映画館にて上映中の作品ですが、ストーリーの核心について触れている箇所がございます。ご了承の上、お読み下さい。
「好き」4 「作品」4 「脚本」4
『スリー・ビルボード』と連日で見て感じた監督の特徴、クセ、印象、作品の感想。
・プロットアークは得意だが、キャラクターアークが描けない作家。
・セリフやシーン単位でのキャラクー描写も力はあるがアークになっていない。リアクションばかり。
・サブプロットでの誤魔化しが必要になっている。
・変化をつくるために、大げさなエピソードが必要になっている。
・シーン作り方、展開が『スリー・ビルボード』と比べるだけでもかぶっている（＝キャラクターアークではないから個性的なシーンになっていない）。
・面白いが、感情が動かされないのはキャラクターアークがないから。
・アークがないまま説明的なシーンが挟み込まれるので、ＢＧＭでの誤魔化しも多い
・『スリー・ビルボード』はまだ題材がシリアスなので、アークのなさが気にならずに見られたが、今作は作り手が意図していないだろうコメディのようになってしまっている。
・スリー・ビルボードの看板、今作の「急に友達に嫌われる」というシチュエーションなど、お話のネタを見つけるのはうまい。
・プロットアーク的な辻褄合わせの処理も、抜群に上手いと思う。褒め言葉といえるか不明だが。
・カタリストから入る展開がいかにもプロット優位的だが、結局、キャラクターのセットアップが足りないので、中盤ぐらいから退屈してくる。
・アカデミー作品賞はないだろうな～という印象。他作品を見ていないので比較できないが。
・犬が可愛かった。
・ＡＤＨＤっぽい役の演技も良かった。
・ショットや演出には、強い個性は見られない。むしろ、自信のなさともとれるような説明的なシーンとか、初心者的なテクニックも見受けられる。
・戦争まで使って分断と対話をテーマに示唆しながら、誠実に向き合っていない。ストーリーを片付けただけで、それを解釈しろというのはストーリーテラーとして無責任。
緋片イルカ 2023.2.8
戦争における分断とは関連性が感じられなかったという点は多いに同感で、とってつけたように感じました。批評家がそう言ってるだけで、監督はそんなこと言いたいわけではなく、本土で起きている政治規模の争いに対して、そんなこと関係なくこの狭い世界での個人単位の小さな争い、みたいに見る方がしっくりきました。
ただこのプロットで企画を成立させたことには称賛を送りたい気がします。彼の監督としてのキャリアにより実現できた部分もあるでしょうし、この作品がノミネートするアカデミー賞も捨てたものじゃないなと思いました。（そこは内戦を匂わせた上手さもあるかな）
芝居や美術や衣裳など、ビジュアル的な世界観の完成度には信頼のおける監督だと感じています。個人的には、逃げずに‘Nice’でいられることの難しさというテーマに共感するところも大きかったです。「好き」5 「作品」4 「脚本」4。