書くために使おう!
このシリーズは三幕構成を「自分の作品に応用する」ことに着目して解説しています。段階的な説明になっているのでStep1からご覧ください。
本格的にビートなどを理解したい方や基礎知識のある方は「ログラインを考える」シリーズをご覧ください。音声解説もあります。
また、三幕構成の分析や創作の実践に興味がある方は「読書会」へのご参加をお待ちしております。こちらも音声解説があります。
今回のテーマ「もう一度、旅へ」
前々回はアクト1を3つのパートにわけて構成するという学習をしました。
前回は同様にアクト2を3つのパートにわけて構成するという学習をしました。
今回は、いよいよ、クライマックスにあたるアクト3について構成していきます。
プロットポイント2で、主人公の旅は終わりました。旅行でいえば家に帰ってきました。非日常の時間はおわり、学校や仕事など日常生活へ戻っていきます。
しかし、三幕構成の物語はここでは終わりません。もう一度、旅へ出るのです。それこそがアクト3です。
具体的にみていきましょう。
今回の課題「アクト3を構成する」
アクト3も作者の力量が問われるシークエンスです。クライマックスなので当然です。読者・観客はどこかで見たようなシーンではなく、作者のオリジナリティが見たいのです。
今回はクイズの答えから入りましょう。
「浦島太郎」は、なぜ玉手箱を開けてしまったのでしょう? その後、どうなったのでしょうか?
でした。
この「なぜ」に対する答えに主人公である「浦島太郎」を作者がどう捉えているかが出ます。
乙姫のことを思い出して「寂しい・恋しい気持ちから開けてしまう」のは自然な流れです。これは一つの答えになります。
玉手箱に「お宝が入っていると思った」というのもあるかもしれません。
「好奇心に駆られて」というのもありえます。「開けるな」と禁止されると、開けてしまいたくなる。人間の心理としてはありえます。
キャラクターによって動機は変わるのです。
ここでは、前回までのラブストーリーの流れを引き継ぐので1つめの「恋しい」気持ちからということにしておきます。
もしも、2つめの「お宝」だと思う浦島太郎であれば、アクト1、アクト2が別のストーリー展開になっているはずです。たとえばお宝目当てで竜宮城へ行き、ついに持ち帰ったのが「玉手箱」だったとすれば、「お宝だと思って開ける」のは自然の流れとなります。ラブストーリーの流れから「お宝」が入ってるとは思わないでしょう。また3つめのカリギュラ効果によって開けてしまうのであれば鶴女房(鶴の恩返し)のように最初の段階で『開けてはいけない』という禁止を設定しておく構成にしなくてはいけません。テーマが変わるのです。どちらも、ラブストーリーの流れの浦島太郎か外れています。
では、玉手箱を開けて、お爺さんになってしまった浦島太郎は、その後、どうなるのでしょう?
前回、竜宮城に行ったきり帰ってこないような「ミッドポイントで終わってしまう物語もある」ということを話しましたが、プロットポイント2も同様に物語が終わるタイミングの一つです。実際、昔話の「浦島太郎」はここで終わってしまい、その後の浦島太郎がどう生きていったのかは語られません。
しかし、ここで終わっては三幕構成になりませんので、つづきを考えてみます。
一番、つまらないのは「その後、一人寂しく暮らした」というような、ただの延長線を考えただけのものです。
これは、寂しさゆえに自殺してしまったというのと、ほとんど変わりません。つまり、その後のストーリー展開がないので、アクト3になっていないのです。
バッドエンドがいけないという意味ではありません。映画やテレビは特質上、圧倒的にハッピーエンドが多くなっていますが、バッドエンドがいけないという訳ではありません。後味の悪い名作映画はたくさんあります。小説ではいわずもがなです。ただし、アクト3でもう一度、「旅」に出ないままのバッドエンドはいけません。というかつまらなくなるでしょう。その後の浦島太郎の平凡な日常を描いたところで面白味がないのです。しかし、浦島がもう一度、「旅」に出て、それでもやはり乙姫とはうまくいかず、最後に絶望して「海に身を投げて自殺する」というのであれば問題ありません。アクト3で、やるべきことをやった末にバッドエンドになるのは問題ないのです。無意味なアクト3を入れるぐらいなら、プロットポイント2で物語が終わってしまった方がマシですが、その場合は、前半の構成がすべてズレてきます。
では、アクト3とは何でしょう?
それは「新たな旅」です。アクト1~アクト2で旅に出たように、もう一度、「旅」に出るのです。
どこへ向かうのでしょうか?
