Uブロック
2212
●2212:朝、目を覚ましてからのルーティンが、小気味良いリズムで描写されていきます。「バフバフっと広げ、四角に畳みベッド隅に積む」こだわりや「歯割れ防止のマウスピース」「ぬる湯を飲む」など、本人には「当たり前」と思っていることが、他人には個性的に見えます。誰でも、自分のルーティンをもっていて、それは自分ではつまらないことに思われていても、文章化してみると、読んだ人にはまったく違ってみえて、小説の面白さのひとつだと思います。「朝のルーティンが多すぎて、ちょっとうんざり」している主人公。ずぼらな僕からしたら「そんなルーティンやめちゃえばいいのに」と思いますが、そう考えてもやめられないの、この主人公の性格なのでしょう。読者の中には、すでにキャラクターが立ち上がっています。単純なようで、意外と書けない「小説らしい」文章だと思います。
2217
●2217:小高い丘の上にある城跡の景色を眺めながら「この街が好きだ」と感じる。綺麗で情緒てきなシーンだと思いました。前半の城跡の描写は、やや力が入りすぎていて読みづらい印象があります。「小高い」→「城跡の」→「雪割草」とか、「薄紅の」→「梅咲く」→「港町」というように形容詞が重なると情報がつかみづらくなります。主語が省略されることも、日本語では多いのですが、「目を覚まし」と「見下ろす」という述語が二つある複文になっているのも、読みにくさの原因です。読者目線では、もう少し整理してほしいとは思いますが「この街」への思いが溢れていることは伝わります。「カメラレンズに映る紫色と空に、花は城主の瞳を重ねた」という一文も、主述関係がよくわかりませんが、ファインダーを通して、過去の城主の気持ちになったのだと読みました。その上で導き出される「この街が好きだ」には歴史の重みを感じます。次の「今年も、来年も」にもつながるのですが、最後の一行はやや余慶にも感じます。文章の読みにくさなどは、テクニックや書き慣れでいくらでも解消できますが、「潮風」や雪割草の「紫色」など作者さんの体験に基づく感情は、他人には真似できないものです。その一点に対して投票しました。