映画『劇場版 名探偵コナン ゼロの執行人』(三幕構成分析#145)

※この分析は「ライターズルーム」メンバーによるものです。

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【ログライン】

江戸川コナン(高山みなみ)が大規模爆破テロ事件の真相を究明して、無人探査機のカプセル衝突事故を防ぐ。

【ビートシート】

Image1「オープニングイメージ」:「高性能ドローンの飛行テスト」ドローンが高く舞い上がる。少年探偵団は阿笠博士(緒方賢一)が開発した高性能ドローンの飛行テストに高揚する。衛星通信による操作で高度1万mまで飛行可能だと、男のロマンを語る阿笠にコナンが「法律に触れる」と言う。この作品のテーマは私達一人ひとりが持っている正義が時に招き寄せてしまう「違法行為」だ。
一方、灰原哀(林原めぐみ)がテレビで5月1日の東京サミットや無人探査機「はくちょう」帰還の報道を見ていると、国際会議場が爆発する。コナンはテロであればサミット当日ではなかったことに疑問を感じる。
「ジャンルのセットアップ」「SF、ミステリー」)

CC「主人公のセットアップ」:「小さくなっても頭脳は同じ、迷宮なしの名探偵」オープニングクレジットとともに、工藤新一(山口勝平)とコナンのナレーションによって、この物語のあらすじと主要人物が一気に説明される。シリーズを知る者も知らない者も漏れなく、この物語の前提となる必要最低限の情報が共有される。そして、コナンには原始的欲求がある。彼が事件の真相究明に取り組む大きな理由は恋人である毛利蘭(山崎和佳奈)を守るためだ。この欲求は主人公と悪役の対比にもなっている。公安警察の安室透(古谷徹)にとって恋人は国だ。車やモノレール、無人探査機が彼らに襲い掛かって来る時、実際は何が危機に瀕しているのか。 恋人を守るために彼らは命をなげうつ。

Catalyst「カタリスト」:「小五郎にテロ犯人容疑がかかる」11分たったところ、警視庁の捜査会議で爆発が事故とみなされそうになると、公安警察の風見(飛田展男)が現場の発火物と見られる高圧ケーブルの格納扉に毛利小五郎(小山力也)の指紋が出たと報告する。後日、公安によって毛利探偵事務所が家宅捜索される。

Debate「ディベート」:「誰が何のために小五郎に容疑を?」コナンは第2幕の「混乱した世界」に入る前で抵抗する。小五郎の身の潔白を証明するため、阿笠に爆破物の調査を依頼する。真の謎、誰が何のために爆破事件を起こしたのか?なぜ小五郎に容疑をかけたのか?コナンは刑事から経緯を聞いていく。 しかし、公安警察の風見は小五郎のPCにあったサミットのプログラムや会場の見取り図をつきつける。

Death「デス」:「小五郎、公務執行妨害で逮捕」風見に身に覚えのない証拠をつきつけられた小五郎は抵抗して、公務執行妨害罪で逮捕されてしまう。コナンによる動機への疑問も無視されて、彼は連行されていく。「新一は来ない」蘭の落胆に、コナンこと新一は恋人としての危機に瀕する。小五郎を見送るコナンの元に悪役の安室が登場する。コナンにとって安室の仕業であることはすでに明白だ。そこで主人公と敵役が対比される。安室にも命に代えて守るものがあるのだ。「違法行為」をしてでも。

PP1「プロットポイント1(PP1)」:「小五郎の弁護人探し」21分たったところで、逮捕された小五郎の無実を証明が始まる。小五郎の妻で敏腕弁護士の妃英理(高島雅羅)に弁護を頼むが、身内であるため叶わず、また他に弁護人が見つからないことに困る。
サブプロットは安室たち公安警察を巡る人々によって語られる。ここではこの作品のテーマである、正義の名の元に行われる「違法行為」について議論される。安室たち公安警察は国を守るため罪のない人を犯人に仕立てていく。そして、このストーリーの核心となる「NAZU不正アクセス事件」が明らかになる。この事件で安室は取り調べ相手を自殺に追い込んだのだ。

Battle「バトル」:「小五郎の無実の証拠を捜索」小五郎の無実の証拠を探す奮闘が「バトル」だ。弁護人探し。少年探偵団の高性能ドローンによる現場の破片画像と復元。公安事件を全て敗訴してきた橘境子(上戸彩)の弁護士採用。日下部検事(川島得愛)が要求した追加調査。同時に、小五郎の無実を証明しようとするコナンたちの捜索(SF道具も使って)、推理が「なぜやったか」の「お約束を果たす場」、「お楽しみ」でもある。

Pinch1「ピンチ1」:「IoT圧力ポット」少年探偵団が高性能ドローンで爆発現場の破片画像を復元する。破片はIoT圧力ポットだった。爆発物でなかったのことに悔しさを隠せないコナンだが、これが「手がかり」となって、MPにつながる。第2幕前半のテーマは小五郎の無実の証明だ。

