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2156
●2156:父の遺品を整理していると『草枕』が三冊もでてきたというシチュエーションが素敵だと思いました。「三冊」だけだと、草枕が全三巻のように読み違えてしまう可能性があるので、もう少し言葉を置いた方が誤読されないと思います。誤読されてしまうとラストの「なくしがち」の効果が半減します。ただ、この一行自体が説明的で、ない方がいいようにも感じます。父の声もはっきりとセリフにせずに、自然と聴こえてくるようにしむけた方が情緒的でした。言わぬが花というやつです。主人公をしっかりと描写することで、遺品を片付けながら、父を思い出し、心の中で会話していることは自然と伝わります。文章には気になるところがありますが、とても好きな作品でした。(※ちなみに通常、書籍名には二重括弧を使います)
2161
●2161:「春」がコンセプトになっているので桜の作品はたくさんありましたが、桜の樹木視点から書かれた作品は他になかったように思います。僕も散歩が好きなので、よく芽を見かけてもうすぐ春だなと感じたりしています。多くの人は咲いた桜ばかり見て悦んでいますが、冬の桜の寂しさに気持ちを重ねたところにとても共感が持てました。「枝のおかげで雪が見れた」というのは、オチをつけるための理屈っぽさを感じますが、最後にパッと桜が咲くかんじは、樹木自身の悦びと重なって、爽やかなまとめ方だと思います。