『はじめてのやさしい短歌のつくりかた』横山未来子(読書#22)

はじめてのやさしい短歌のつくりかた

ポイント① わかりやすい構成だから初心者におすすめ
和歌と短歌の違いはなんでしょうか。俳句と短歌の違いはなんでしょうか。本書はそんな、基本中の基本からじっくり解説。若手&女性である著者の解説は、ていねいでやさしく、安心して読むことができます。また、文語文法やオノマトペ、リズムの工夫……メソッドだけレクチャーされてしまうとつい、頭もこんがらがってしまいがち。そこでメソッドひとつひとつに実例としてプロの作品を掲載。プロがどこをどんなふうに工夫して作品をブラッシュアップしているかがわかるので、短歌ならではのテクニックを自作に取り入れやすくなります。

ポイント② 添削例があるからポイントが目で見てわかる
本書では、テクニックを、実例を交えて解説するだけでなく添削できちんとおさらいしています。原作と添削例では一見、どこをどう考えて工夫し、何が変わっているのかわからないかもしれません。ところが解説を読んでみると、プロがどんなふうに技巧を重ねているのかわかるはず。実際のプロの嗜好や推敲のプロセスが目で見てわかるので、「わかっていてもなかなか自分の作品で使うまでにならない」という人も、テクニックに使い方を実感、すんなり理解できることでしょう。

ポイント③ 古今の名歌も味わえる
たくさん紹介している実例はプロによる作品で、いずれも古今の名歌ばかり。ジャンルにこだわらず、短歌の世界のみならず世に広く知れ渡っている人の作品が並んでいます。推敲を重ね、才能あふれる先人たちの作品は味わうだけでも楽しいものです。のみならず、各作品の味わいどころや、つくる上でのポイントも、プロである著者が解説。どんなテクニックがあるのかわかって実例を見てみると、どの作品も驚くほどの技巧と洗練が重ねられていることがわかります。あなた好みの作品を見つければ、作者の歌集を読んでみたり、つくりかたを真似てみたりして、自作のレベルアップにもつながることでしょう。

ポイント④ 短歌のジャンルや、毎日楽しむためのアドバイスも
現代短歌やニューウェーブ短歌。寺山修司や穂村弘、俵万智。ちょっと短歌のことを調べてみると、今どきの短歌事情や、いろんな短歌・有名な歌人のいることがわかります。それぞれどう違うの?何が新しいの?どんな特徴があるの?など、短歌の入口に立った人が知りたいと情報も紹介。自分で短歌をつくる時にも、様々なジャンルや歌人の方向性や特徴を知ることは、とても役立つはずです。歌会や短歌結社といった、短歌を通していろんな人と交流したり、レベルアップをはかるための方法も紹介し、まさに「短歌をはじめたい。だけどよくわからない」という人にとっては手取り足取りの一冊になっているのです。

上記のポイントはAmazonの解説の引用です。短歌について勉強しようと思って、初めて手にとった本ですが、タイトル通りに「はじめての」人向けで、「やさしい」書き方がされていて、とてもわかりやすかったです。初心者が陥りがちな「コマーシャル」みたいな言葉は何文字に数えていいの?みたいな疑問から、名歌の鑑賞、さいごの添削例まで「おおっ! なるほどっ!」と思わされっぱなしの、いい本でした。

短歌に興味がなくても、その言葉選びの技術は、小説を書くことにも必ず役に立つと思います。
以下、添削例の部分をいくつか引用してみます。

原作 母からの短きメール返信を打たず電話で声を聞けり

添削例 母からの短きメール返信を打たず通話のボタンを押しつ

解説 「電話で声を聞けり」は状況の説明になっていますので、メールではなく電話で話そうとしている場面を描いてみましょう。携帯電話にクローズアップして、「通話のボタンを押しつ」としてみます。

小説では説明的でも伝わってしまいますが、クローズアップして描写することによって「パっ」と映像的に伝わるのはこういったさりげない言葉の使い方だと思います。

原作 駅前の花屋に季節めぐり来てきみなき春にすみれは揺るる

添削例 駅前の花屋に色のあふれゐてきみなき春にすみれは揺るる

解説 「季節めぐり来て」はよく目にする表現ですし、「季節」と「春」で意味が重複している感じがします。「色のあふれゐて」として、視覚の情報を入れてみました。花屋にカラフルな花が増えたことで春になったようすがわかります。

解説に「ふむふむ、ほんとうにそうだ」。ありがちな表現を避けるって大切だなと思いました。難しい用語や慣用句をつかうことが、けっして巧い文章ではないと思います。

原作 前髪を切り揃えたる瞬間に期待している一つの変化

添削例 前髪を切り揃えゆく音聞きてに期待している一つの変化 

解説 「期待している」という表現には、「瞬間」よりもうすこし長い時間のほうが合うように思います。美容院での場面だと思いますので、「前髪切り揃えゆく音聞きて」としてみました。はさみの音を感じさせることによって臨場感が出ると思います。

言葉に対する時間の感覚。意味だけでなく、その言葉のもつ雰囲気をつかむことも大事だと思いました。

いかがでしょうか?

小説のような長い文章を書いていると、全体の構成のような大きいところばかり目がいってしまいがちですが、センテンスレベルでの表現に気をつかうことで、伝わるものが大きく違うと思います。

他にも短歌関係のいい本がありましたので、順次ご紹介していきたいと思っています。

緋片イルカ 2020/05/31

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