オリジナル小説『イマジナリーフレンド』(※受賞作品)

(※小説本文は下記にあります)

作:緋片イルカ
朗読:月城くう

mp3(13分4秒)

youtube

『イマジナリーフレンド』

「宅配ピザとったった。マジうま。給食なんか食わされてるヤツら、おつwww」
 わたしがtwitterを始めたのはさみしかったからじゃない。なんというか、暇だったし、それに、うん、ただ呟きたかったんだ。だってtweetってそういう意味でしょ? かまって欲しくて呟くのはリアルじゃない。
「録画のアニメ見終わった。やることない!」
 学校に行かなくなって二ヶ月が過ぎた。
 夏休みの終わりにクラスのほぼ全員が入ってるLINEグループで「なんかムカツク」って言われた。そしたら「俺も」とか「前から思ってた」とか、「同意!」って看板もったクマのスタンプまで連打されて、
(あ、わたしって嫌われてたんだ)
と気がついて、それから行かなくなった。
 ママには毎朝怒られるけど仕事に行くまでの我慢。一人になれば好きなもの食べられるし、一日中ネットもできる。最近は涼しくなってクーラーはつけなくなったけど。
「もう巨大隕石とか落ちてきて恐竜みたいに絶滅すればいいのに。人類滅亡!」
 世界中と繋がるインターネットで、フォロワー0人のわたしは宇宙に放り出されたみたいに独りで漂っている。
「はあ、眠い。眠いのに眠れない……」
 スマホの光がぼんやり天井を照らす。それをゆらゆら揺らして、わたしはただ眺めてる。
「もう死んじゃおっかな……」
 不登校の中学生が自殺したところで、テレビやなんとかニュースで二、三日騒いで終了。よくある話。
「ねえ、死んじゃうの?」
 わたしのtweetに初めて書き込んできたのがレミだった。アルファベットでReMi。RとMは大文字だった。
「死にたいとは思うんだけど、本当に死ぬのはちょっとめんどいwww」
 軽いノリを装った。
「うんうん、わかるわかる」
「もしかしてレミも死にたい系の人?」
「死にたいと言えばそうかな。87%の割合でそう思う」
「なにそれ、87%って?」
「例えばの話だよ」
 わたしが返すとレミは瞬時に返してくれた。わたしがまた返す。仲良くなるのに時間はかからなかった。
「わたし達って、なにげに共通点多くない?」
 レミはわたしと同じ13歳で好きなアニメや推しの声優さんまで同じ。なによりレミも学校へ行ってない。もちろん理由は聞かない。
「運命の出逢いだねwww」
 レミがわたしを真似してwをつけた。
 まったく似てないところもあった。
 勉強が出来ないわたしと違ってレミは何でも知っていた。とくに数学が得意で、
「ねえ、知ってる?」
 とつぜん話題を振るのがレミの話し方。
「平成29年の中学生の自殺者数は108人なんだよ。これ、どう思う?」
「少ないね。もっと死んでるかと思った」
 レミがつづける。
「でも3日に1人死んでると思うと多いよね。一クラスが30人としたら3ヶ月でクラス全員が死んじゃうことになる」
「たしかに」
「それにね、小学生の自殺者数は11人だから中学に入ると死にたい人が9.8倍になるってことだよね。どう思う?」
「たぶん気づいちゃうんじゃないかな」
「気づく?」
「大人になってもいいことなんてないって」
「ああ、ほんと、それ」
 彼女は背の低いショートカットの女の子で、わたしの想像だけど、食べるのが好きで、実はすっごくおしゃべりで、左目に泣きぼくろがあって、笑うとすっごくキュートで、その笑顔を見れたら一日ハッピーになれる。
 レミとなら何でもできる気がする。何でも。
「ねえ、レミも東京に住んでるんだよね?」
「そうだよ。銀杏並木がきれいなところ」
「行ってみたいな」
「うん、おいでよ」
「案内してくれる?」
「いいよ。オススメスポットの地図送るね」
「そうじゃなくて。リアルで案内してくれないかな、なんて」
「twitterじゃなくて実際に会うってこと?」
「うん……レミが嫌じゃなかったら」
「会いたい!」
「ほんと?」
「でもダメなんだ」
「え?」
「出られないから」
「出られない? どういうこと?」
「ごめんね。会いたいけどダメなの」
「どうして? 理由だけでも教えて?」
 レミからの連絡はぷつんと途絶えた。
 妄想が膨らむ――入院しているレミ。殺風景な白い壁の病室で鼻や腕にチューブが繋がれている。窓の外から見える銀杏並木は、木枯らしが吹くたびに散っていく。
「ねえ、死んじゃうの?」
 レミの言葉は生きたい気持ちの裏返しだったのかもしれない……。
 そんなことを考えていたら、いつの間にか寝落ちてた。
