映画『ザ・キラー』(三幕構成分析#180)

今回の分析対象

https://www.netflix.com/title/80234448

※あらすじはリンク先でご覧下さい。

※この作品は「物語分析会」でとりあげた作品です。詳細説明は会場で行いました。

分析会参加者のビート比較表

BSsimple_TheKiller

【ビートシート】

イルカの感想

フィンチャーらしい上質なまとまりの作品。小説原作のモノローグでキャラクターの内面に意識を向けつつも、単調にならない速いショットの切り替えで注意を惹きつける。カタリストが遅いが耐えられる。途中のゴミ捨てのサスペンスは明らかに不要(画面揺らしが巧いが)。任務失敗からショットのペースチェンジも見事。恋人が襲われてからの復讐開始は、ベタなリベンジプロットの構成だが、イルカが得意の型じゃないので研究が必要と感じた。アクト2以降、イクスターナルには目的の3人を殺しにいくだけの展開で、フォールやPP2が機能していないため、だんだんと疲れてくる。ドロレスの命乞いに対してどうするか?がサブプロットに見えるが、結果がやや曖昧。首折りは事故に処理されるのか?(原作を読めばわかるかもしれないが)、その後、停滞するアクト2後半で、唯一の激しいアクションシーンが入るが、作品全体からもの凄く浮いている印象。これまでのベタベタすぎてプロレス的で、ここまでついてこれなかった観客の目覚ましにはなるだろうが、作品の質を低下させている。それまでの殺し方と比べてリアリティが低下している。フロリダ、ニューヨークとセカンドディレクターが撮っているのだろうか。ショットの取り方やテンポも、トップシーンと比べると普通の映画というかんじ。全体を通して主人公の虚無感やセリフがどこまで本気なのかわからず、行動もどっちにも捉えられるような幅で処理していて、テーマが伝わりづらい。ニヒリズムに対するディベートが読みとれない観客には退屈なサスペンスに見えるだろう。モノローグの内容は字面通りに受け取るというよりは、どういうタイミングで入れているかもポイントで、モノローグという演出を使って、内外の葛藤を表しているようにも見えて面白いが、それでも極めて深いテーマを掘り下げきれているようにも見えず上質だが4点といった印象。『ノーカントリー』のようなエンタメとテーマの共存の方が訴えるものがあったかもしれないし、もっとキャラクターに寄って内面を掘り下げる演出もあったのではないか? そうなるとテンポの良さはバッティングしかねないが、ここぞというところのアップは決めているので、フィンチャーなら出来たはず。もう少し物語から人物像を掘り下げて演出すればよかったと思う。MTV出身のフィンチャー。ドキュメンタリー出身の監督なら同じ脚本で、どう撮っただろうか?

※分析会にて意見を聞いているうちに作品と脚本の点数を下げた。

ツイストアイデア

ザ・キラーの内面に寄った演出(カメラも寄る)。キャラ名は名前のない殺し屋ではなくなるかもしれない。方針としては真逆だが、前半のスピーディーな演出や、逆にミニプロット的なゆるやかなアークに徹することでテーマが掘り下げられた可能性もある。殺し方などが現代アップデートできていないのでユニークさも欲しいか。

緋片イルカ 2024.1.19
2024.1.22更新

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