ほっこり朗読 江戸川乱歩『怪人二十面相』(15) 怪盗の巣くつ/少年探偵団

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イルカとウマが雑談しながら朗読しています。この作品は僕たちも初見で読んでます。この先、どうなっていくのかなど推理したりツッコミを入れたりしながら楽しんでいますので、みなさんも一緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。よかったらコメントなどで推理や感想きかせてください。

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青空文庫:江戸川乱歩『怪人二十面相』

怪盗の巣くつ

 賊の手下の美しい婦人と、乞食と、赤井寅三と、気をうしなった明智小五郎とを乗せた自動車は、さびしい町さびしい町とえらびながら、走りに走って、やがて、代々木よよぎの明治神宮めいじじんぐうを通りすぎ、暗い雑木林の中にポツンと建っている、一軒の住宅の門前にとまりました。
 それは七間か八間ぐらいの中流住宅で、門の柱には北川十郎きたがわじゅうろうという表札がかかっています。もう家中が寝てしまったのか、窓から明りもささず、さもつつましやかな家庭らしく見えるのです。
 運転手(むろんこれも賊の部下なのです)がまっ先に車をおりて、門の呼びりんをおしますと、ほどもなくカタンという音がして、門のとびらにつくってある小さなのぞき窓があき、そこに二つの大きな目玉があらわれました。門燈のあかりで、それが、ものすごく光って見えます。
「ああ、きみか、どうだ、しゅびよくいったか。」
 目玉のぬしが、ささやくような小声でたずねました。
「ウン、うまくいった。早くあけてくれ。」
 運転手が答えますと、はじめて門のとびらがギイーとひらきました。
 見ると、門の内がわには、黒い洋服を着た賊の部下が、ゆだんなく身がまえをして、立ちはだかっているのです。
 乞食と赤井寅三とが、グッタリとなった明智探偵のからだをかかえ、美しい婦人がそれを助けるようにして、門内に消えると、とびらはまたもとのようにピッタリとしめられました。
 ひとりのこった運転手は、からになった自動車にとびのりました。そして、車は、矢のように走りだし、たちまち見えなくなってしまいました。どこか別のところに賊の車庫があるのでしょう。
 門内では、明智をかかえた三人の部下が、玄関のこうし戸の前に立ちますと、いきなり軒の電燈が、パッと点火されました。目もくらむような明るい電燈です。
 この家へはじめての赤井寅三は、あまりの明るさに、ギョッとしましたが、彼をびっくりさせたのは、そればかりではありませんでした。
 電燈がついたかと思うと、こんどは、どこからともなく、大きな人の声が聞こえてきました。だれもいないのに、声だけがお化けみたいに、空中からひびいてきたのです。
「ひとり人数がふえたようだな。そいつはいったい、だれだ。」
 どうも人間の声とは思われないような、へんてこなひびきです。
 新米しんまいの赤井はうすきみ悪そうに、キョロキョロあたりを見まわしています。
 すると、乞食に化けた部下が、ツカツカと玄関の柱のそばへ近づいて、その柱のある部分に口をつけるようにして、
「新しい味方です。明智に深いうらみを持っている男です。じゅうぶん信用していいのです。」
と、ひとりごとをしゃべりました。まるで電話でもかけているようです。
「そうか、それなら、はいってもよろしい。」
 またへんな声がひびくと、まるで自動装置のように、こうし戸が音もなくひらきました。
「ハハハ……、おどろいたかい。今のは奥にいる首領と話をしたんだよ。人目につかないように、この柱のかげに拡声器かくせいきとマイクロホンがとりつけてあるんだ。首領は用心ぶかい人だからね。」
 乞食に化けた部下が教えてくれました。
「だけど、おれがここにいるってことが、どうして知れたんだろう。」
 赤井は、まだふしんがはれません。
「ウン、それも今にわかるよ。」
 相手はとりあわないで、明智をかかえて、グングン家の中へはいって行きます。しぜん赤井もあとにしたがわぬわけにはいきません。
 玄関の間には、またひとりのくっきょうな男が、かたをいからして立ちはだかっていましたが、一同を見ると、にこにこしてうなずいてみせました。
 ふすまをひらいて、廊下へ出て、いちばん奥まった部屋へたどりつきましたが、みょうなことに、そこはガランとした十畳の空部屋で、首領の姿はどこにも見えません。
 乞食が何か、あごをしゃくってさしずをしますと、美しい女の部下が、ツカツカと床の間に近より、床柱の裏に手をかけて、何かしました。
 すると、どうでしょう。ガタンと、おもおもしい音がしたかと思うと、座敷のまんなかの畳が一枚、スーッと下へ落ちていって、あとに長方形のまっくらな穴があいたではありませんか。
「さあ、ここのはしご段をおりるんだ。」
 いわれて、穴の中をのぞきますと、いかにもりっぱな木の階段がついています。
 ああ、なんという用心ぶかさでしょう。表門の関所、玄関の関所、その二つを通りこしても、この畳のがんどう返しを知らぬ者には、首領がどこにいるのやら、まったく見当もつかないわけです。
