脚本作法18:長いセリフをト書きで割ること

「ライターズルーム」であった「お悩み」に答えていきます。

先に「お悩み」を引用させていただきます。

「長台詞の合間にト書きを挟むようにしてるのですが、そこに書くト書きのイメージがよく分かりません。話している本人の動きや相手の様子を書いたのですが…
今回の2稿で、ト書きを挟むことで読みにくくなっている気もしました…多分、ト書きの書き方が悪いんだと思います。」

これを受けて、米俵さんの『サプライズ』(修正稿)の中から「長いセリフ」を「ト書き」で割っている箇所をすべて抜き出してみます。(※脚本全文はフィードバックが集まり次第、記事にします)

●3ページ
千賀子「これ見た後ね、ちゃんと調べたんだよ」
武、驚いた顔で千賀子を見る。
千賀子「上原仁美さん、200万円。高杉愛さん、500万円。波多野早紀さん、320万円。加藤恵美さ――」

ト書きにしている内容(武が驚いたという内容)とタイミングは良いと思います。千賀子「ちゃんと調べたんだよ」というセリフを受けて、武がどれだけドキッとしたか? 真剣にキャラクターの気持ちになって考えているでしょうか? それが「驚いた顔で千賀子を見る」という表現では物足りない印象を受けます。ちなみに武の顔のアップなら「千賀子を見る」はいりません。武の感情がわかる動作を的確な文章で書けると、より効果的なト書きになると思います。

●4ページ
千賀子「とりあえず、あっちにいかない?」
ソファーの方を見る。 
千賀子「この体勢じゃ、私が虐めてるみたいでしょ」
と楽しそうに言いながら、ソファーへ誘導する。

僕がセリフの目安として「2行以内で」とよく言うのですが、それを受けて「ソファーの方を見る」というト書きを入れることで、2行だったものを強引に1行になるように割ったような印象を受けます。無意味に割っても、本質的には何も変わりません(映像にすればほぼ同じで、読みづらくなっただけ)。「2行以内」というのはルールではなく「2行以上いくようなセリフはムダなことを言っている可能性が高いので注意してくださいね?」という目安です。もちろん必要なセリフであれば3行でも4行でも喋らせて構いません。「2行以内」を意識していること自体はとても良いので、ト書きで割って誤魔化す処理をしようとするのでなく、本質的に必要なセリフかどうかを考えるという方向に意識を向けてください。必要なセリフかどうかの判断は「真剣にキャラクターの気持ちになること」や「映像的に考えること」などで分かってきます。ちなみに「あっち」=ソファーであると説明するためのショットとして入れたのなら「ソファーへ誘導する」ですぐにわかるので不要だと感じます。

●4ページ
千賀子「調べたら、詐欺で……でも、考えてみたら、私はお金取られたことないなって」
千賀子、左手に輝く指輪を愛しそうに眺めながら、
千賀子「もしかして、私のためにやってくれてたのっかなって」

「愛おしそうに」と次のセリフ「私のため」の感情が繋がっている良いト書きです。直しの一例を示すと、

千賀子「調べたら、詐欺で……でも、もしかしたら……」
左手の指輪を愛しそうに眺めながら、
千賀子「私のためにやってくれてたのっかなって」

と、感情に合わせればスムーズに流れます。「考えてみたら、私はお金取られたことないなって」は別にいらない情報では? どうしても言いたいとしても、、

千賀子「調べたら、詐欺で……でも、考えてみたら、私はお金取られたことないし、もしかして……」
左手の指輪を愛しそうに眺めながら、
千賀子「私のためにやってくれてたのっかなって」

など、ト書きで切るタイミングを工夫するだけで滑らかになります。セリフとト書きを感情の流れにのせてください。

●5ページ
千賀子「もちろん、努力もしてるよ。おばさんに見える人って肩にお肉がついてるんだって」
千賀子、自分の肩を撫でる。
千賀子「顔だけいじる人に違和感を感じるのは、そのせいだって聞いたから、トレーニングしてるよ」
服を少しあげて、膝を見せて、
千賀子「あっ、あとね、膝も……」
手の甲(両手)を見せて、
千賀子「手にも年齢が出ちゃうから気を付けてるしー」
左手の指輪が輝く。
千賀子「首とデコルテもね。結構大変なんだから」
首とデコルテを武に触らせる。

