「キャラクターコア」(三幕構成2)

初心者の方はこちらからどうぞ→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

【主人公のセットアップに必要なものは?】
プロットを考える6「主人公のセットアップ」では、紹介しておくべき要素として
・願望
・家庭
・仕事
・遊び
を挙げました。このうち願望以外の、家庭、仕事、遊びは設定の部分に属します。
人物紹介として最低限見せておくべきことを忘れないようにという意味あいですが、願望についてはとても重要なので改めてとりあげます。

【群衆の中で主人公だと伝えるには?】 
たとえば、駅や街中のような人がたくさんいるようなシーンで物語が始まったとします。
この中で、誰が主人公かをどうやって伝えたらよいでしょうか?

小説であれば「私は~」と一人称で初めてしまえば、とりあえず伝わります。
三人称であれば固有名詞としての名前がでてくれば、主人公なのかなと思います。

では「太郎と花子は駅前で待ちあわせをしていた」とあったら?
太郎の方が前に書いてあるから、主人公?という予感はあります。
これが「父と娘」のような関係であったら、花子が主人公でも、文章として父である太郎を前に置いた方が自然になる場合もあります。

重要なのは、読者が「この人物が主人公であると認識する」ことで、自然とそうなるように物語を進めることです。

そのためのテクニックが「願望」を示すことです。
「願望」とは目的程度でもかまいません。

たとえば……
朝の駅。通勤ラッシュの時間帯。人の流れに逆らって走る人物がいる。
これだけで見ている人は「なんだろう?」と興味をいだきます。

【アイドマの法則を応用する】
広告業界で使われる、アイドマの法則というのがあります。
人が商品を買うためには5段階があり、
Attention(注意)
Interest(関心)
Desire(欲求)
Memory(記憶)
Action(行動)
の頭文字をとって、AIDMAの法則です。
読者・観客に「なんだろう?」と思わせるのは、周りと違うことをすることで「注意」をひく段階です。
ちなみに、映像であれば、役者が有名とか、カメラがクローズアップすることでも主人公であることは伝わりますが、それは演出上のビートであって、脚本でそれ前提にするのは未熟な物語です。
自分が演出家であれば、脚本が弱いから、あえて演出でビートをつけるという小手先のテクニックはありますが、まずは脚本段階でビートを組み立てるべきです。

さて、例文にもどると……
人の流れに逆らう主人公に迷惑がる周りの人。
「お願いします。ちょっと通してください」と必死な主人公。悪い人ではない。何か理由があるのだろう。
読者・観客は「感心」を惹かれて、理由を知りたいという「欲求」を抱きます。

このシーンで、理由が明かされなくとも、このキャラクターは「記憶」に残り、後で再びでてきたときには、「ああ、あの人だ!」と感じるはずです。
そして、理由が明かされたときには読者・観客の「行動」、好きになるか嫌いになるか、つまりは共感されるかどうかになります。
たとえば「ただ車内に忘れ物の傘をとりに行こうとしただけ」だとしたら、読者・観客は「な~んだ」と思うぐらいです。しかし、その傘が実は「とても意味のある傘」だったとしたら……?
あるいは「満員電車の車内で息子がいなくなった」となれば、必死なのも頷けますし、一般的にはその人物の行動に共感はできます。

【キャラクターの核】
ここまでをまとめると、まずプロット上の「主人公のセットアップ」(=ビートを機能させる)のために「主人公を目立たせる」こと。
そして、その人物の「理由」や「原因」を明かすことで共感されたり、されなかったりする。
その「理由」や「原因」は、行動の原因であったり、もっと深い、その人の過去のトラウマや潜在意識に根差している場合もあります。
こういうものを「キャラクターコア」と呼びます
(これはハリウッド用語ではなくイルカの造語です)

このキャラクターコアは、人物の成長・変化や物語のテーマ自体に影響する場合もあります。

【参考:10の教訓】
『SAVE THE CATの法則で売れる小説を書く』には「内面的ゴールとか本当に必要なものというのは、大体どれも次に挙げる10の普遍的教訓のバリエーションだということ」とあり、以下の10つが挙げられています。

1 赦し(自分または他人)
2 愛(自己愛、家族愛、恋愛)
3 受容(自分を受け入れる、状況を受け入れる、現実を受け入れる)
4 信念(自分への、または他人、世界、神に対する)
5 恐れ(乗り越える、克服する、勇気をつかむ)
6 信頼(自分を、他人を、未知の何かを)
7 生き残る(生き残りたいという心も含む)
8 無私(自己犠牲、他愛、英雄的行動)
9 責任(任務遂行、大事なことのために起こす行動、運命の受容)
10 罪滅ぼし(贖罪、罪を受け入れる、罪悪感、魂の救済)

キャラクターコアとしては、これらの反対、例えば「自分を赦すことができない」状態から物語を始めて、アクト2の旅を経て「自分を赦せるようになる」ことが成長になるのです。

緋片イルカ2019/05/03

「プロットを考える」の過去のリストはこちら

構成について初心者の方はこちら→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

三幕構成の書籍についてはこちら→三幕構成の本を紹介(基本編)

三幕構成のビート分析実例はこちら→がっつり分析シリーズ

文章表現についてはこちら→文章添削1「短文化」

文学(テーマ)についてはこちら→文学を考える1【文学とエンタメの違い】

キャラクター論についてはこちら→キャラクター概論1「キャラクターの構成要素」

「物語論」すべてのリストはこちら

このサイトの紹介はこちら

SNSシェア

フォローする