「なにをぼんやりしているんだ。早くおりるんだよ。」
 明智のからだを三人がかりでかかえながら、一同が階段をおりきると、頭の上で、ギーッと音がして畳の穴はもとのとおりふたをされてしまいました。じつにゆきとどいた機械じかけではありませんか。
 地下室におりても、まだそこが首領の部屋ではありません。うす暗い電燈の光をたよりに、コンクリートの廊下を少し行くと、がんじょうな鉄の扉が行く手をさえぎっているのです。
 乞食に化けた男が、その扉を、妙なちょうしでトントントン、トントンとたたきました。すると、重い鉄の扉が内部から開かれて、パッと目を射いる電燈の光、まばゆいばかりに飾りつけられたりっぱな洋室、その正面の大きな安楽イスにこしかけて、にこにこ笑っている三十歳ほどの洋服紳士が、二十面相その人でありました。これが、素顔すがおかどうかはわかりませんけれど、頭の毛をきれいにちぢれさせた、ひげのない好男子です。
「よくやった。よくやった。きみたちのはたらきはわすれないよ。」
 首領は、大敵明智小五郎をとりこにしたことが、もう、うれしくてたまらないようすです。むりもありません。明智さえ、こうしてとじこめておけば、日本中におそろしい相手はひとりもいなくなるわけですからね。
 かわいそうな明智探偵は、ぐるぐる巻きにしばられたまま、そこの床の上にころがされました。赤井寅三は、ころがしただけではたりないとみえて、気をうしなっている明智の頭を、足で二度も三度もけとばしさえしました。
「ああ、きみは、よくよくそいつにうらみがあるんだね。それでこそぼくの味方だ。だが、もうよしたまえ。敵はいたわるものだ、それに、この男は日本にたったひとりしかいない名探偵なんだからね。そんなに乱暴にしないで、なわをといて、そちらの長イスにねかしてやりたまえ。」
 さすがに首領二十面相は、とりこをあつかうすべを知っていました。
 そこで、部下たちは、命じられたとおり、なわをといて、明智探偵をイスに寝かせましたが、まだ薬がさめぬのか、探偵はグッタリしたまま、正体もありません。
 乞食に化けた男は、明智探偵誘かいのしだいと、赤井寅三を味方にひきいれた理由を、くわしく報告しました。
「ウン、よくやった。赤井君は、なかなか役にたちそうな人物だ。それに、明智に深いうらみを持っているのが何より気にいったよ。」
 二十面相は、名探偵をとりこにしたうれしさに、何もかも上きげんです。
 そこで赤井はあらためて、弟子入りのおごそかな誓いをたてさせられましたが、それがすむと、この浮浪人はさいぜんから、ふしぎでたまらなかったことを、さっそくたずねたものです。
「このうちのしかけにはおどろきましたぜ。これなら警察なんかこわくないはずですねえ。だが、どうもまだふにおちねえことがある。さっき玄関へきたばっかりの時に、どうして、おかしらにあっしの姿が見えたんですかい。」
「ハハハ……、それかい。それはね。ほら、ここをのぞいてみたまえ。」
 首領は天井の一隅ぐうからさがっているストーブのえんとつみたいな物を指さしました。
 のぞいてみよといわれるものですから、赤井はそこへ行って、えんとつの下のはしがかぎの手に曲がっている筒口へ、目をあててみました。
 すると、これはどうでしょう。その筒の中に、この家の玄関から門にかけての景色が、かわいらしく縮小されて写っているではありませんか。さいぜんの門番の男が、忠実に門の内がわに立っているのもハッキリ見えます。
「潜水艦せんすいかんに使う潜望鏡せんぼうきょうと同じしかけなんだよ。あれよりも、もっと複雑に折れまがっているけれどね。」
 どうりで、あんなに光のつよい電燈が必要だったのです。
「だが、きみが今まで見たのは、この家の機械じかけの半分にもたりないのだよ。その中には、ぼくのほかはだれも知らないしかけもある。なにしろ、これがぼくのほんとうの根城ねじろだからね。ここのほかにも、いくつかのかくれががあるけれど、それらは、敵をあざむくほんの仮住まいにすぎないのさ。」
 すると、いつか小林少年が苦しめられた戸山ヶ原のあばらやも、そのかりのかくれがの一軒だったのでしょうか。
「いずれきみにも見せるがね、この奥にぼくの美術室があるんだよ。」
 二十面相は、あいかわらず上きげんで、しゃべりすぎるほどしゃべるのです。見れば彼の安楽イスのうしろに、大銀行の金庫のような、複雑な機械じかけの大きな鉄のとびらが、げんじゅうにしめきってあります。
「この奥にいくつも部屋があるんだよ。ハハハ……、おどろいているね。この地下室は、地面に建っている家よりもずっと広いのさ。そして、その部屋部屋に、ぼくの生涯しょうがいの戦利品せんりひんが、ちゃんと分類して陳列してあるってわけだよ。そのうち見せてあげるよ。
 まだ何も陳列していない、からっぽの部屋もある。そこへはね、ごく近日どっさり国宝がはいることになっているんだ。きみも新聞で読んでいるだろう。例の国立博物館のたくさんの宝物さ。ハハハ……。」
 もう明智という大敵をのぞいてしまったのだから、それらの美術品は手に入れたも同然だとばかり、二十面相はさも心地ここちよげに、カラカラとうち笑うのでした。

