2076
●2076:とつぜん、知らない人から500円玉を返される。不思議な出来事です。人生ではこういうことが、時に起こります。理性を働かせて「誰かと人違いをしたのだろう」と片付けてしまうのは簡単で、安心もできます。我々はそんな風にして「わかったフリ」をして生きているのでしょう。そして、不条理な出来事に遭遇したときには怒りさえ覚えます。作者がそこまで意図をしていたかはわかりません(※意図するのであれば500円玉にはしなかったと思いますが)。けれど「物語」は書き手と読み手のコミュニケーションで価値が生まれます。意図せずに撮った風景写真にUFOが映り込んでしまうように、作者は無自覚に不思議な世界を描き出すことがあるのです。この作品で、評価に値すると思うのは、最後に「双子の弟と人違いしただんだろう」なんて、台無しにする一行をつけなかったことだと思います。オチがついて、わかりやすくなりますが、読み手の想像力を奪います。
2080
●2080:女性作家らしい描写が素敵な作品です。作者さんが女性かどうかは存じません。「女性作家が書きそうな雰囲気」という意味です(こんな言い方も差別と言われてしまうかもしれませんが)。「カラフルな野菜が詰まった弁当」が見事だと思いました。何だろう?と思わせておいて、しっかり「パプリカやナッツの炒めもの」と描き込まれていきます。お腹が満たされるだけでなく、「もう少し頑張ろう」という一言が、この語り手の気持ちをさりげなく伝えています。春の暖かさ、お腹の暖かさ、ほっこりする気持ち、そういったものが、たまたま見つけた弁当屋さんとの出会いを通して描かれています。弁当のように、短い中にいろいろなものが詰まった素敵な物語だと思いました。