MP「ミッドポイント」:「IoTテロと判明、事件化による小五郎の解放」47分たったところで、各地でIoT機器が相次いで故障し、東京は混乱、「危険度がアップ」する。コナンは爆破現場のIoT圧力ポットを「手がかり」に大規模爆破テロ事件は一連のIoTテロだったのだと推理する。メインとサブのプロットが交差し、コナンの推理によって、事件化に成功した公安は「違法作業」の片をつけるため、刑事部を通して小五郎を解放し、「まやかしの勝利」となる。

Fall start「フォール」:「岩井統括検事のスマホ発火」55分たったところで、敵の反撃が始まる。小五郎の不起訴を命令する岩井統括検事のスマホが発火して火傷を負う。Norブラウザの痕跡からIoTテロと見られる。

Pinch2「ピンチ2」:「羽場は公安の取り調べ後に自殺した」橘によって岩井統括は自殺した羽場二三一(博多大吉)の事件を担当して出世したことが明らかになる。羽場は橘の事務員として働いていたが、公安の取り調べ後に自殺したのだ。コナンは安室の取り調べ相手が自殺した話を思い出す。第2幕後半のテーマは「真犯人は誰か」だ。コナンは真犯人の動機の「手がかり」をつかんで、PP2に向かう。

PP2(AisL)「プロットポイント2」:「真犯人を突き止める」NAZUがNorの追跡システムを持つことを知り、コナンはこれまでの手掛かりを振り返って、真犯人を推理する。コナンは犯人の動機に関係する公安警察の安室に打ち明けると今日が羽場の命日であることを知る。復讐がまだ終わっていないことに気づき、コナンたちは警視庁に急行するが、IoTテロによる交通事故で、「死の香り」が漂う。犯人は、あと1時間弱(「タイマー」の警告)で大気圏に突入する「はくちょう」を不正アクセスで落とすつもりだ。「まやかしの敗北」で、「この映画が始まった時より悪い状況」に陥る。

DN「ダーク・ナイト・オブ・ザ・ソウル」:「停電の警視庁」警視庁で蘭と小五郎らが再会に喜んでいると、停電になる。非常用電源は破壊されている。「はくちょう」の予想落下地点は警視庁だ。1キロ圏内の15万人が緊急避難する。探査機の進路変更は体験突入前のわずかな時間しかない。ところが、探査機のアクセスコードは変更されていて、犯人から聞き出すしかない。

BBビッグバトル:「犯人逮捕、探査機カプセルの衝突回避」メインとサブのプロットが交差して、安室は犯人からアクセスコードを聞き出すため、「死んだ人間を蘇らせる」作戦を持ち掛け、少年探偵団を協力者にする。犯人は日下部検事だった。日下部の協力者だった羽場の自殺に対する公安警察への復讐だったのだ。コナンは日下部にこの作品のテーマに対する明確な解答を告げる、犠牲を払っていい正義はない。安室らは実は生きていた羽場を人質に日下部からコードを聞き出そうとして、再び「暗雲」が立ち込めるかのように見えるが、これは合成映像で回避される。探査機へのアクセスは成功するが、ブラックアウトで確証がもてない、そこでやはり「暗雲」が立ち込めて、公安お得意の「違法作業」ドローン爆弾で軌道を変える。逸れたカプセルは蘭たちのいるカジノタワーに向かうが、コナンと安室は超越的なアクションで衝突を防ぐ。最後の謎が明かされる。なぜ安室は小五郎を巻き込んだのか?コナンの本気の力を借りるためだ。それは作者の声でもある。主人公の原始的な欲求を引き出すことは、すなわち観客の興味を引くために必要だったのだ。

image2「ファイナルイメージ」:「サミット会場爆破事件犯人と探査機カプセル報道」オープニングイメージの2つの報道と少年探偵団の結末が語られる。日下部の動機には公安による羽場の死は伏せられ、異常な犯罪者とされている。また、探査機カプセル回収の成功や日本の危機を救ったことは何も知らない少年探偵団が火星探索を夢見ている。伏せられた「違法行為」によって平和な日常が戻った。

【感想】

コナンの蘭、小五郎を巡るキャラクターアーク、安室のミステリアスでタフな描写が対照的でしっかりとしている。
犯人の日下部の動機となる協力者羽場との絆。また、橘と羽場、この関係に説得力が無いと犯罪の説得力が欠けてしまう。羽場の正義感も今一つよくわからない。よくわからないが、つまるところ、安室ら国家権力に振り回されてしまっている犠牲者だ。それは現実世界でも沢山ある。
安室はその権力のひずみで生まれてしまった、愚かな人たちの暴走を「違法行為」の方ををつけるという美学で命がけでつじつまを合わせている。それはあり得ないけれども、こうあって欲しいという幻の父権なのだろう。

(川尻佳司、2023/5/10)

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