ざっくり読書4『マズロー心理学入門: 人間性心理学の源流を求めて』中野明

【5段階欲求は知ってぐらいの人にオススメ】
マズローときいて、人間の欲求の5段階説についてきいたことがある人は多いと思います。

次元の低いものから、
・生理的欲求 (Physiological needs)
・安全の欲求 (Safety needs)
・社会的欲求 / 所属と愛の欲求 (Social needs / Love and belonging)
・承認(尊重)の欲求 (Esteem)
・自己実現の欲求 (Self-actualization)
の5段階で、低次の欲求ものが満たされると、より高次の欲求を求めるというもの。
本の中にあった例えば話がわかりやすかったので引用します。

マズローが引き合いに出した「ジャングルで暮らす人物」という挿話を紹介したいと思います。

ここに、ジャングルで暮らす人物が5名います。
まずAは、危険なジャングルで数週間暮らし、時々食べ物や飲み水を見つけては飢えをしのいでいます。
次にBです。この人物はただ生きているだけではなく、ライフル銃を持ち、中から閉められる扉のついた洞穴の隠れ家で暮らしています。
3番目のCは右記のものを全て持つとともに、一緒に暮らす2人の男がいました。
さらに4番目のDは食べ物や隠れ家のほかに、親友と一緒に暮らしています。
そして最後のEです。この人物は右に掲げたものをすべて 持ち、しかも彼は集団のリーダーとして皆から広く尊敬されています。

いかがでしょう。もうおわかりのように、このジャングルで暮らす5人の人物A〜Eは、マズローが指摘する欲求の階層のそれぞれのレベルで生きていることがわかります。

また、欲求の満足度についての言及もありました。

下位の欲求が100%満足されなければ、次の欲求が生じないわけではありません。

マズローは、一般的な人間について基本的欲求の満足度について、独断であてはめた数字を示しています。これによると、一般的な人間では、生理的欲求が85%、安全の欲求が70%、所属と愛の欲求が50%、承認の欲求が40%、自己実現の欲求が10%、このようにそれぞれが満たされていると見立てています。

なるほど、なんとなくで知ったかになっていた5段階欲求ですが、きちんと読むと細かいことが書いてあるんですね。
でも5段階目の自己実現というのは少しわかりづらいですね。

【自己実現と至高体験とは?】

自己実現者が追求する「課題=本質的価値」とは何なのか──。マズローはこの価値について代表的なものを突き止めています。マズローはこれを「Being(存在)価値」略して「B価値」と呼びました。

B価値は全部で14種類あります。次のとおりです。
真、善、美、全(二分の超越)、生気、独自性、完全(必然性)、完結、正義、簡素、豊かさ、無努力、遊戯性、自足性

つまりは自分の価値観に従って生きる人のことです。
その価値観は1つではなく、しかし、なんでも良いわけではない。上の14こに相当するような価値観に従う人だそうです。

さらに自己実現をした人の中には2種類の分類があるそうです。

自己実現者には至高経験(これもマズロー心理学の重要なキーワードです)を頻繁に体験する者とそうでない者がいると指摘した上で、前者を超越的な自己実現者、後者を超越的でない自己実現者というように、自己実現者を二分割しました。

私は最近自己実現する人びとを二種類(いや等級といった方がよいかもしれないが)に区分した方がはるかに好都合であると考えるようになった。すなわち、一つは、明らかに健康であるが、超越経験をほとんどあるいはまったくもた ない人びとと、他は、超越経験が大へん重要であり、その中心にさえなっている人びとである。
アブラハム・マズロー『人間性の最高価値』

 マズローの文章にある「超越経験」とは「至高経験」と考えてよいでしょう。

マズローは80名の人々に対する個人面接や大学生に対するアンケートを用いて至高経験について調査しました。次に示すのはその際のアンケートに書かれた質問です。
あなたの生涯のうちで、最も素晴らしい経験について考えてほしいのです。おそらく、恋愛にひたっている間や、音楽を聴いていて、あるいは書物や絵画によって突然『感動』を受けたり、偉大な創造の場合に経験する最も幸福であった瞬間、恍惚感の瞬間、有頂天の瞬間について考えてほしいのです。はじめこれらを挙げて下さい。それから、このような激しい瞬間に、あなたはどう感ずるか、ほかのときにあなたあなたが感ずるのとは違っているか、あなたはそのとき、なにか違った人になるかどうかを話して下さい。アブラハム・マズロー『完全なる人間』以上の調査から、「至高経験の最も簡潔な説明として、注意を完全に保持するに足るような興味深い事柄に魅惑せられ、熱中し夢中になること」(『人間性の最高価値』)
と指摘した

【経営学に興味のある人にも?】

マズローが自己実現者だけによる理想社会「ユーサイキア」について語った事実もあまり知られていません。ユーサイキアとは、社会にシナジーの考え方を適用し、シナジーのレベルが極めて高い社会を指したものです。

マズローの言うユーサイキアとは何なのか。(中略)以下に記すのは、マズローの各著作におけるユーサイキアの定義です。

すべての人が心理学的に健康であるような心理学的なユートピアの状態、これをユーサイキアと呼ぶ。
アブラハム・マズロー『人間性の心理学』

成員の基本的欲求が満たされ、自己実現が達成されるような理想社会のこと。
アブラハム・マズロー『完全なる人間』

千人の自己実現者が外部からいっさい干渉を受けない島に暮らした場合に生まれる文化と定義した。
アブラハム・マズロー『完全なる経営』

心理学的に健康で、成熟した、あるいは、自己実現する人びととその家族のみから構成されているのである。
アブラハム・マズロー『人間性の最高価値』

要するに、世の中が自己実現者ばかりで、その際に実現するであろう理想の文化や社会、それがユーサイキアだと理解できます。ユーサイキアはマズローの造語で、日本語訳は非常に困難です。

シナジーというのは相乗効果という意味。自己実現を目指す人は自分のためだけでなく他人や社会のために働くそうです。
その考えはドラッカーなどとも通じる点もあるそうです。
その点はで、後半は経営学に興味のある方にもオススメです。

【書籍紹介】
 マズローの執筆スタイルは、経験した事実を次々と列挙する現象学的手法を採用しています。これに加えて、マスローの著作が論文や講演原稿の編纂であることも、原典を通読する障害になっています。本書では、入門者が陥るこのような障害を回避しつつ、マズローの人と思想を手軽かつより深く理解できるようにしました。
(Amazon商品紹介より)

マズロー心理学入門: 人間性心理学の源流を求めて (FLoW ePublication)

書籍版もありますがKindle版はprime会員だと無料で読めるのでオススメです。

緋片イルカ2019/05/18

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