例1「海を守るための戦い」
たとえば「護岸工事が始まって、竜宮城が潰れてしまう事態が起きる」というのを考えてみましょう。
浦島太郎は海を守るために、村の抗議活動に参加するかもしれません。しかし、これは違和感があるでしょう。乙姫への愛から海を守ろうとするという動機はわかるにしても、アクト2で行った「竜宮城への旅」と「抗議活動」では種類が違いすぎるのです。ジャンルが変わってしまっているのです。
読者・観客はラブストーリーだと思っていたのに、最後は急に政治くさい話になったなと興冷めしてしまうかもしれません。
こんなズレた話は考えないと思うかも知れませんが、ハリウッド映画でも、アクト2とアクト3が噛み合っていない映画がけっこう見受けられます。アクト3はアクションなどの派手な演出が入って盛り上がってはいるのですが、それまで描いてきたテーマが安易に解決してしまったりして残念な作品が、じつはけっこうあるのです。
これはStep3・4で説明した「ミッドポイント」=「感動ポイント」の大切さを理解していないことが原因です。
「乙姫」との恋愛を、心底まで描ききっていれば、浦島太郎というキャラクターは「抗議活動」なんかよりも、乙姫に会いたくて会いたくて我慢できなくなるはずです。それこそがラブストーリーです。
では、次の例はどうでしょうか?
例2「もう一度、竜宮城へ」
「浦島太郎は、乙姫に会うためもう一度、竜宮城へいく方法を探す」
これは、もっとも自然な三幕構成です。ゆえにベタな展開になりがちでもあります。
どうやって行くのか?
もう一度、亀に出会うのか。潜水艦を開発するのか? あるいは……?
こういったところに作者のオリジナリティが問われます。
竜宮城へ行った後はどうなるのか?
どんなセリフや行動で乙姫に思いを告げるのか? 一度、捨てられている乙姫は拒むかもしれません。
こういったところにも作者のオリジナリティが問われます。
そしてラストはどうなるのか?
二人は結ばれるのか? 結ばれないのか?
ここにも作者のテーマが現れます。
例3「乙姫からやってくる」
人魚姫のように、乙姫の方から人間界へやってくるという展開もありえます。
「浦島太郎」にとっての「旅」は竜宮城でした。だから例2で示した、再び竜宮城へ旅立つというのが最も自然な型ではあります。しかし「旅」のもう一つの要素は「乙姫との恋愛」でした。
そのポイントを外していなければ、乙姫が人間界へ来るというのもありえるのです。
二人が、人間社会で幸せに暮らせるかどうかは、やはり作者の描き方次第です。
例1~3をぜんぶ入れてみる
例1では、ジャンルがズレてしまう可能性があることを話しましたが「乙姫との恋愛」というポイントを外していなければ、語感工事というエピソードだって使うことができます。
たとえば、こんな展開です。
日常に戻った浦島の元へ、乙姫が会いにきます。しかし、浦島が家を離れてるタイミングで二人は擦れ違って会えませんでした。陸上の環境に耐えられず、乙姫は帰っていきます(例2を利用)。
そんなとき、村では護岸工事の話が持ち上がります。海には大切な生物(人)がいることを訴え、工事を止めようとするがうまくいかない(例1を利用)。
浦島は、再び竜宮城へ向かうため、海に飛び込み……(例3を利用)
再び、旅にでること
アクト3でやるべきことは「もう一度、旅に出る」これだけです。
どんな旅があるか、例をいくつか示しましたがクライマックスなので、あくまで作者次第です。書きたいものをぶつけてしまってもいいでしょう。
もしも、どうしていいかわからないという人がいたら、原因はアクト1のキャラクターの設定や、ミッドポイントにあります。
アクト1のキャラクター設定は、主人公が始めにどういう人間であったかを描くことです。
その主人公はミッドポイントで感動体験をして変化しています。
この二点がしっかり描けていれば、アクト3でやるべきことはおのずと見えてくるはずです。
また、アクト3を書いてみたら熱が入りすぎて、前半とのバランスが悪くなったとしたら、前半を合わせるように直していけば問題ありません。よくあることですし、そのために推敲作業は必要なのです。
次回へ向けて
以上、3回に渡って、各アクトを構成してきました。
アクト3ではあなたの書きたいすべてをぶつけてください。
これで三幕構成の基本説明はおわりです。
最終回になる次回は、総まとめと三幕構成のより実践的な使い方について解説していきます。
では、クイズです。
桃太郎を三幕構成にすると、どこがミッドポイントになるでしょうか?
「三幕構成の作り方シリーズ」は毎週月曜8時更新です。
次回 → Step8「三幕構成の使い方」(5/11公開)
緋片イルカ 2020/04/12
今回の内容をビートに関連させると、以下のようになります。より細かく知りたい方は以下のページをご参照ください。
「アクト3のビート」→「ターニングポイント2」、「ビッグバトル」、「ファイナルイメージ」