸時代、ある晴天の日、街道沿いの茶店に腰かけていた浪人は、そこにいた、盲目の娘を連れた巡礼の老人を、抜く手も見せずに太刀を振りかざし、ずば、と切り捨てた。居合わせた藩士に理由を問われたその浪人・掛十之進は、かの老人が「腹ふり党」の一員であり、この土地に恐るべき災厄をもたらすに違いないから事前にそれを防止した、と言うのだった…。圧倒的な才能で描かれる諧謔と風刺に満ちた傑作時代小説。(Amazon商品解説より)

あらすじにもある通り、浪人(作中では牢人と表記される)の掛十之進が、突如、老人を切り捨てるところから物語は始まります。

「腹ふり党」とはなんぞや?

この設定こそが、この物語の根幹でもあります。
 

腹ふり党は結社風の名前ですが完全な宗教団体です。腹ふり党の党員達はこの世界は巨大な条虫の胎内にあると信じています。彼らにとってこの世界で起こることはすべて無意味です。彼らが願うのは条虫の胎外、真実・真正の世界へ脱出であり、その脱出口はただひとつすなわち条虫の肛門です。
 腹ふり党の説く真正世界への脱出のためにはいくつかの手順がありますが、基本的には「腹ふり」を行うことによって人々は真正世界へ脱出することができます。「腹ふり」とはなにかというと一種の舞踏です。首を前後に、或いは左右にがくがくさせつつ、目を閉じ、「ああ」とか「うーん」などと呻くのです。これを集団で行うというのですから、ほんとうに無意味で虚無的な行動ですが、彼らにとってはこの無意味さがいいのです。なぜならこの世界を腹中に収めている巨大な条虫は、かかる馬鹿げた無意味なことがなにより苦手でこのバカ騒ぎが原因で条虫は苦悶するのです。
 実は腹ふり党の目的はそれで、条虫はこの胎内に突如として湧いた毒のような物質、すなわち腹ふり党員達を胎外に糞として排出しようとします。これこそが腹ふり党員が熱望する真正世界への脱出なのです。

簡単にまとめると「この世界はサナダムシのお腹の中にあって、外に出るには変な踊りをして、うんことして出る」ということ。
ふざけた設定ですが、論理的には妙な説得力があります。

これは作品全体を通して言える感想です。
ふざけているのに、そのふざけが常識へのアンチテーゼとなっているのです。皮肉もきいています。

「でも僕、もの凄く不思議なんですけどね。なんでみんなあんな簡単に腹振っちゃうんでしょうね。普通、あんなので騙されないじゃないですかあ? もうみるからにインチキだし、言ってること訳分かんないし。ところがみんなもの凄く簡単に腰振っちゃうでしょ。そこが見ててすごく不思議だったんですよ」
「それは単にあいつらが考える能力を失っているということじゃない? つまり、誰かが俺は凄いよ、と言うと、即座に信じて、あ、あの人は凄い、と思っちゃう。批判能力がないんだよな。例えば今日行った変粉なんかがそうで、別にうまくもなんともない訳じゃない? でも老舗の名店です、って看板に書いてあるからみんな本当に名店だと信じて押し寄せる。誰かがあいつが悪人だ、って書いたり喋ったりすればその根拠を問わないで信じるしさ。簡単な奴らなんだよ」

ストーリーは二転三転しながらラストで何が起きたのかは語れません。
ネタバレしないのではなく解釈不能なのです。(わかる人は教えてください笑)

けれど、物語の最後に出てくるセリフは響きます。

「こんな世界だからこそ絶対に譲れないことがあるのよ」

「譲れないもの」それが何なのか。

気になる方は、ぜひ読んでみてください。

●作品紹介
パンク侍、斬られて候 (角川文庫)

映画版もあります
パンク侍、斬られて候 [DVD]

未見ですが本を読むと「これを映像化したのか……」と興味をそそられました。

予告編


本を読んでない人がこれを見ても、どんな話かぜんぜんわからないと思いますが。

緋片イルカ 2019/11/20

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