少年探偵団

 翌朝になっても明智探偵が帰宅しないものですから、るす宅は大さわぎになりました。
 探偵が同伴して出かけた、事件依頼者の婦人の住所がひかえてありましたので、そこをしらべますと、そんな婦人なんか住んでいないことがわかりました。さては二十面相のしわざであったかと、人々は、はじめてそこへ気がついたのです。
 各新聞の夕刊は、「名探偵明智小五郎氏誘かいさる」という大見出しで、明智の写真をおおきく入れて、この椿事ちんじをデカデカと書きたて、ラジオもこれをくわしく報道しました。
「ああ、たのみに思うわれらの名探偵は、賊のとりこになった。博物館があぶない。」
 一千万の都民は、わがことのようにくやしがり、そこでもここでも、人さえ集まれば、もう、この事件のうわさばかり、全都の空が、なんともいえない陰うつな、不安の黒雲におおわれたように、感じないではいられませんでした。
 しかし、名探偵の誘かいを、世界中でいちばんざんねんに思ったのは、探偵の少年助手小林芳雄君でした。
 一晩待ちあかして朝になっても、また、一日むなしく待って、夜がきても、先生はお帰りになりません。警察では二十面相に誘かいされたのだといいますし、新聞やラジオまでそのとおりに報道するものですから、先生の身のうえが心配なばかりでなく、名探偵の名誉のために、くやしくって、くやしくって、たまらないのです。
 そのうえ、小林君は自分の心配のほかに、先生の奥さんをなぐさめなければなりませんでした。さすが明智探偵の夫人ほどあって、涙を見せるようなことはなさいませんでしたが、不安にたえぬ青ざめた顔に、わざと笑顔をつくっていらっしゃるようすを見ますと、お気のどくで、じっとしていられないのです。
「奥さん大じょうぶですよ。先生が賊のとりこなんかになるもんですか。きっと先生には、ぼくたちの知らない、何か深い計略けいりゃくがあるのですよ。それでこんなにお帰りがおくれるんですよ。」
 小林君は、そんなふうにいって、しきりと明智夫人をなぐさめましたが、しかし、べつに自信があるわけではなく、しゃべっているうちに、自分のほうでも不安がこみあげてきて、ことばもとぎれがちになるのでした。
 名探偵助手の小林君も、こんどばかりは、手も足も出ないのです。二十面相のかくれがを知る手がかりはまったくありません。
 おとといは、賊の部下が紙芝居屋に化けて、ようすをさぐりに来ていたが、もしやきょうもあやしい人物が、そのへんをうろうろしていないかしら。そうすれば、賊の住み家をさぐる手だてもあるんだがと、一縷いちるの望みに、たびたび二階へあがって表通りを見まわしても、それらしい者の影さえしません。賊のほうでは、誘かいの目的をはたしてしまったのですから、もうそういうことをする必要がないのでしょう。
 そんなふうにして、不安の第二夜も明けて、三日めの朝のことでした。
 その日はちょうど日曜日だったのですが、明智夫人と小林少年が、さびしい朝食を終わったところへ、玄関へ鉄砲玉のようにとびこんできた少年がありました。
「ごめんください。小林君いますか。ぼく羽柴です。」
 すきとおった子どもの叫び声に、おどろいて出てみますと、おお、そこには、ひさしぶりの羽柴壮二少年が、かわいらしい顔をまっかに上気させて、息をきらして立っていました。よっぽど大急ぎで走ってきたものとみえます。
 読者諸君はよもやおわすれではありますまい。この少年こそ、いつか自宅の庭園にわなをしかけて、二十面相を手ひどい目にあわせた、あの大実業家羽柴壮太郎氏のむすこさんです。
「オヤ、壮二君ですか。よく来ましたね。サア、おあがりなさい。」
 小林君は自分より二つばかり年下の壮二君を、弟かなんぞのようにいたわって、応接室へみちびきました。
「で、なんかきゅうな用事でもあるんですか。」
 たずねますと、壮二少年は、おとなのような口調で、こんなことをいうのでした。