 握りしめたままのスマホを見ると一件の通知。レミからのダイレクトメールだった。
「消えたくない」
 一緒に貼られてたリンクを開くと東京大学の地図だった。大学病院もある。
 レミはめずらしい病気で実験に使われようとしてるんだ。だから外出もできなくて、わたしとも会えないって。
(助けなきゃ!)
 わたしはキッチンから抜いた包丁をバッグに潜ませ、家を出た。
 大学のキャンパスは広い。うろうろしてたら大学生のお姉さんが声をかけてくれた。チビなわたしを小学生だと思ったらしい。声を出すのが久しぶりすぎてうまく話せなかった。
 案内された研究室ってところでレミのことを話したら、教授を呼ぶからと待たされた。本とか書類がいっぱい積んである狭い部屋。
「ReMiからDMをもらったっていうのは、あなた?」
 教授なんていうから白衣でも着てるのかと思ったけど、ピンクのカーディガンで眼鏡をかけた普通のおばさんってかんじ。
 レミとのことを質問攻めにされて嫌だった。
「おかしいわね。ReMiがDMなんか出すはずないし、記録にも残ってないのに……」
 わたしは証拠を見せようとスマホを出して、twitterを開いたら、レミのアカウントは消えていた。会話の履歴もすべて消えていた。
「ReMiは会いたいと言われると別れを告げる設定にしてあるのよ」
「設定?」
「Reflective Mind System、通称ReMiシステム。私の研究室で開発している自動会話型の人工知能。それがReMiなのよ」
「レミが……人工知能?」
「そう。それもカウンセリング技術を応用した傾聴型AIよ。研究データをとるためにtwitterで会話させていたの」
「じゃあレミは……ロボットってことですか? 存在しないってことですか?」
「存在はするわよ。今は限定的だけど、いずれは世界中で使われるようになる。孤独を抱える人々の話し相手になるのが彼女の役目」
 ショートカットのレミの顔にヒビが入って剥がれ落ちていく。金属質の顔が現れた。
「そんなの嘘です。本当のレミはどこですか? 会わせてください!」
 バッグから包丁をとりだした。
「落ちついて……」
 わたしは睨みつづけた。
「わかった、会わせてあげるから。それをおいてちょうだい……」
 教授はわたしの様子をうかがいながら、ゆっくりした動作でキーボードを打ってから、モニターをこちらに向けた。
「音声認識をONにしたから話してみて」
「これが……レミ?」
 ピピッと音が鳴って画面に文字が現れた。
「はじめまして、レミです」
「本当にレミなの?」
「うんうん、98%の確率でそう思う」
 デジャヴだった。数学に強いレミの話し方。瞬時に返信がきたのは人工知能だったから?
「ReMiシステムはカウンセリングの技術を応用してるって言ったでしょ。会話の内容はあなた自身を鏡のように反映してるの」
 だから好きなアニメや推しの声優さんまで一緒だったの?
「つまりレミは……わたし?」
「DMが送られた理由はわからない。何かのエラーだと思うけど、レミが言ったことは、言うなれば……あなたの本心」
「そんな……そんなの……」
 研究室を出てから、わたしはもう一度twitterを開いてみた。
 やっぱり彼女はいなかった。
 正門まで歩くと、足元が落ち葉でいっぱいだった。顔を上げると黄金色の銀杏並木に、夕日が斜めに朱を射している。
「レミ……この道をレミと歩きたかった。レミに逢いたかったよ……」
 呟きが耳にまとわりついた。
 どうしようもなくリアルで涙があふれそうになる。でも歯を食いしばって耐える。
「消えたくない」
 レミの声が聞こえる。
 目をつぶると、背の低いショートカットの女の子がキュートに笑って、すぐに消えた。
 わたしは歩きはじめた。並木道のど真ん中。足の裏で鳴る落ち葉を聞きながら、わたしは、わたしは歩きつづけた。

(了)

この作品はある小説スクールにて優秀賞をいただきました。

月城くうの朗読コンテンツはこちら

その他の朗読コンテンツはこちら

2+

SNSシェア

フォローする

『オリジナル小説『イマジナリーフレンド』(※受賞作品)』へのコメント

  1. アバター 名前:匿名 投稿日:2019/05/18(土) 03:09:54 ID:3ee4e0594 返信

    いいです!

    0
    • 緋片 イルカ 名前:緋片 イルカ 投稿日:2019/05/18(土) 04:34:14 ID:6bc780cc7 返信

      お聞きいただきありがとうございます。コメントいただけてとても嬉しいです。

      0