ト書きとセリフが交互に入り、一見すると動きがあるようにも見えますが、意外性もなく、あまり効果的なシーンに感じられません。千賀子が若作りのための努力をアピールしている一連の流れですが、このタイミングで「左手の指輪が輝く」ことは若作りアピールとは関係ありません。千賀子がどんな気持ちで、武に何を伝えたくて、アピールしているのかを踏まえれば表現が変わってくると思います。武のリアクションも入ってくるでしょう。

書き方として、一連のセリフをひとつにまとめて、

千賀子、自分の体をアピールしながら、
千賀子「もちろん、努力もしてるよ。おばさんに見える人って肩にお肉がついてるんだって。顔だけいじる人に違和感を感じるのは、そのせいだって聞いたから、トレーニングしてるよ。あっ、あとね、膝も……手にも年齢が出ちゃうから気を付けてるしー首とデコルテもね。結構大変なんだから」

と、動作は演出に任せる書き方もありえると思いますが、そもそもこの内容が本当に必要なのか? 効果的なのか? などを考えることが先だと思います。

●5ページ
千賀子「この服もこの部屋もパパが買ってくれたし、バッグもインテリアもほとんどパパからのプレゼントだよ」
千賀子、部屋を見渡しながら、
千賀子「私が買ったのはね……」
IKEAの白いシンプルな時計を手に取り、
千賀子「この時計ぐらいかな」
武  「このソファーも?」
千賀子「もちろん。こんな高級ソファー、私の仕事じゃ買えないでしょ」

「部屋を見渡しながら」は入力位置のミスかと思います。「部屋を見渡しながら、」→千賀子「この服もこの部屋も~」でしょう。
2つ目の「時計のト書き」は書き方自体は問題ない印象ですが、「買ったのはね……」と意味深に溜めてまで伝える情報ではない印象を受けます。変な溜めが「ん? 意味がある?」と感じさせてしまいます。ギャグにつなげたり、千賀子の性格を出せるせっかくのチャンスでもあるので、意味を込めて溜めたなら、もっと伝わるように書いてほしいところです。「IKEAの時計」がベストな小道具でしょうか? キャラクターの気持ちということでは、武は「ソファー」より「この部屋」まで買ってもらってることに驚きそうなものでは?とか、そもそも詐欺師なのに、こんな高級マンションに住んでいることに今まで全く怪しいとも思わなかったのか?とか、いろいろ疑問が沸きます。そういったことは「武の気持ちの流れ」が掴めていないことに由来します。

以上。

「お悩み」は「長台詞の合間に書くト書きのイメージが分からない」ということでした。

「ト書きの書き方が悪いんだと思います」とも仰っていましたが、原因は「書き方」という表面的なことではなく、「キャラクターの感情の動きを掴めていない」という本質的なことからきていると思います。

キャラクターたちの性格や感情の流れを掴んでいない。

そのタイミングで、キャラクターがどういう言動をするか的確に掴めていない(=どんなト書きを書けばいいかイメージが分からない)、

結果、不要なト書きを入れて読みづらくもなる。

長ゼリフはただでさえ「くどい」のですから、そこに効果的でないト書きを加えれば、仰る通り「ト書きを挟むことで読みにくくなっている」のは当然です。

「真剣にキャラクターの気持ちになって書く」「映像的に考える」ということが出来るようになれば、

ムダなセリフ(=言わなくてもわかること)、必要なセリフ、的確なセリフが分かってくる。

ついでに「ページが6枚になった」ことも気にされていましたが、ムダが減れば短くなるので、これも解消すると思います。

では、どうすればキャラクターの気持ちになって書けるのか? 映像的に考えられるのか?

となると、それこそが「腕」なので、理屈で理解して、すぐに出来るようなものではありません。

画家が上手な絵を描けるようになるまでには、下手な絵をたくさん描いています。

米俵さんの脚本提出は5本目です。たった5本でキャラの感情や映像表現がすんなり表現できていたら天才的です笑

「どうすれば?」と考えすぎることより、とにかく手を動かして、たくさん書く中で分かってくることの方が多いのではないでしょうか。

ああ、それと「〆切ぎりぎりに書き上げてすぐに提出している原稿」という印象も受けました。

自分で一度、読み直してから提出するだけで、ぜんぜん変わると思います。

一日前に書き上げろとまでは言いませんが、書き上げてから一回休憩を入れて、30分後に読み直すだけでも違和感は自分で気づけると思います。

もし、きちんと読み直した上で提出していたらごめんなさいですが、読み直したのに気づけなかったとなると完全に経験不足ということになります笑

緋片イルカ 2023.8.7

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