三幕構成の短編への応用:ミニマムビートシート(WISビート)(三幕構成10)

初心者の方はこちらからどうぞ→初心者向けQ&A①「そもそも三幕構成って何?」

プロットを考えるシリーズでは物語を構成する要素ビートについて考えてきました。
しかし、原稿用紙5~10枚といったショートショートのような長さではすべてのビートを入れ込むのは難しく使いづらい側面もあります。
ビートシートが2時間映画から発展してきたことに由来するのかもしれません。
そこでもっと使いやすく、最小単位だけで考える物語の構造を提案します。それを「ミニマムビートシート」と呼ぶことにします。

【ミニマムビートシートは3つだけ】
アランダンダスの分析によるとおり物語は「不均衡」と「均衡」という二つの構成単位で成立します。
これらを「事件」と「解決」と呼び変えます。
またキャラクターの側面から、主人公を動かすための要素として「WANT」だけを抜き取ります。WANTは言葉のとおり主人公の「ほしいもの」「したいこと」などです。

ミニマムなビートシートは3つだけ。
・「WANT」
・「事件」(Incident)
・「解決」(Solution)
これだけで物語は成立させられます。

【ミニマムビートシートの実例と応用】
「消えた息子A」
・母親が仕事を終えて、息子を保育園に迎えにいくと見あたらない。保育士とともに、慌てて園内を探す。園長室で、園長先生をウマにして遊んでいた。「このヤンチャ坊主を早く連れて帰ってくれて」とタジタジの園長先生。おわり。

べつに面白さや驚きはありませんが、四コママンガの展開を想像してみたください。クレヨンしんちゃんのようなキャラクターの1エピソードであれば十分、成立しています。

この話をビート分析すれば、以下です。
WANT:息子を連れて帰る
事件:息子がいない。
解決:園長先生と遊んでいた。

「消えた息子B」
・母親が仕事を終えて、息子を保育園に迎えにいくと見あたらない。保育士とともに、慌てて園内を探す。トイレへ行くと血痕がある。慌てるがそれは別の園児が鼻血を出して処理していただけだった。園長室で、園長先生をウマにして遊んでいた。「このヤンチャ坊主を早く連れて帰ってくれて」とタジタジの園長先生。おわり。

Aの話に太字の部分が追加になっただけです。これをビート分析すると、以下です。

WANT:息子を連れて帰る
事件1:息子がいない。
事件2:トイレに血痕。
解決2:園児の鼻血だった。

解決1:園長先生と遊んでいた。

Aの「事件」→「解決」の間に、もう一つ別の「事件」→「解決」が入り込んだだけです。しつこいようですが、もう一つだけ加えてみます。

「消えた息子C」
・母親が仕事を終えて、息子を保育園に迎えにいくと見あたらない。保育士とともに、慌てて園内を探す。トイレへ行くと血痕がある。慌てるがそれは別の園児が鼻血を出して処理していただけだった。その園児は息子くんならさっき砂場にいたというので行ってみると、砂に埋まっている人。しかしまた別の園児が遊んでいるだけだった。「園長先生の部屋に行ったよ」。園長室で、園長先生をウマにして遊んでいた。「このヤンチャ坊主を早く連れて帰ってくれて」とタジタジの園長先生。おわり。

Aの話に太字の部分が追加になっただけです。これをビート分析すると、以下です。

WANT:息子を連れて帰る
事件1:息子がいない。
事件2:トイレに血痕。
解決2:園児の鼻血だった。
事件3:砂場に埋まっている子供。
解決3:別の園児だった。

解決1:園長先生と遊んでいた。

「事件」→「解決」を増やすだけで物語が長くなっていくのはおわかりいただけたかと思います。
では、もう一つ増やしてみましょう、と言ったらどうでしょう?
しつこいと思いませんか?

解決1の園長先生と遊んでいたというオチの弱さに対して、回り道しすぎになりそうです。
あくまでミニマムな物語のためのビートシートなのです。

【ミニマムビートシートはシーンのビートでもある】
ここで「消えた息子C」のラストを変えてみます。

・母親が仕事を終えて、息子を保育園に迎えにいくと見あたらない。保育士とともに、慌てて園内を探す。トイレへ行くと血痕がある。慌てるがそれは別の園児が鼻血を出して処理していただけだった。その園児は息子くんならさっき砂場にいたというので行ってみると、砂に埋まっている人。しかしまた別の園児が遊んでいるだけだった。「園長先生の部屋に行ったよ」。園長室へいくと、園長先生もいない。窓が割れている。園長先生が誘拐した? それとも誰かが侵入してきて二人を連れ去った? あるいは……?

サスペンス・ミステリーの始まりになります。ここからは大きな物語になっていくので通常のビートシートで考えるべきです。
「息子がいなくなった」という事件を「カタリスト」ないしは「PP1」としてアクト2が始まっていくのです。

このとき、「トイレに血痕」「砂場に埋まっている子供」の2つの「事件」→「解決」エピソードは「シーン」となります。
全体から見て無意味なシーンであったり、他のいいシーンを時間的に圧迫するようであればカットすべきですが、ただ園内を捜し回っている様子を見せるよりは、メリハリがついて観客・読者はドキっとします。このドキっがビートの本質です。

ミニマムビートシートは、シーンのビートシートとしても応用できるのです。

【WANTが変わるとシークエンスが変わる】
次のシーンでは、この母親は「警察に連絡する」「夫に連絡する」「状況の進展を不安に待つ」といった行動をしていくでしょう。
その場合は2つめの「WANT」が加わったことになります。

・通報を済ませて、夫とともに不安に待つ母親。そこへ電話が鳴る。

これで、新しい「事件」です。この積み重ねで物語は進んでいきます。

緋片イルカ 2019/07/17

※ミニマムビートシートを活用した創作の集まりを開くことを検討しています。ご興味のある方がいたらご連絡ください。→メールtwitterのDMからどうぞ。→『第一回イルカとウマの読書会』参加者募集 ※空きあり

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