「明智先生、たいへんでしたね。まだゆくえがわからないのでしょう。それについてね、ぼく少し相談があるんです。
 あのね、いつかの事件のときから、ぼく、きみを崇拝しちゃったんです。そしてね、ぼくもきみのようになりたいと思ったんです。それから、きみのはたらきのことを、学校でみんなに話したら、ぼくと同じ考えのものが十人も集まっちゃったんです。
 それで、みんなで、少年探偵団っていう会をつくっているんです。むろん学校の勉強やなんかのじゃまにならないようにですよ。ぼくのおとうさんも、学校さえなまけなければ、まあいいって許してくだすったんです。
 きょうは日曜でしょう。だもんだから、ぼくみんなを連れて、きみんちへおみまいに来たんです。そしてね、みんなはね、きみのさしずを受けて、ぼくたち少年探偵団の力で、明智先生のゆくえをさがそうじゃないかって言ってるんです。」
 ひと息にそれだけ言ってしまうと、壮二君はかわいい目で、小林少年をにらみつけるようにして、返事を待つのでした。
「ありがとう。」
 小林君は、なんだか涙が出そうになるのを、やっとがまんして、ギュッと壮二君の手をにぎりました。
「きみたちのことを明智先生がお聞きになったら、どんなにお喜びになるかもしれないですよ。ええ、きみたちの探偵団でぼくをたすけてください。みんなで何か手がかりをさがしだしましょう。
 けれどね、きみたちはぼくとちがうんだから、危険なことはやらせませんよ。もしものことがあると、みんなのおとうさんやおかあさんに申しわけないですからね。
 しかし、ぼくが今考えているのは、ちっとも危険のない探偵方法です。きみ、『聞きこみ』っての知ってますか。いろんな人の話をきいてまわって、どんな小さなことでものがさないで、うまく手がかりをつかむ探偵方法なんです。
 なまじっか、おとななんかより、子どものほうがすばしっこいし、相手がゆだんするから、きっとうまくいくと思いますよ。
 それにはね、おとといの晩、先生を連れだした女の人相や服装、それから自動車の行った方角もわかっているんだから、その方角に向かって、ぼくらが今の聞きこみをやればいいんですよ。
 店の小僧さんでもいいし、ご用聞きでもいいし、郵便配達さんだとか、そのへんに遊んでいる子どもなんかつかまえて、あきずに聞いてまわるんですよ。
 ここでは方角がわかっていても、先になるほど道がわかれていて、見当をつけるのがたいへんだけれど、人数が多いから大じょうぶだ。道がわかれるたびに、ひとりずつ、そのほうへ行けばいいんです。
 そうして、きょう一日聞きこみをやれば、ひょっとしたら、何か手がかりがつかめるかもしれないですよ。」
「ええ、そうしましょう。そんなことわけないや。じゃ、探偵団のみんなを門の中へ呼んでもいいですか。」
「ええ、どうぞ、ぼくもいっしょに外へ出ましょう。」
 そして、ふたりは、明智夫人のゆるしをえたうえ、ポーチのところへ出たのですが、壮二君はいきなり門の外へかけだして行ったかと思うと、まもなく、十人の探偵団員を引きつれて、門内へひきかえしてきました。
 見ると、小学校上級生ぐらいの、健康で快活な少年たちでした。
 小林君は、壮二君の紹介で、ポーチの上から、みんなにあいさつしました。そして、明智探偵捜査の手段について、こまごまとさしずをあたえました。
 むろん一同大賛成です。
「小林団長ばんざーい。」
 もうすっかり、団長に祭りあげてしまって、うれしさのあまり、そんなことをさけぶ少年さえありました。
「じゃ、これから出発しましょう。」
 そして、一同は少年団のように、足なみそろえて、明智邸の門外へ消えていくのでした。

次の回へ(2021/01/25 21時更新)

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