「設定」と「世界観」と「主人公」(三幕構成44)

物語作品について「設定がが面白い」という言い方はよくされると思います。

けれど「設定」「キャラクター」「ストーリー」といった要素を切り離して考えている人は少ないのではないでしょうか?

たとえば「人の記憶を消す能力」があるとします。

当然、主人公がもっている能力ということになりますが、これは「設定」ですか? 「キャラクター」ですか?

厳密に切り離すことなんてできないし、する必要もないのですが、それでもあえて切り離して考えてみることで、見えてくるものがあります。

「人の記憶を消す能力」を持つ主人公は、これまでたくさんいたはずです。(そもそも好きなマインドアサシンからとりました)

それだけで斬新とかオリジナリティがある物語になるような「設定」は、もはや皆無と言っていいでしょう。人類の2000年以上の物語の歴史で、どこかに必ず似たような話があります。

新しく見える「設定」があるとすれば、その読者・観客にとって初めてであるだけとか、表面上の装いが当世風になっているので新しく見えるといった程度です。

裏を返すなら、これまで使い古されてきた「設定」をどう新しく見せるかが、現代物語のポイントになるのです。

さきの「人の記憶を消す能力」は「設定」か「キャラクター」かという質問に答えるなら、僕は「設定」だと考えます。

「設定」はストーリーサークルの題材に含まれます。

「人の記憶を消す能力」は主人公の能力です。しかし「人の記憶を消す機械がある世界」となると設定になります。

つまり「人の記憶を消す能力」は主人公の設定でしかないのです。(補足:主人公は設定があってもwantがなければ動きません)

ファンタジーやSFの物語を創る人が陥りがちなのが「設定」だけを考えて満足してしまうことです。

わかりやすいように「人の記憶を消す機械がある世界」で考えてみます。

それは、どんな機械でしょうか?

大がかりな機械で、ごく限られた人しか使えないレアな装置だとします。高額かもしれません。

誰が作ったのでしょうか?

普通にリアリティをもって考えるなら研究者でしょう。国や大企業の研究機関でしょうか。

そこに利権が絡んだらどうでしょう?

サスペンスの空気感が漂います。

「設定」に空気感が漂うと「世界観」となっていきます。「世界観」は物語に大きく関連します。

主人公「探偵」「刑事」「スパイ」などになっていく可能性が高いでしょう。

装置を作ったのが、民間の科学者だったらどうでしょう?

悩みを抱えた人たちがやってきくるような一話完結のハートフルなストーリーが始まるでしょうか?

しかし誘拐して記憶を消す実験をしているマッドサイエンティストだったら、ホラーになるでしょう。

キテレツ(『キテレツ大百科』)のような天才少年が作ったとしたら、リアリティよりも展開優先のゆるいマンガになるかもしれません。

恋と青春もののストーリーを展開したいなら高校生が部活で作ってしまった設定もあるかもしれません。

そうなってくると、高額な機械といよりは、もはやスマホアプリかもしれません。

いずれも同じ「人の記憶を消す機械がある世界」という設定なのに「世界観」がまるで違います。

設定だけ考えて満足してしまう人は、想像が好きな方なのでしょう。

その世界でのルールや歴史などまで、細かく考えていくのが好きで「世界観」を作るのが得意な人もいます。

RPGゲームでいえば、街やアイテムを作っているだけです。

「主人公」がいなくては冒険が始まりません。物語にはならないのです。

もちろん「主人公」と「世界観」は噛み合ってなければなりません。

ハートフルなストーリーを作ろうとしているのに、スパイが登場したら「世界観」が崩れてしまいます。

「人間の頭の中」という「題材」を扱った映画を比べてみましょう。

エターナル・サンシャイン

「記憶を消す装置」が登場します。
そこに、失恋からつらい記憶を消したいという主人公。
共感しやすいテーマを盛り込んだ名作ドラマです。

インセプション

インセプションは他人の頭の中に侵入して「アイデアを盗む」という主人公です。
主人公(ディカプリオ)のトラウマといったキャラクターとしての側面はともかく、メインストーリーはアクション、サスペンスものです。

インサイド・ヘッド

タイトル通りある少女の「頭の中」自体が物語の舞台です。
ヨロコビとカナシミという感情が擬人化された主人公によって独特な「世界観」を描いています。
ストーリーとしては迷子から戻るといった平凡な展開で、世界観こそ魅力的ですが、物語としてはやや魅力に欠けます。

同じ「設定」でも、いろんな描き方があります。

これは食材をどう料理するかに似ています。

味付けは濃い方がいいのか? 薄口にして素材の味を活かすか?

「主人公」と「世界観」をバランス良く整えることで、おいしい物語になるのです。

とくにSFやファンタジーのように「世界観」が先行している物語では、その世界の魅力を引き出せる「主人公」が大切になるのです。

緋片イルカ 2022/01/28

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