ざっくり読書6④『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマの作用「持続」と「修復」)

全6回に渡ってスキーマ療法の理論部分を引用してまとめていきます。

ざっくり読書6①『スキーマ療法入門』伊藤絵美(生得的気質について)

ざっくり読書6②『スキーマ療法入門』伊藤絵美(中核的感情欲求と5つのスキーマ領域について)

ざっくり読書6③『スキーマ療法入門』伊藤絵美(18の早期不適応的スキーマ)

ざっくり読書6④『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマの作用「持続」と「修復」)

ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)

ざっくり読書6⑥『スキーマ療法入門』伊藤絵美(スキーマモード)

今回は物語を描く上でとてもキーとなる考えになるスキーマの「持続」と「修復」についてです。

ヤングは早期不適応的スキーマの作用として、「スキーマの持続(schema perpetuation)」と「スキーマの修復(schema healing)」の2つを挙げている。スキーマに関わる全ての認知、感情、身体反応、行動、対人関係、生活体験は、結果的にスキーマを持続させる(スキーマを強化したり精緻化したりする)場合もあれば、スキーマを修復する(スキーマを弱める)場合もある。

スキーマを修復するというのは物語論で言えば「変化」にあたります。主人公が成長変化するビルドゥングスロマンでは、物語の序盤(アクト1)では主人公は問題を抱えています。それは言い替えるなら「不適応的スキーマを持続している状態です。

スキーマ療法を行うか、スキーマの反証となるような大きな出来事が起きない限り、スキーマはその性質上、持続することになる。なぜなら人は、自分の体験の一貫性を保つために、スキーマに沿って物事を解釈したり体験したりする傾向を強く持つからである。ヤングが「スキーマは自己同一性感覚の中心にある」と述べている

この「スキーマの反証となるような大きな出来事」こそ「プロットポイント1」で主人公が入る非日常の世界です。今までのスキーマが通じない世界に入り、葛藤することで主人公が変化していきます。

しかし、実際には、その人の早期不適応的スキーマが強固でであればあるほど、その人はそのスキーマを通じてしか情報を処理できないし、他者から見ればそのスキーマの反証となるような出来事であっても、その人自身には反証とならないことがほとんどである

物語の主人公は変化します。これは数ある物語論のセオリーのようになっていますが「人間は本当に変われるのか?」というのは、キャラクターを描く上で作者が肝に銘じるべき問いかけだと思います。また以下のスキーマ療法の目的は、物語作者がアクト2で描くべき変化について書かれていると読み解くこともできます。

スキーマ療法の目的は、「スキーマの修復」そのものである。自らの早期不適応的スキーマを理解し、満たされなかった中核的感情欲求が治療を通じてある程度満たされ、早期不適応的スキーマが緩和され、新たな適応的スキーマを手に入れ、というプロセスそのものが「スキーマの修復」である。スキーマが修復されればされるほど、そのスキーマは活性化されにくくなり、またたとえ活性化されたとしてもダメージを受けにくくなっていく。
ただし早期不適応的スキーマは、相当に強固で、感情や身体反応を巻き込むべきものであるので、それが完全に修復されることはないとヤングは述べている。したがってスキーマ療法が目指すのは、自分を生きづらくさせる早期不適応的スキーマを理解したうえで、できる範囲でそれらのスキーマを緩和すると同時に、それらのスキーマとどううまくつき合っていくか、ということになる。これが現実的に達成可能な、「スキーマの修復」ということになるだろう。

スキーマ療法には物語創作の重要なコアである、キャラクター(人間)についてのヒントがたくさん転がっています。

緋片イルカ 2019/08/22

次回は……ざっくり読書6⑤『スキーマ療法入門』伊藤絵美(コーピングスタイルとコーピング反応)

●書籍紹介
スキーマ療法入門 理論と事例で学ぶスキーマ療法の基礎と応用
伊藤絵美が書き下ろす渾身の入門書。本書を通して、伊藤絵美と共に学び、実践する仲間になる。スキーマ療法とは,米国の臨床心理学者ジェフリー・ヤングが提唱した認知行動療法(CBT)の発展型である。認知の中でもより深いレベルにあるスキーマ(認知構造)に焦点を当て,CBTを中心に力動的アプローチほか非常に統合的な心理療法を組み合わせてスキーマ療法を成した。本書は入門テキストと事例集の二部構成となっており、特に日本でスキーマ療法を習得し,治療や援助に使いたいという方に向けて書かれた待望の書である。(Amazon商品紹介より)

専門書ですがスキーマ療法の提唱者ヤング自身の本はこちらです。
スキーマ療法―パーソナリティの問題に対する統合的認知行動療法アプローチ
スキーマは,その人の認知や長年培われてきた対処行動などを方向づける意識的・無意識的な「核」であり,〈中核信念〉とも訳される。本書は,幼少期に形成されたネガティブなスキーマに焦点を当て,その成長が健康的ではなかった境界性パーソナリティ障害や自己愛性パーソナリティ障害をはじめとするパーソナリティの問題をケアしていくスキーマ療法の全貌を述べたものである。
人には5つのスキーマ領域からなる18のスキーマがあるとされ,それぞれに際立ったコーピングやモードがあり,幼少期から周囲の環境に応じてパーソナリティを形づくる。こうして固まったパーソナリティの問題は,認知行動療法だけでなく,多くの心理療法や薬物療法でさえ,万全なケアができるとは言いがたい状況にある。スキーマ療法は,こうしたニードから生まれた統合的な認知行動療法アプローチであり,体験療法やエンプティ・チェアなどのゲシュタルト療法,精神力動的な方法といったさまざまな心理療法を加え,基礎的な心理学の知見をも加味して生まれてきたものである。
本書は,リネハンの弁証法的行動療法とともに,パーソナリティ障害をはじめとする人格の問題にアプローチする最良の方法の一つであり,理論的な入口の広さから多くの心理臨床家,精神科医,心理学者などに読んでもらいたい1冊である。(Amazon商品紹介より)

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