2099
●2099:吹き抜けのあるビルに閉じ込められているのでしょうか。階下からは水が溜まってきています。魚も泳ぎ(魚影という表現も素敵です)、水面は散った花びらでピンクに覆われている。水槽に閉じ込められたカエルか何かかもしれませんし、あるいは夢の中なのでしょうか。夢であるなら、迫りくる水は何を象徴しているのか。屋上から香ってくる花は? シュールなシチュエーションですが、映像がはっきりと浮かぶのでとても興味を惹きます。小説らしい愉しみ方のできる作品だと思いました。横書きになっているのは何らかの効果を狙っているのかと考えましたが、ただのソフト上の問題かなと思いました。けれど、グルグルと螺旋上に文字を配置していくような絵本のような遊び方もできそうな作品だと思います(そういう遊びは内容と合わなければ無意味だと思います)。
2100
●2100:この作品は構成だけを見るなら前の感想(2058の作品)でも述べた「狂気オチ」というタイプです。しかし構成だけでおわらず、描写が見事で、とても小説的だと思います。「夫が浮気している」なんていう説明はせず「隣に住む女は誘ったのだろうか」で留めていますが、充分に伝わります。説明ではなく声を描くことでキャラクターも立ってくるのです。庭の「水仙を鎌で一振り」するだけで、彼女の気持ちはどんな説明的な言葉よりも強く描かれています。ここでも「許さない」とか「殺してやる」など説明するより、鎌の一振りの方が雄弁なのです。水仙がニラに似ていて毒にあるという読者に必要な情報を伝えたあと、「偽物は、いらないのです」のラストも見事です。庭に毒となる水仙が生えていると危ない。だから「偽物はいらない」と水仙を刈っているようにも読めますが、もちろん彼女が許せないのは「偽物の愛」の方でしょう。この後、刈り取った水仙をどうするのでしょうか? 想像したときに感じられるゾゾっという怖さこそショートストーリーにおける「狂気オチ」の本質ではないでしょうか。言うまでもありませんが「帰って夫に(あの女に)食べさせよう」なんて説明は絶対にいらないのです。それに気付かない読者がいてもいいのです。過保護な教師が答えを教えるとと、生徒の考える力が養われないように、説明されすぎる小説は、読書の愉しみを奪ってしまいます。とてもレベルの高い作品だと思いました。